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第四十四話 倉田という男

『……?』


 スケキヨは再び目を開けると目の前には横たわるスケキヨがいた。


『え? どういうことだ? ……す、スケキヨ!!! 起きろ!!!!』


 だが声をかけても聞こえていないようだ。

 次の瞬間


「大丈夫です、まだ生きていますから」


 と後ろから聞こえたのは倉田。黒いスーツを着て歩いてきた。


 それと同時にスケキヨは大きな欠伸をしてまた寝た。

 そう、寝ているだけである。


『これはどういうことだ! 倉田さん』

 スケキヨ、でなく大島は倉田を見るとしっかりと倉田は目を合わせてきた。

 

 少し恐ろしさを感じる瞳だ。


『ここはどこだ。病院……か。三葉たちは?』

「三葉さん、またショックで倒れて……切迫流産しかけててすぐ近くの産婦人科に運ばれて。みんなあっちへ」

 

『三葉……三葉……流産……』

 実のところ一度三葉は流産したことがあったのだ。


「多分安静にしていれば良いでしょう……心配なさらず」

 と倉田は寝ているスケキヨを撫でた。

「あなたはスケキヨに転生しましたが……適応せず……このままでは栄養失調で死ぬところでした。だからあなたをスケキヨから抜きました。あ、怪我は関係ないので……少しずつ治るでしょう」

『抜く? え? てか生まれ変わりならこれは俺だろ?』

「ですけども生まれ変わりというよりもスケキヨに乗り移った、と言った方が早いでしょう」

『……どういうことだよ。もし可能な限りスケキヨとして三葉たちのそばにいたいのに』

「……未練たらたらだな」

『中にいるのは俺じゃなくてなんなんだよ』

「奥に眠っていたスケキヨです。彼も記憶を共有していますのでしばらくしたら慣れるでしょう」

『……まじかよ、これは俺じゃなかった……?』


 大島は今の自分の体を確かめようとしたがそれができない。ただ存在自体はあり見える、聞こえる、話せるくらいである。


『じゃあこれはいったい……』

「人魂の状態ですね。私とだからこうして話すのとかできる。美守くんもね」


『人魂……』

「私がいるから喋られると思ってください。喋るというか念という概念ですが」

 その言葉はとても不気味さを感じられる。がそれよりも……。


「あなたは一体……ただの社長じゃない……あっ」

 言ってるうちに思い出したのだ。


 美守が倉田を見て怯えていたことを。

『……』

「あまり詮索するとダメですよ。こうして私と話せてる、という事はそれの反対のことができる……とでも思ってください」

 と不気味に笑う倉田。


『ばっきゃろー! なんだお前! ちゃんと話せ!』

 と大島は踵を返した。それには倉田は驚いた。


「普通ならこういうと大体の人魂はビビって消えるのですが……タフですな。まぁ、その……ですね」

 と倉田はスーツからペットボトルを取り出して飲み干した。


「私はただの人間では有りません」

『だろうな』

 即答する大島に倉田はガクッと肩を落とすが笑った。




「ああ、こんなにもビビらない人魂がいるのですね。面白い」

『面白くねーよ! てかただの人じゃない? そんな奴が三葉や倫典たちに近づくな!』

 倉田は目線を外さない。不気味である。


「はいはい……まぁうちの霊園の近くにある天狗山の……天狗といえばいいですかね」

『は? 天狗? あんたが』

 天狗といえば赤い顔に大きな鼻を持つ現実にはいないと言われているものだが。


「実際には天狗に似た大男がいましてその人が天狗様と言われていますがー……それはダミーです」

『ダミー……てかなんで人間の姿で、しかも社長だろ』

「普段は人間として過ごし、寺、神社、葬儀場、霊園、宝石、幼稚園、病院との提携……それらを管理してこの土地の幽霊や妖怪たちの悪さを抑制し、治安を良くする役割をしている……と言っても信じてもらえないだろう」

『そんな奴いるのかよ』

「そのおかげでまぁまぁこの土地も何か起きてもなんとかなってる。他にも仲間がいて分業してるからそれでもかなり稼げます」

『うわぁ、やるな……あんたはただものでない』

「ふふふ」

倉田は笑った。しかし今まで見たことがない笑みであった。


『てか天狗自体存在しないだろ』


「とか言いつつもあの山の麓の神社や寺に足繁く通う人々たちは天狗様を崇め……」

『るせー!!! つべこべ言わずに俺をなんとかしろ! 三葉に会いたい! スケキヨに生まれ変われるのもできるんだろ?』

 倉田は自分の話を遮られ眉を下げ呆れていたが……。


「まぁ輪廻転生、何が起こるかわかりませんからね……たまたまあなたはスケキヨの体に、猫の体に転生した。宝くじのようなものです」

『……たしかにな。宝くじ当たりたかったな。また三葉の近くのものに生まれ変われるのだろうか』


 大島はううむと唸る。

「まだ現世に未練があるのですね、しぶとい」

『悪いか! 突然死んで何もできない俺はっ……選択の余地もないのは!!! ありぇん!!!!』

 

 倉田は笑って再び大島を見つめる。

「さて、どうしますかねぇ」


『どうしますかって言われても……俺は三葉と話ができたらそれでいいと思っている』


 もうそれしかない……話す、いや会えれば……。


『どんな形でもいいから……』


 倫典も頼りないのもあるが昨夜の泥棒との格闘を見て大丈夫なのかもしれないという気持ちもあるがそれよりも……。


『なんで俺との子供できなかったんだよ……』


 倉田がお経を読み始める。それを聞くと大島はなんともいえない体感を感じる。

 視界がぼやけて目眩、耳鳴り、引き裂かれるかのような痛み。


「……宝くじ、もう一度やりますかね」

『えっ』


「本当は成仏させてあげた方がいいですがこのままでは地縛霊になってしまう、なんならまた生まれ変わって……何度も生まれ変わり……」


『……そんなこと、できるのか……』


 倉田はお経を続けた。




 ……ぶつっと大島の意識は消えた。


 倉田は天井を見上げる。


「……」


 目から涙がこぼれ落ちた。


「わたしがあなたの愛した三葉さん、大事な倫典くんを見守りますから……どうかいつか……。その時は酒を交わしましょう」



 にゃあ



 スケキヨが目を覚ました。倉田はスケキヨを撫でた。


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