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第二十六話 出立

 俺とフローリアは、冒険者ギルドを後にして一度宿に戻り荷物を取った後、武器屋に訪れていた。目的は装備の点検と整備依頼。

 今回のクエストも死闘だったし、混戦でもあった。念の為に確認しておきたい。


「よう、アンちゃん。嬢ちゃんも」

「お世話になってますっ」

「それで? いつものか?」


 武器屋の親父の言葉に頷いて、俺たちは装備を親父に渡した。俺の胸当てとフローリアの鎖帷子を受け取り、その表面を観察しながら親父は口を開いた。


「ふうむ……また随分と、この短期間で使い込んだな。アレか、ゴブリンの迷宮ってやつ」

「ああ」


 親父の言葉に頷く。親父も知っていたらしい。まあここを利用する冒険者も多いだろうしな。


「あ、そうだ。表に素材があるんだ。可能なら、コイツを使った装備の強化を頼みたい」

「素材ぃ?」


 親父は怪訝な顔をしながら、宿の外に出た。

 宿の入り口には、さっき宿から取ってきた中で一番の荷物──昨日、イデアスが俺に置いて行った馬車が停まっている。

 その中にあるのは──。


「おいおい…‥すげえなこりゃ」

「ああ」


 親父の感嘆に頷いた。

 ──その中にあるのは、ゴブリンキングが持っていた巨大な錫杖の頭だ。

 俺が切り落としたそれは、そもそも莫大な魔力の籠った武器。


 おそらくは変異した魔物の骨と、巣穴の拡張中に発見したのだろう鉱石がふんだんに使われている。


「コイツでどうしたい」

「俺とフローリアの装備の更新を頼む」

「更新を頼むったってよお……」


 雑な依頼に、親父は頭をかいた。

 親父が作り上げた俺の鉈は、特殊効果もあり、自分の命を預けるに足る代物だ。


「俺はアンタの腕を信じてる」

「……わーったよ」


 俺がまっすぐ伝えると、親父は折れてくれた。


「とりあえずは嬢ちゃんの杖と、アンちゃんの太い方の鉈は俺が手を入れてやる。余った素材でアンちゃんに小楯も仕立ててやるよ。だが、それだけだ」

「はあ?」


 小楯──両手の武器を持つのに邪魔にならない程度の、腕に固定する小さな盾だ。

 だが、それだけとはどういうことだろう。


「防具については、良い店にツテがアンだよ、そっち紹介してやる」

「ああ、なるほど」


 そういえば、この店は防具も売ってるが、武器屋だったことを思い出した。防具なんかは、ついでに置いているだけなんだろう。


「その店ってのは、王都にあるんだ」

「王都か……」


 親父の言葉にしみじみと思いを馳せる。

 ──フローリアの、さっきの言葉が思い起こされた。

 俺がやりたかったこと。

 それを見つけるのに、思い出すのに、王都はうってつけだ。


「ソロさん! ソロさんって王都出身でしたよねっ」

「ああ、そうだな」

「あ? そうなのか? じゃ、ついでに里帰りでもしてこいよ」


 フローリアの言葉に、親父はとんでもないことを言い出した。


「里帰りねえ……」

「あ、でもソロさん、実の親と会ったことないって……」

「実の親はな」


 フローリアの心配に、俺は短く返した。そう言われたら、確かに一回くらい会ってもいいかもしれない。鍛治の国ユミルベルまで遠征するにせよ、しないにせよ、俺のやりたいことを思い出すためには必要かもしれない。


 何より、本音としては、フローリアにいい装備を仕立ててやりたかった。フローリアの実力やこれから目指すだろうクエストを考えると、ただの鎖帷子は防御力として不足している。


「リアはどうする?」

「私は興味あります、王都っ」

「どうやら決まったみてえだな」


 俺が聞くと、フローリアは笑顔で答えた。そういえば王都に行ったこともないんだな。

 親父の言葉に、俺は渋々ながら頷いた。


「よし、紹介状くらいは用意してやるよ。武器の強化もやっとくから、二、三日後に取りに来い」


 親父の言葉に頷いた。

 今日は買うものは、特には大丈夫だろう。


 こうしてあっさりと、俺たちの次の行き先は決まってしまった。



「王都ねえ……」

「どうした?」


 ギルドまで戻ってネイに王都に向かうことを話すと、ネイは複雑そうな表情をした。

 カウンター越しで話すと、営業モードの受付嬢だ。


「ソロくんの実力なら大丈夫だと思うんだけど、最近きな臭いんですよね……」

「きな臭い……? 荒れてるのは今に始まったことじゃないだろ」


 森でイデアスとも話したことだが、王都という町は決して住みやすい街ではない。せいぜい商業が盛んなだけで、生きるための犯罪が横行する街でもある。


「いやそうなんだけどそうじゃなくてね……まあいいや。それじゃあ、王都で発注されるクエスト見繕っておきましょうか?」

「え、本当か?」


 驚いた俺の言葉に、ネイは頷いた。


「誰も受注してくれる冒険者がいなかったり断られたりで、ギルドまで降ってくるクエストって結構あるんですよね」

「へー……ドブさらいとかは要らないが」

「わざわざソロくんに頼まないですよそんなの」


 散々やらされたものだが、今となってはそれもそうか。

 だが、王都でのクエストってなんだろうか。

 王都のクエストはその特性上、遠征系のクエストも少なくない。今回の予定を考えると、そう言ったクエストを受けることはできないだろう。


「これとかどうですか?」


 そう言ってネイは、クエストの貼り紙を俺に見せた。


---------------

等級:銀等級〜金等級

・内容:下町下水道調査、リッチー討伐

・報酬:基本銀貨五枚。リッチー撃退か討伐を成し遂げた場合、銀貨七十五枚。

・クエスト種別:調査、討伐クエスト

・場所:レーヴァニア王都下町下水道

・期限/重要性:期限なし

・備考:リッチーが確認できなければ基本給のみの支払い。


---------------


「つまり、リッチーがいたら倒してくれ、ってことか」

「そういうことです」

「…‥リッチーならアリか」


 リッチーはゴースト系のモンスター。生前は強力な魔術師で、魔力を溜め込んだ恐るべきアンデッドモンスターだ。


 俺の能力の試運転にも、フローリアの純粋魔術の能力を試すのにもぴったりの相手だろう。


「リア、これついでに受けていこうか」

「リッチーですかっ。腕がなりますっ」


 思うところはあったが、フローリアの了承もあり、王都に行くのにリッチー討伐もついでに受注することにした。

 リッチーなんて強力な魔物が出ているかもしれないというのに、下町だからと騎士団は調査もしていないんだろう。


 なんだか、ため息が出るような思いだった。


「あ、ついでなんですけどぉ……」


 そう言って、フローリアは一枚の紙を差し出してきた。パーティ結成の契約書だ。

 あまりの脈絡のなさに固まっていると、フローリアは決心したかのように口を開いた。


「次の町に行く前に、契約してくださいっ」

「え、やだ」


 別に契約しなくても一緒に来てくれるって知ってるし。そんな畏まらなくても受け取らないし。


「もーっ! いいじゃないですかっ!」

「やだよ」

「ふ、フローリアさん、無理強いはよくないんじゃないかな。パーティ結成は双方の合意に基づくものよ」


 俺に強請るフローリアに、ネイは俺を庇うように言ってくれる。

 だが、フローリアはそんなことで止まるような人間ではない。


「そんなこと言って、いつまで待たせるんですかっ! ソロさん! いい加減この契約書にサインしてくださいっ!」

「いーえソロくん! あくまで契約は双方の合意に基づくものでなければなりません!」


 ──ギルドの一区画、提出書類を書くためのテーブル。

 僧侶の横暴に、受付嬢が割って入る。羽交締めにして押し留めようとする受付嬢を押し除けながら、僧侶は俺を見ながら叫ぶ。


「そんなこと言っていいんですかぁ!? ソロさん! 貴方の秘密なら色々握ってますよっ!」

「脅しなんて最ッ低ですね! ソロくん! 屈する必要はありませんッ!」

「……勘弁してくれ」


 わちゃわちゃと揉み合う二人。

 酔っ払ってるギルドの連中は、それを見て煽り立てる。


 目の前の光景にため息が漏れる。俺の行く先がどうなるのか、どこに行き着くのか、心配になってくる。

 ──けれど、やはりそれでも。悪くないと思っている自分がいる。

 それに。流石にそろそろ、腹を括らねば。



 三日後、新たな武器と調整された防具を受け取った俺たちは、こうして、我が懐かしき故郷、王都へと出発した。

次回、第二章から更新時間を毎日12時に変更し、何時ごろが伸びやすいかちょっと模索します!

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