第三部:真実の解放
アキの意識が途絶える寸前、目に映ったのは、村人たちがまるで抜け殻のように力なく横たわるサユリを抱えている光景だった。彼女の顔は蒼白く、その瞳からは光が失われていた。アキは、サユリの名前を呼びたかったが、喉は詰まり、声にならない。彼女の小さな体が、まるで壊れやすい人形のように、男たちの腕の中に容易く収まった。アキの体は、まだ温もりを残しているようだったが、その瞳は虚空を見つめている。
そして、暗転。
アキが最後に見たサユリの姿は、彼の意識の中に深く刻まれた。冷たい土の上に倒れ伏したアキの体には、もう微かな痙攣も残っていない。周囲を囲んでいた長老たちは、静かに二人の遺体を見下ろしていた。彼らの表情は、怒りや憎しみだけでなく、どこか諦めのような、重い感情が入り混じっていた。
「始末しろ。痕跡は一切残すな」
低い声で、最も年老いた長老が命じた。屈強な男たちは、無言で頷き、二人の遺体を抱え上げた。病弱だったサユリの体は軽く、男の腕に容易く収まった。アキの体は、まだ温もりを残しているようだったが、その瞳は虚空を見つめている。
夜の帳が降り始める中、二人の若い命は、村の中心から遠く離れた、深い森の奥へと運ばれていった。月明かりだけが、彼らの足元をぼんやりと照らし出す。村人たちの顔には、罪悪感のようなものが浮かんでいたが、長老たちの強い眼光に晒されると、すぐに消え去った。
翌朝、村人たちは、いつものように目を覚まし、日常を過ごした。アキとサユリの姿は、誰の記憶からも、意図的に消去されたかのように、村の風景の中に存在しなかった。しかし、彼らが最後に発見した碑文の拓本は、アキの懐にしっかりと隠されたまま、静かに眠っていた。それは、いつか必ず嘘を暴く、小さな希望の種だった。今はまだ、誰にも気づかれることなく――。