表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/62

第53話:五人の天才と一人の暗殺者

アルスが転移の光と共に消えた後、地下通路には、カイエンとルナが、互いに得物を構えたまま、睨み合っていた。


だが、彼らの間にあった、張り詰めた空気は、もはや霧散していた。


「……行ったか」


カイエンが、炎の剣を収めながら、小さく呟いた。


「ええ。あなたのおかげでね」


ルナもまた、小太刀を鞘に納める。


彼らは、最初から、戦うつもりなどなかった。


カイエンがアルスの前に立ちはだかったのは、第一王子アウグストゥスに「アルスを捕らえた」と偽りの報告をするための、芝居だったのだ。


「……それにしても、驚いたわ。あなたが、アルス側につくなんてね。てっきり、権力に尻尾を振るタイプだと思っていたけれど」


ルナが、皮肉っぽく言う。


カイエンは、気まずそうに、頭を掻いた。


「……うるせえ。俺は、ただ、あのアルスって変人せんせいに、借りがあるだけだ。あいつには、空を飛ぶっていう、ガキの頃からの夢を、見させてもらったからな。その借りを、返すだけだ」


その時、通路の奥から、騒がしい足音が近づいてきた。


リズ、ガルム、シルフィ、そしてファントムが、息を切らしながら駆けつけてきたのだ。


「カイエン! 大丈夫!?」


「……お前ら、なぜここに?」


「当たり前でしょ! あんたが、一人でアウグストゥス王子に呼び出されたって聞いて、嫌な予感がしたから、後をつけてきたのよ!」


リズが、頬を膨らませて言う。


彼らは、カイエンが裏切ったとは、微塵も思っていなかった。


仲間を、信じていたのだ。


その事実に、カイエンは、照れくさそうに、しかし嬉しそうに、口の端を吊り上げた。


だが、感傷に浸っている暇はなかった。


通路の向こう側から、今度は、本物の追っ手――アカデミーの警備魔術師部隊が、殺到してきていた。


「侵入者だ! 取り押さえろ!」


「カイエン様も、ご無事でしたか! そこの女が、首謀者ですな!」


警備兵たちは、カイエンが味方だと信じ込み、ルナ一人に攻撃を集中させようとする。


絶体絶命の状況。


だが、カイエンは、不敵に笑うと、仲間たちの前に立った。


そして、彼は、あろうことか、味方であるはずの警備兵たちに向かって、炎の剣を向けたのだ。


「―――悪いが、通すわけにはいかねえな。こいつらは……いや、俺たちは、アルス先生の、生徒なんでね!」


その言葉を合図に、5人の天才たちが、一斉に動き出す。


「面白くなってきたじゃない!」


「先生に、うまい飯、おごってもらわねえとな!」


『アルケミスト・ウィングス』と、アカデミー警備隊との、壮絶な脱出劇が始まった。


彼らは、自分たちが開発したばかりの、奇想天外な魔導具を惜しみなく使い、警備兵たちを次々と無力化していく。


そして、その乱戦の最中、彼らを導いたのは、暗殺者ルナの、冷静な判断力だった。


「……こっちよ! この先に、古い下水道があるわ! そこからなら、アカデミーの外に脱出できる!」


彼女は、この短時間で、アカデミーの、全ての脱出経路を、完璧に把握していたのだ。


彼らは、ルナの先導に従い、下水道を駆け抜け、ついにアカデミーの外への脱出に成功する。


そして、彼らは、夜の王都を、一路、アルスが向かったであろう街へと、ひた走った。


アルスが王城でアウグストゥスと対峙し、馬で脱出する、その時間差を埋めるために。


彼らが、アルスの故郷の街にたどり着いたのは、ちょうど、王都の正規軍が、街に到着する、半日前のことだった。


彼らの合流は、絶望的な状況にあった、アルスたち反乱軍にとって、何よりも心強い、希望の光となった。


カイエンの強力な攻撃魔法、リズの錬金術による兵器開発、ガルムの圧倒的な突破力、シルフィの防御結界、そしてファントムの諜報能力。


五人の天才の加入は、寄せ集めの義勇兵たちを、正規軍と渡り合えるだけの、強力な精鋭部隊へと、変貌させたのだ。

評価、ブックマークしていただけるととても今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ