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第六話 武器屋

「じゃ、貰ってく」


 銀貨四十枚の入った麻袋を受け取り、俺は冒険者ギルドを後にする。

 と、ちょこちょこと、背後を少女──フローリアがついてきた。


「なんだよ。クエストは終わったろ」

「えーっ。いいじゃないですかっ。ここまでくれば一蓮托生ですよっ」


 なんとも身勝手なことを言いながら、ぴょんぴょんと勝手についてくるフローリアに、俺はもはや何も言えなかった。

 ギルドを後にした俺が訪れたのは、鍛冶屋だった。この町では有数の鍛冶屋で、多少値は張るが、多くの冒険者がここを利用していた。


「よう」

「おっ。アンちゃん、久しいなぁ」

「そうかぁ?」

「そうともよ。今日はどうしたんだい?」


 鍛冶屋に入ると、全身筋肉に短く顎髭を生やした、禿頭の大男が出迎えてくれる。身にまとうポロシャツはミチミチと音を立てていて、内側からの筋肉圧に負けて今にも破けてしまいそうだし、エプロンが実に似合わない。

 この男こそが鍛冶屋だ。町民や冒険者たちからは親父と呼ばれ、慕われている。


 そんな筋肉ダルマに少し警戒しながらも、後ろからそーっと入ってきたフローリアは、店内をぴょこぴょこと物色し始めた。


「……そっちの嬢ちゃんは? 遂にアンタもパーティ組んだか」

「さあな。なんか懐かれただけだ」


 不思議そうな目でそれを見た鍛冶屋の親父の質問にぶっきらぼうに返しながら、俺は腰に刺している二本の鉈をカウンターに置いた。


「こいつの整備を頼みたい」

「あいよ。…‥こいつはまた、無理させたなあ」

「すまないな」

「いいってことよ。こいつがアンタの命を救ったってんなら、武器屋冥利に尽きるぜ」


 クエストから帰ったら、必ず武器の整備は見てもらうことにしている。

 俺はかなり力任せに使っている部分があるらしい。だからこそ剣ではなく鉈なのだが、それでも俺が使えるのは頑丈な物に限られる。

 この鉈も親父から買った物だが、それは親父の腕の良さを見込んでのものだった。


 親父は鉈を受け取ると、調べるために裏に引っ込んでいった。

 そうして話し相手もなく手持ち無沙汰になると、ついつい、チョロチョロと動くフローリアに目が行く。ちんちくりんだしやはり子供なのだろう、好奇心旺盛なのはいいが、武器屋で商品をツンツンしたりするのはちょっと怖いものがあった。

 魔人国家にあるという「銃」は、誰でもとんでもない威力が出せると言う。ここに銃とやらがなくて本当に良かった。


「……なんかいいものあったか?」

「これとかどうですかっ」


 話しかけると、サッと、ダガーをアサシンのように構えて見せてくれた。


「いいんじゃねえの? 僧侶にピッタリだし」

「……そうですか?」

「ああ。もちろん、あくまで護身用だがな」


 主な武装はあくまで術の発動を助ける杖。短剣は本当に何かあった時の護身用としてなら、身につけているのは悪いことじゃないだろう。


「嬢ちゃんなら、こっちのがいいんじゃねえか?」


 いつのまにか戻っていた親父はそう言うと、近場にあった別のダガーを取り出した。

 さっきのに比べて、鈍い金属光沢を放っている。


「嬢ちゃん、僧侶か? とは言え、術のエンチャントと攻撃力にモノを言わせるタイプに見える。…‥回復魔法使えないのか?」

「よ、よくわかりましたねっ!?」


 親父に図星を突かれ、ハウッと声を漏らしながら、そう返した。一目見ただけでそこまで分かるのか?


「だろお? 俺ァ、鑑定の『権能』持ちなんだよ」


 親父はフローリアに対して、自慢げに笑って見せながら言った。

 鑑定。商人にはピッタリの権能だ。

 権能というのは、魔術とは違った技術体系──というより、才能に近いモノだ。

 後天性のものもあるが、多くは先天性。種族や血統によっても決まる。


 鑑定の権能ともなれば、こんな小さい町の片隅で冒険者たちの相手をするような器じゃないだろう。


「……ま、商人なんて柄じゃねえがな」


 親父は自分の禿頭を叩き、ガッハッハと大笑いしながらそう言った。そんな様子を見て、フローリアも可愛らしくクスクスと笑っている。

 なんたる才能の無駄遣い。勿体無い、なんて言われてもおかしくない。

 ──けど、それでもここで武器屋をやっているあたり、必ずしもその才能のしがらみから逃れられているわけではないように思える。


 まあ、ともかくだ。


「そいつは?」

「おおそうそう、武器の話だな」


 親父はそう言って、フローリアに渡したダガーを受け取ると、俺に見せた。


「こいつは魔鋼で鍛えられたダガーだ。普通の鉄製ダガーに比べて硬さは劣るが、魔力伝導率の高さがウリだな。コイツなら嬢ちゃんの魔力を、ダガーの攻撃力上乗せできる」

「ほう、魔鋼か」

「ついでに……これは嬢ちゃんが実践するのが早いな。魔力を込めてみろ」

「え、あ、はい!」

「嬢ちゃんの正面に立つなよ?」


 言われるまでもなく警告に従って動いた俺を見て、親父はフローリアに短剣を渡した。フローリアは受け取ると、手のひらの中でぎゅっと握るそれに、「むん」と可愛らしく力を込める。

 結果として──。


「おお」

「うおっ」

「ひゃっ!?」


 ──壁に、大きな穴が生まれた。


 正確には、フローリアの馬鹿げた魔力に応じて、短剣から光の刃が伸びたのだ。

 魔力の分だけ威力と長さの上がったそれは即座に、壁を貫通するほどの巨大な光の大剣となった。

 フローリアがその光景に驚いて思わず短剣を手から落とすと、すぐに光の剣はそのまま光の粒子となってかき消えた。


「……壊れてるのか?」

「いや? んなもん店に出さねえよ。短剣の方じゃなくて、嬢ちゃんが異常だな」

「……まあ、いざという時の必殺技にはなりそうかな」


 光でできた大剣ゆえに、色んなものを貫通して、どこまでも伸びていく。物質的な障害は存在しないから、取り回しは非常に良く、初心者でも扱いやすいのは間違いない。

 それにしても──フローリアの魔術は馬鹿げてるとは思ったが、まさかこれほどとは。


 フローリアの方を見ると、まだぽかんと呆けている。本当に驚いたらしい。

 俺が話しかけると、ハッと意識を取り戻した。


「フローリア、魔力は平気か?」

「え、ええ……それどころか、全然使ってないです」

「そいつは使用者の魔力量に応じた大きさと攻撃力になる。消費魔力はかなり絞ってあるはずだぜ」

「それでこれなのか……」


 しかも、これで十五歳、成人したばかり。まだまだ能力は伸びていくと言うのだから、本当に末恐ろしいことこの上ない。


「それで、嬢ちゃん。どうする? こいつは強力な武器だが、それをどう扱うかは嬢ちゃん次第だぜ」

「…‥買います」


 親父の質問に、真剣な眼差しでフローリアは頷いた。フローリアの覚悟を決めたような返答に、親父の表情はふっと和らいだ。


「よく言った。……そうだな、壁の修理代も含めるが、アンちゃんの連れだし銀貨十枚にマケといてやる」

「あっ! ご、ごめんなさい!」


 確かに、空いた穴は弁償ものだが、親父はガハハと笑いながら気にすんな、と慰めた。

 とはいえ、銀貨十枚はまあまあな金額だ。さっき手に入った銀貨が四十枚だから、そのうちの四分の一を使うことになる。


「防具とか買うなら、また今度でもいいんじゃないか」

「いえ、買います。…‥多分、どんな防具より効果的な防御です」

「おう、違えねえ」


 俺の提案に対して、フローリアは毅然として言った。親父はそんなフローリアの言葉に頷いて、フローリアから銀貨十枚を受け取って、短剣を手渡した。


「普通の短剣よりも材質は柔らかい。刀身で敵の攻撃を受け止めるには向かないから、気いつけろよ。光の刀身でなら、お前さんの修練次第で、防御も攻撃も応用が効くからな」

「はい!」


 フローリアは親父の忠告に、力強く返事をした。親父はいい返事をするフローリアに満足げに頷くと、今度はこっちを見た。


「で、アンちゃんは……明日来てくれ。代金はいつも通りでいい」


 親父のその言葉に頷いて、俺とフローリアは店を出ることにした。



「このあと、ご飯でも行きましょう? 帰還祝いも兼ねて!」

「……まあ、いいか。ギルドの酒場でいいか?」

「もちろん!」


 一緒にあのアホみたいなモンスターを潜り抜けた仲だ。それくらいはやってもいいのかもしれないと、そう思った。

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