4.花の大精霊
「おめでたいね!」
「祝福、祝福しよう!」
「そうしよう!」
花妖精達は嬉しそうに笑いながら、シュナクと赤子の周りを円を描くように飛んだ。
彼女達の体から、キラキラと光を反射して輝く、白い粉のようなものが巻き上がる。
それは空中で弾けて、甘い香りを周囲に撒いた。
シュナクは笑顔で彼女達の祝福を受けると、赤子の頭を撫でて言った。
「素敵な祝福に感謝するわ。この子にはきっと、沢山の幸せが訪れるでしょう」
「……シュナク、また少しやつれた?」
「元気がないね」
「そうだね、心配だね」
妖精達が空中で静止して、不安げにシュナクを見る。
シュナクは小さく笑ってそれに答えた。
「わたくしは大丈夫。今日は、あなた達にこの子を見せに来たのと、大精霊様にもご報告を差し上げようと思ってね」
「大精霊様は既にお待ちよ」
「シュナク達が来ることは知ってたの」
「大精霊様は何でもお見通しよ」
クスクスと花妖精達が笑う。
彼女達に促され、夫婦は花畑の中を歩き始めた。
少し進むと、大の大人が両手を広げても足りないほど、巨大な幹の大木が花畑の中心にそびえ立っているのが見えた。
大木の幹や葉の部分には、大小さまざまでいろいろな色の花が、所狭しと咲いていた。
花妖精が他にも沢山飛んでいる。
彼女達はギュスタフとシュナクが近づくのを見ると、抱かれている赤子を見て、口々に嬉しそうな声を上げた。
大木の幹、その中程の場所が窪んでいて、花妖精サイズの玉座のようなものがはまっていた。
そこに、背中に四枚の大きな翼を蓄えた、長い髪を玉座に垂らしている花妖精の女性が座っていた。
彼女の髪を、周囲に浮いた花妖精達が思い思いに編んでいる。
「大精霊様、ごきげんよう」
シュナクがそう言って地面に膝をつき、頭を下げる。
ギュスタフもそれに習った。
大精霊と呼ばれた花妖精の女性は、赤子に目をやってニッコリと笑った。
「シュナク、ギュスタフ。よく来ました。子供は、無事に産まれたようですね」
落ち着いた静かな声だった。
シュナクは顔を上げて頷いた。
「はい。健康で、病気もありません。今日は、大精霊様に加護を授けていただきたく、参りました」
「加護を授ける準備は、既に整っています。いつでも始めることはできますよ」
「既に……?」
含みをはらんだ大精霊の言葉に引っかかりを感じたのか、シュナクが首を傾げる。
「そういえば、わたくし達がここへ来るのもご存知だった様子……」
「落ち着いて聞きなさい」
大精霊は表情を落として、静かに続けた。
「その子には、神が宿っています」
彼女が発したその言葉を、すぐには理解できなかったようで、シュナクもギュスタフもポカンとして静止した。
「神……?」
夫が怪訝そうに呟いたのを聞いて、一拍遅れてシュナクが青くなった。
彼女は胸の中の赤子を強く抱いて、息を呑んだ。
「そんな……! ではこの子は……」
「生まれながらに、神の力を継承しています。その魔力の波動は凄まじく、私達はこの地から感知していました」
「大精霊、この子は神の子だと……?」
ギュスタフが、そこでやっと我に返って口を開いた。
大精霊は頷いて、落ち着いた声で続けた。
「その波動はまだ幼いものですが、はっきりと分かるものです。異常な魔力の波動は、既に他の勢力にも感知されていると思われます」
「何と……」
シュナクが唇を噛んで俯く。
「この花妖精の里には結界が張ってあります。目くらまし程度になるでしょうので、暫くの間、ここに滞在すると良いでしょう。しかし、それも長く保つとは考えられません。それに……我々花妖精には、戦う力がありません。戦争に巻き込まれたらひとたまりもありません。あなたがたを守ることも難しい」
「すぐにここを出るぞ、シュナク」
ギュスタフが押し殺した声で言う。
しかしシュナクは、考え込んでから夫の顔を見上げた。
「この子が神の子だというのなら、出立前にできるだけ、術式を継承すべきかと思います。花妖精様達の結界を出たら、すぐにでも追っ手がかかるでしょう」
「それはそうだが……大精霊達に迷惑をかけるわけには……」
「構いません、ギュスタフ」
静かに夫婦のやり取りを聞いていた大精霊が口を開いた。
「神の子に助力をするのは、精霊の役目。未来の希望に力を与えるのもまた、課せられた使命です」
「…………」
押し黙ったギュスタフに、大精霊が続けた。
「現在、森から外界に抜けることは、ドワーフ族が張った結界を破らない限り難しくなっています。結界を張っている勢力、バルダン軍との戦いは避けられないでしょう。十分な準備を整えて行く方が良い」
「……大精霊様」
シュナクが、そこで大精霊の言葉を遮って言葉を発した。
「穢れたゴブリン族、クロッカスの一派が、バルダン軍に手を貸しているとの話を耳にしました。ご存知ではありませんか?」
押し殺した彼女の声に、大精霊は数秒押し黙った。
そして、ゆっくりと噛み砕くように答える。
「南森の花精霊の里が、二日前に、クロッカスの率いる軍勢に滅ぼされました。残念ながら事実です」
5 に続く
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