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第一部:疑問の萌芽2

古文書の発見は、アキとサユリの日常に静かな、しかし確実な変化をもたらした。二人は、まるで秘密の宝物を見つけた子供のように、時間を見つけては集まり、古文書の解読に没頭した。サユリの病弱な体は、時に彼女の探求を阻んだが、知的好奇心と真実への渇望が、彼女をベッドから起き上がらせ、古文書へと向かわせた。アキは、村の古老たちの言葉の端々や、祭りの儀式の細部に、古文書の記述と矛盾する点がないか、注意深く耳を傾けるようになった。


解読が進むにつれて、二人が見つけた事実は、村に語り継がれる物語との乖離を深めていった。古文書には、災厄に見舞われた村人たちが、互いを支え合い、知恵を出し合い、困難を乗り越えた様子が、具体的なエピソードと共に綴られていた。生贄の儀式に関する記述は、どこにも見当たらなかった。それどころか、自然の猛威に対する畏敬の念と共に、共存するための工夫や努力が強調されていた。


「ねえ、アキ。この記述に出てくる『共生の誓い』って、祭りの最後の儀式に少しだけ残ってる言葉に似てない?」


サユリが、古文書の一節を指さしながら言った。アキは祭りの記憶を辿った。確かに、最後に村人たちが唱える短い言葉の中に、「自然との共生」を誓うような、古風な言い回しがあった。それは、生贄の物語とは明らかに矛盾する内容だった。


二人は、自分たちの発見に興奮しながらも、同時に大きな不安を感じ始めていた。もし、村の語り継がれる物語が嘘だとしたら、それは一体誰が、何のために作り上げたものなのだろうか?そして、その嘘を暴いた時、村はどうなってしまうのだろうか?


「このことを、誰かに話すべきだろうか…?」


ある日、アキはサユリにそう問いかけた。サユリはしばらく考え込み、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。


「まだ、早いと思うわ。もし、この古文書が本当に真実を伝えているのだとしたら、村の長老たちはきっと、それを隠そうとするはずよ。下手をすれば、私たちが危険な目に遭うかもしれない。」


サユリの言葉には、病弱ながらも聡明な彼女の洞察力が表れていた。アキも、彼女の意見に同意した。섣急に真実を語ったところで、村人は長年信じてきた物語を簡単に手放すことはないだろう。むしろ、異端者として排斥される可能性が高い。


二人は、慎重に、そして秘密裏に、古文書の解読を進めることに決めた。アキは、日中は村の様子を探り、夜になるとサユリの元へ通い、新たな発見を共有した。サユリは、限られた体力の中で、古文書の解読に全力を注いだ。


そんな二人の行動を、村の長老たちは静かに監視していた。アキの最近の様子がおかしいこと、そして、病弱なサユリがなぜか活気を取り戻し、熱心に何かを調べているらしいという噂は、彼らの耳にも届いていた。長老たちは、古くからの村の秩序を守ることを第一としており、その秩序を揺るがす可能性のある動きには、敏感に反応した。


ある夜、アキがサユリの家からの帰り道、見慣れない人影が彼をつけていることに気づいた。彼は咄嗟に物陰に隠れ、やり過ごしたが、背筋には冷たいものが走った。自分たちの探求は、すでに誰かに気づかれているのかもしれない。


その夜、アキはサユリにそのことを伝えた。二人の間には、これまで感じたことのない緊張感が漂った。しかし、それは同時に、二人の決意をより一層固くするものだった。危険が迫っているからこそ、真実を突き止めなければならない。自分たちが信じるものが、本当に正しいのかどうかを、自分たちの手で明らかにしなければならない。


アキとサユリの、孤独で危険な戦いが、静かに幕を開けようとしていた。古文書に隠された真実は、果たして村の未来をどのように変えていくのだろうか。そして、二人の小さな囁きは、眠り続ける村人を揺り起こすことができるのだろうか――。

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