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第九話 新たな依頼

「いらっしゃい、ソロくん」


 冒険者ギルドに入ると、昨日の酔っぱらいはどこへやら、黒髪メガネの、いかにもお堅い立派な受付嬢が、俺を出迎えてくれた。

 驚いた様子のフローリアが、俺にこっそり耳打ちする。


「ソロさん、ネイさんは昨日のこと……」

「多分覚えてないと思うぞ。いつもそうだから」


 覚えていればあんな無茶苦茶はできないだろう。酔った後のことを忘れられるのは、正直言って羨ましいことこの上ない。一番ずるい酔い方だと思う。


「あら、フローリアさん。今日はソロくんとも一緒なんですね」

「はい! パーティ結成も間近かもしれません!」

「いや、ねーから」


 俺がツッコむと、フローリアは「えー」とぶーたれて、ネイはクスクスと笑った。


「よっしゃ攻略した、と思ってからが長いから、頑張ってね」

「え、そうなんですか!」


 ネイの言葉に、フローリアは衝撃を受けたかのようにこっちを見る。悪いけど全部聞こえてるんだよな。いや、聞かせてるのか?


「それで、今日はどうします?」

「そうだな……」


 ネイと共に三人で、クエストボードへと向かう。


「パーティ組んでないのに、同じクエスト受けられるんですか?」

「可能だぞ。パーティ同士の共同戦線は珍しいことじゃないからな」


 無論、個人同士で組んでのクエストも珍しくない。臨時でパーティを組むこともあるし、冒険者はその点はかなりフレキシブルだ。

 が、"正式にパーティを結成する"ことに関しては、その意味合いや重要性は、臨時パーティや即席でパーティを組むこととはワケが違ってくる。


 正式なパーティ申請を行うと、パーティメンバーが個人で受けたクエストでも、報酬は個人とパーティ全体とで山分けされる。

 だったら、パーティ単位で挑むような大型モンスターの討伐などを受けた方がいい。


 逆にパーティ全体で受注したクエストはパーティ全体で分担することになるが、その際にどの冒険者にもクエスト報酬が行き渡るようにせねばならない、という規則がある。

 例えば、パーティ全員がクエストに参加していない場合は、一定以上の割合で報酬はパーティハウスの共有財としての利用に限定されるという具合に。


 なんとも不自由なルールだが、これは、パーティ内の能力格差をなるべく減らすという目的と、パーティの乱立や解散を防ぐ目的があるらしい。

 だがそのために、ギルドで一度ソロの冒険者となると、パーティを組むことは大きな障壁になってしまうのだ。


 長くなったがまとめると、パーティを組むということは、冒険者にとって大きな意味合いを持つのだ。

 長期的に組むなら臨時で組むより採算が取れることもあって、パーティを組むことは冒険者にとって家族を作ることにも近いと言われるほどだ。


 さて、クエストボードには、一昨日も受けたオーク討伐のクエストやゴブリン討伐など、いつも通りのクエストが並んでいる。


「んー……いつも通りすぎてつまんないですね。ネイさん、何かオススメとかありますか?」

「あ、おい」

「これとかどうかな? 実力的にも、二人ならいけると思うんだけど……」


 飽き飽きとするようなクエスト群から目を離し、フローリアはネイに突然尋ねた。

 俺が止める間もなく、ネイは待ってましたと言わんばかりに、懐からクエストの依頼書を一枚取り出した。


---------------

金等級

・内容:失踪した銀等級パーティの捜索、遺品の回収

・報酬:銀貨五十枚

・クエスト種別:救援、遺品回収

・場所:ヴァルトの森

・期限/重要性:緊急性高。即時出発を希望。

・依頼主名:ヴァルト冒険者ギルド

・受注資格:銀等級以上、またはそれに準ずると認められた冒険者

・備考:失踪した銀等級パーティの受注クエストも引き継ぎ、達成された場合その報酬を上乗せする。


---------------


「こいつはダメだ」

「え、なんでですか」


 ギルド職員のオススメは、基本的にロクなもんじゃない。彼ら彼女らはいつも、大変な仕事、割に合わない仕事を押し付ける相手を探している。


 しかもこのクエスト、依頼主が冒険者ギルドになっている。

 冒険者ギルドが依頼主なのは、依頼者が匿名を希望しているか、ギルドが発注する割に合わない仕事のどちらかだ。


 今回は後者。金等級クエストなら、金貨が報酬で出てもいいくらいのものだ。なのに報酬が銀貨というのは、あまりに割に合わない。これじゃあ金等級の冒険者たちも受けないだろう。

 ……そもそも、金等級冒険者はこの町にはほとんど滞在しないが。


 現状のギルドの冒険者では対処できないと判断したからこのランクだし、クエストボードに張り出してもいなかったのだ。実際、銀等級冒険者が行方不明って、八割くらいの可能性で死んでいるんじゃないだろうか。

 言い換えれば、銀等級冒険者が死ぬくらいの脅威があの森にあるとギルドは判断したのだ。


 そもそも。銀等級冒険者と銅等級冒険者に、金等級クエストを持ってくるとか頭がイカれてるんじゃないか?


 文句を言ってもしょうがない。依頼書をネイに突き返そうとした瞬間、少し考えた様子のフローリアが口を開いた。


「……でも、このクエストなら、銀等級から金等級に上がるのにもってこいですよ」


 ──それは確かに、その通りではある。

 この国で冒険者が金等級に昇格する条件は四つ。


一,銀等級クエストを百個クリア。

一,金等級クエストを五個クリア。

一,昇格クエストのクリア。

一,指定ダンジョンの攻略。


 銀等級のクエストの難易度は幅広い。銀等級は全ての冒険者にとって大きな壁だ。だからこそ、銀等級で生涯を終える冒険者は数知れず存在するし、そこから抜け出た猛者は英雄扱いされる。

 銀等級で燻る冒険者なんて、この国には腐るほどいるのだ。


 金等級クエストや指定クエストをクリアできるとなれば、銀等級冒険者の中でも抜きん出た存在──"エース"として、ギルドや国家から認知される。

 金等級の冒険者に近い存在となるわけだ。


 ──だがそれは、リスクを背負う行為でもある。

 冒険者の鉄則、冒険をしないことに反する。

 だから、ここで尻込みしてしまう冒険者も多い。自分の命を第一に考えるなら、それで正解だろう。


 それだけじゃない。銀等級クエストをこなすだけで、それなりにいい暮らしはできるのだ。ここで満足してしまう人も多いのだろう。


「ソロさんなら行けますよっ」


 フローリアはそう言って、こっちを見て可憐に微笑んだ。なんの根拠があってそんなことを……。

 まあ、いい。


「……話だけ聞こうか」


 受けるかどうか決めるのは、その後でも遅くない。

 俺の判断に、ネイはにっこりと笑って、スラスラと説明を始めた。


「失踪したのは、"エニス魔導"です」

「……なに? エースパーティじゃないか」

「ええ。信頼もあり、クエストの途中放棄も考えづらい。ギルドは事態を重く見て、このクエストを発注しました」


 エニス魔導は、この町でも有数のパーティの一つだ。基本的に魔導士と魔法剣士、あとはタンク役の魔法重戦士と僧侶で構成されたパーティで、魔法による殲滅力の高さがウリだ。

 確かに一見ピーキーではあるが、剣士や重戦士の技量は魔法無しでも中々のものだった。パッと見とは裏腹の安定感があったはずだ。


 おそらく、この町のパーティの中でも金等級にかなり近いパーティだった。金等級クエストをこなした、エースパーティでもあったし。

 エニス魔導のリーダーとは知己で、近々金等級昇格クエストに挑もうと思っているなんて言っていたのも覚えている。


 そんなパーティが、クエストを途中で放棄してしまうとは考えづらい。

 ──想像以上に厄介なクエストらしい。

 このクエストを俺にクリアできるのか?


 あの森にいったい何がいるのやら。

 昨日の時点では、多少魔物が多かったくらいしか覚えていない。……それも立派な異変か。

 だが、少なくともエースパーティが瓦解するような異様な雰囲気はなかった……と、思う。


 どうやら俺はあの森で見逃したものがあるようだ。


「エニス魔導の受注したクエストは?」

「これです」


 そう言って、ネイは写しを見せてくれた。


---------------

銀等級

・内容:シルバー・ボア一体の討伐、素材回収

・報酬:銀貨七十枚

・クエスト種別:大型モンスター討伐、素材回収

・場所:ヴァルトの森

・期限/重要性:ウィークリー納品クエスト。今週中。

・依頼主名:ヴァルト商人組合

・受注資格:銀等級以上、またはそれに準ずると認められた冒険者

・備考:全身の素材を余すことなく持ち帰って欲しい。確認されない場合失敗と見做す。

---------------


 大型モンスターの討伐。

 俺が一人であることもあり、中々手を出すことのない仕事だ。──が、これを二人でクリアできたとしたら、確かにウマいだろう。

 シルバー・ボアなら倒したこともある。危険度は高いが、オーク五匹と同じくらいだ。


「エニス魔導のリーダーとは、ソロさん、飲み仲間でしたよね? ……貴重な味方ですよ?」

「……わかったよ、行くよ。フローリアは?」

「もちろん行きますっ!」


 悩んでいると、ネイの言葉に、俺は返事に詰まった。確かにその通りだ。俺が孤独な時期に声をかけてくれた、数少ない人物の一人で……友人だ。

 ネイの言葉に諦め、投げかけた俺の質問に、フローリアは力強く頷いた。


「フローリアの同行は大丈夫なのか?」

「うーん……まあ、銀等級相当の実力を認めましょう。今朝、銀等級冒険者を捕縛した目撃証言もあるし」

「よし。オプションで馬車の手配を頼む」


 ネイの言葉に頷いた。何が幸いするか、わからないものだ。


「けど、何がいるかはわからない。十分注意しながら行くぞ」

「はいっ」


 返事をしたフローリアを連れて、俺は冒険者ギルドをあとにした。

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