表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

6.鮮血のクロッカス

ギュスタフが目を細めて小さく笑う。

夫を見上げ、しかしシュナクはすぐに目を伏せて息をついた。

彼女の様子を見て、ギュスタフは手を伸ばしてその肩を抱いた。


「シュナク、お前のことは儂が必ず守る。子のこともだ。バルダンにも、クロッカスにも手は出させん」

「そう……ですね」


何かを言い淀んで、しかしシュナクはそれを飲み込んで夫の顔を見た。


「しかし、無茶はしないでください。魔具グルングルドは……」

「判っている」


押し殺した声でそう言い、ギュスタフは黙り込んだ。

シュナクも言葉を飲み込んで俯く。

彼らの様子を見て、メルトは眠っている赤子の脇にとまり、不思議そうに首を傾げた。



「竜の魔力痕跡が途切れたのは、確かにそこで間違いないんだな?」


どこか歪んだ、粗雑でしわがれたガラガラ声が響いた。

夜の深い森。

松明を持った人影が複数いた。

それらは、月の光にギラつく銀色の鎧を纏っている兵士だった。

顔全体を覆う兜の奥で、赤い瞳が不気味に光っている。

骸骨のように細い体をしている。

全員背中を丸めて、せむしのように異様な風体をしていた。

ゴブリン、と呼ばれている存在だった。

その中でも、ひときわ体の大きい、先程言葉を発した男が押し殺した声で続けた。


「よし、探せ。結界を構成している依代が近くにある筈だ」


その男は、血のように真っ赤に光る鎧を纏っていた。

牛の角に似た棘が兜から四本伸びている。

格子状になっている目の部分の奥では、鎧に負けて劣らずの真紅の瞳が、邪悪に鈍い色を発している。

ゴブリンの兵士達が静かに頷いて、バラバラと森の中に散っていく。

赤い鎧を纏った男は、手に持っていた、自分の体よりも大きな突撃槍を振って地面に突き立てた。


「ヒヒ……珍しく苛立っているようではないか? 鮮血のクロッカスともあろう者がな……怖いか?」


赤い鎧の男の脇に、小さな人影があった。

背中をぐんと折り曲げた、小柄な老婆だった。

顔に不気味に口元を歪めて笑う、笑い顔の木の面をはめている。

黒いローブを纏っているが、木の面の端からは、水分が感じられない、パサパサとした白髪が飛び出している。

枯れ枝のような手で杖を握りしめて、老婆はクロッカスと呼んだゴブリンを横目で見上げた。


「何せ、狙っている獲物は、あの鉄のギュスタフだ……こちらの戦力も無事では済まないだろうなぁ」


ヒッヒ、と楽しそうに笑い、老婆は腰に下げている革袋を手に取り、中身の液体を口にあけた。

酒の気持ちの悪い臭いがした。

クロッカスは突撃槍を握った手に少し力を込め、表情の読めない兜のまま、老婆を見下ろした。


「無駄口を叩くな。俺は無駄が嫌いなんだ……分かっているだろう? ユルドスルドよ」

「ケケ……そうだったな。口をつぐむ、つぐむよ……こんなところで締め殺されちゃたまったもんじゃない……」


からかうように喉を鳴らして、ユルドスルドと呼ばれた不気味な老婆は笑った。

そして革袋の中の酒をあおる。


「鉄のギュスタフは、エンバードラゴンの中でも有数の猛志だ。油断をしていると、轢き殺されるぞ」

「ご忠告ありがとうよ」


軽くそれに返し、ユルドスルドは杖を持ち上げた。

そして顔の前でくるくると先端を回す。


「ドラゴン共は、上手く気配を隠しているようだが……ケケケ、バカだねえ。子供かねえ、その魔力が全然隠れてないねェ、丸見えだよ」

「可能なら、子供は生け捕りにしたい」


クロッカスが押し殺した声でそう言う。

老婆が不思議そうに彼を見上げた。


「ほう? いつものように殺して、骨と皮と魔力にしてしまえば良いのではないかぇ?」

「預言術師の言うところによると、鉄のギュスタフの子供は、神の子らしい」


赤鎧のゴブリンの言葉を聞いて、ユルドスルドは少し笑い声を止めた。


「へェ……?」

「魔具に改造する前に、いろいろな利用法はある。何より産まれたばかりの子供の魔力は純度が高い」

「なるほどねェ」


ケケケ、と耳障りに笑い、小さな老婆は体を揺すった。


「ならば、尚更他の軍勢に先を越される前に、鉄のギュスタフを仕留めないとねェ」

「…………」


押し黙ったクロッカスの目に、駆け寄ってくる兵士の一人が映る。


「クロッカス公」


鎧を着た、駆け寄ってきた兵士が背筋を伸ばして敬礼をする。


「どうした?」

「花妖精の里への道と思われる、痕跡を発見したとの報告がありました」

「……成る程」


クロッカスは兜の奥で、わずかに口元を歪めて笑った。


「奴ら、花妖精の里に避難していたか」

「どうしますか? 火を放つこともできますが……」

「待て」


赤鎧のゴブリンはそう言って、地面に突き立てていた突撃槍を持ち上げた。

そして巨大なそれを片手で振り回し、眼前に固定する。


「我が魔具、グルングルドが血を欲している。武人らしく、鉄のギュスタフとは正々堂々と戦おう」

「御意」

「引き続き、花妖精の里の入口を探せ」


兵士に短く命じ、クロッカスは面白そうに喉を鳴らした。


「さて……少しは愉しませてくれるといいのだが」

「…………」


ユルドスルドは、傍らの巨大なゴブリンを横目で見てから、また革袋の酒を口にあけた。


7 に続く

面白いと思ったら、ブックマーク、評価、感想等をいただけると嬉しいです。

モチベに繋がって、より良い作品を作ることができます。

皆様に支えていただいて創作は成り立っております。

何卒、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ