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春咲菜花のエッセイ

逃げてた私が跳び越えたもの

作者: 春咲菜花

私、春咲菜花はとんでもない場面に遭遇していた。

跳び箱である。

人によってはただの体育の道具。

でも、私にとっては天敵だった。

跳び箱ができる人には大袈裟だと思われるかもしれない。

しかし、私は跳び箱が大の苦手だ。マット運動と同じレベルで苦手だ。

マット運動はできるものがあるからいい。

でも、跳び箱はミリ単位でもできないのだ。


「安心して。私もできない。てか、やる意味あるの?」

「私はできる。お前ら違ってな。まぁ、跳び箱なんていつやるんだって話だし、できなくてもいいんじゃない?」


友達の友梨ちゃんと藍ちゃんとの会話。

心強いようで、心細くもある。

今年は中二。

少しでも通知表を上げたい。


「今まで菜花跳び箱なんて飛ぼうとしてなかったじゃん。急にどうしたの?」

「通知表を上げたい……」

「あー……」


藍ちゃんは私を労るような目で見た。


「とりま行こう」


そう言って藍ちゃんは私と友梨ちゃんを体育館へ連れ出した。

気が重いなぁ……。

体育館にはもう跳び箱があった。

その周りにはマットも敷かれている。


「ひぇえ……」


思わず悲鳴が出るその光景は地獄としか言いようがない。

昔、小学校の頃の担任に無理矢理飛ばされたことがある。

かなり強引で、跳び箱にはいい思い出がない。

しばらくすると体操が始まり、授業開始のチャイムが鳴る頃には整列が完了していた。


「それじゃあ、今日から跳び箱を始める。跳び箱のフォームはこんな感じだ」


先生が跳び箱の説明をし始めた。

このまま授業が終わってくれ。

そう思っていた。


「じゃあ、練習を始めてくれ。右側は苦手な人用、左側は得意な人で分かれてくれ」


ぞろぞろとクラスメイトが行くべき場所に行き始めた。

私は先生のところに行った。


「先生、跳び箱できません……」

「おぉ、春咲。いつもの勢いはどこ行った?」

「それどころじゃないです」


私は体育の先生にはよくふざけたことを言ったりしている。

だから、重い雰囲気を纏う私に驚いたのだろう。


「まぁ、数こなすしかないよな」

「ですよねぇ……」

「跳び箱が無理でも、台上前転とかをやればいいだろ?」


実はこの授業、苦手な人のための保険もある。

それが台上前転や後転で代替可能なのだ台上前転や台上後転などだ。

でも、跳び箱を跳ばなければ点数は上がらない。

私は先生にそれを訴えた。


「できないよりもやった方が点数高いじゃないですか」


私がそう言うと、先生は目を見開いた。


「驚いたな。春咲が体育の苦手なやつに正面からチャレンジしようとしてるのは」

「失礼ですね。私やればできる子、YDKなんで」


先生は苦笑してから、他の生徒のところへ行った。

やるしかないよね。

私はできない人のための跳び箱の列に並んだ。

クラスの半分以下の人ずつではあるけど意外といるな。

他の人の跳ぶところを見ても、大体の人が跳び箱の上に座ってしまっていた。

かくいう私も座ってしまった。

けれど、何度跳んでも、私は跳び箱の上に座るだけ。

45分間、跳んで跳んで跳びまくっても結果は変わらなかった。

今日跳べるようになった人もいるのに、私を含めた一部の人はまだ跳ぶことはできなかった。


「これ、残り四回でなんとかできるのかな」

「できなくてもよくない?」


友梨ちゃんが言った。

絶対ダメだろ。

友梨ちゃんは成績とかのことをあまり考えていない。

下がっても別によくない?思考だから。

そんなふうに跳び箱の始まりの授業は終わった。

明日こそは跳べるといいな。


◇◆◇


――数日後


今日は四回目の授業。

一回目の時よりも跳べない人が減っている。

大体六人くらいかな。


「春咲はここに肩があるから、この辺に手をつくといいんじゃないか?」


私は先生に跳び箱のコツを聞いていた。

手の置く位置に気をつければいいらしく、それを分析してもらうために、私は跳び箱に仰向けになっている。


「奥の方に置けばいいけど、自分の体格に合った手の置き場があるからそこを見つけるといいぞ」

「分かりました」


私は跳び箱から降りて、助走をつける場所まで行った。

跳べる気がしないな。

私は助走をつけて跳び台に乗った。

そして、アドバイスされた位置に手を置いた。

けど、飛び越えることはできなかった。

何でできないんだよ。

もうずっと飛んでるのに……。

悔しい。


「春咲は腕の位置やフォームは綺麗なんだが、腕でブレーキをかけてるんだよなぁ……」


腕でブレーキ……。

確かに飛び越えるっていうより、手をつくことしか考えてなかった。

それより、腕が痛い。

足も痛い。

ここ二日間ずっと跳び続けてるからかな。

もうやめたい。

できる気がしないのに、私は何でこんなに必死になってるんだろう。

でも、ここでやめたら今までと同じだ……。

それはなんだか嫌だ。

私は跨っていた跳び箱から降りて、また列に並んだ。

全くできる気がしない。

きっと恐怖心を捨てきれてないんだ。

私はその後も跳び箱を跳び続けた。


◇◆◇


今日で最後の授業。

一日空いてるから感覚を忘れているかもしれない。

腕も足も筋肉痛で痛い。

こんなんで跳べるのかな。

四回目の授業でいた人達の内の三人は跳べるようになったみたい。

残りの三人はサボり癖があるから、実質私しか跳び箱をしてないんだよね。

もうずっと跳んでるのになんで跳べないんだろうな。

私は助走をつけて跳び台に乗って跳び箱を飛んだ。


「飛べた!?」


そう思って、思わず口にしたけど、お尻が少し引っかかってしまった。

私はそのまま受け身も取れずに跳び箱から落ちた。

いつも上に座るだけだから、思いっきりお尻をぶつけた痛みと落ちた痛みが同時にきて驚いた。


「春咲!大丈夫か!?」

「だ、大丈夫でぇす……」


私は親指を立てて先生に無事を伝えた。

くっそぉ……。

跳べたと思ったのにぃ……。

というか、あとちょっとじゃない?

私は時計を見た。

あと五分……。

もうテストしちゃうかな。


「春咲、手をついて離した時に背中をそらしてみろ」

「分かりました……」

「……大丈夫か?」

「はい」


先生は私が疲れていることを分かっているんだろうな。

でも、ここまで来たら最後までやりたい。

私は助走をつけて跳んだ。

でも、またお尻をぶつけた。

背中をそらしたのにな。

何度も何度もチャレンジしたけどできなかった。

もうこれが駄目だったらテストしよう。

他の種目でなんとかすればいいか。

これだけ頑張ったんだ。

成績は少し上がるはず……。

そう思いながら、私は助走をつけた。

この動きは何回目なんだろうな。

これで正真正銘最後だ。

何十回とやってきた動きで私は跳び箱を跳び越えた。

お尻が引っかかることもなく、腕でブレーキをかけることなく、私は跳び箱の向こう側にあったマットの上に降り立った。


「と、跳べた……」


私は着地したときの姿勢から動けなくなってしまった。


「や……やったぁぁああああ!!」


周りの女子が歓声を上げて、向こう側にいた男子も私を温かい目で見て拍手をしてくれていた。

私はその光景や跳び越えることができた達成感で泣きそうになっていた。


「先生!」

「よくやった!春咲!テストするぞ!」


心なしか先生は少し涙目なように見える。


「はい!」


私は先生に返事をして、再び助走をつけて跳び箱を飛び越えた。

跳べてる!

嬉しい!

この五日間が報われた気がした。


◇◆◇


五日前、私はいつも逃げ続けていた跳び箱と初めて向き合った。

高いものを跳び越える意味なんてない。

そんなことするくらいなら回り道をすればいいじゃん。

そんなことばかり考えていた。

正直、小学生の時の私が今の私を見たらびっくりするだろうな。

最後の跳び箱の授業でちゃんと跳び箱を跳べた時、歓声が上がったことに驚いたけど、それよりも嬉しさが勝った。

みんなはちゃんと私の努力を見てくれていた。

それだけでも嬉しい。

先生もとても嬉しそうだった。

ずっと「どうせできないから」と逃げて、諦めて、練習することをしなかった。

でも、諦めずに練習することは成功につながる。

諦めるのは簡単で頑張るのは難しい。

難しくても、逃げずに向き合えば、何かが変わる。

跳び箱の授業はそんな当たり前なことに、初めて気がついた授業でもあった。

みなさんこんにちは春咲菜花です!「転落事故で入れ替わり!」投稿まで残り一週間です!「転落事故で入れ替わり!」の第一話が書けたので、エッセイを書いてみました。正真正銘私のエッセイです!去年の話ではあるのですが、今でも跳び箱を跳べたときの感覚を鮮明に覚えています。苦手なことに挑戦するのは本当に大変でしたが、達成感がえげつなかったです。みなさんも苦手なことがあれば、無理せず、少しずつでいいので挑戦してみてください!

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― 新着の感想 ―
春咲さん!!!!!!ご立派ですう!!!!!!!!!!苦手なものを克服しようと努力するなんてぇ!!!!!!!!そして初(多分)エッセイありがとうございます!!!!!!!!春咲さんの性格などが分かり、嬉し…
これ実話なんだ!私も跳び箱苦手だったから、あきらめずに挑戦する姿がすごくかっこいいなと思ったし、このお話を読んで勇気をもらえました☺️私も頑張ろう!
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