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2.ギュスタフとシュナク

子守唄が聞こえる。

ゆっくりと目を開く。

まだ、燃えている松明の光の強さには慣れなかったが、数刻前に比べて、よく周りが見渡せるようにはなっていた。

自分を抱いて、子守唄を歌っている女性。

それは、人間の姿をしていなかった。

有している知識で例えるとすれば、一番近いのはトカゲ。

巨大なその頭部を持つ、白い鱗がびっしりと体を覆っている、爬虫類の生き物が……自分を、長い爪を伸ばした両手で引き寄せている。

不思議と、恐怖や混乱はなかった。

頭のどこか、本能的な部分が、この存在は安全だ、と告げている。


「あら、起きたの? ほら見て」


白い巨大なトカゲに促され、視線を前に向ける。

その目に、突き刺すような真っ白な輝きが飛び込んできた。

小さく声を上げて体を硬直させる。

一瞬何だか分からなかったが、追って光に慣れてきた目に、眼前に広がる広大な緑の地平線の向こうから、白く輝く太陽が昇ってくるのが見えた。

朝日だ。


「あなたに、太陽神様の護りがありますように、お願いしていたの」


優しく赤子を抱いた母は、静かに、しかしどこか憂いを秘めた目を太陽に向けていた。


「ギュスタフ様にはああは言ったけれど、できるだけ早くここを離れた方が良いわ……」


彼女は小さく呟いて、少し腕に力を入れて赤子を胸に近づけた。

目に映るのは、朝日に照らされた広大な、どこまでも続く森。

それを一望できる崖の上に、自分達はいた。

木々を編んだような、大きなドーム型の巣に頭上を囲まれている。

所々に松明が立って、その先端には炎が灯されていた。


「里に戻れば、大長老様に名前を授けてもらうこともできるしね」


母が自分を見て、ニッコリと表情を崩す。

トカゲの顔なのに、何故か微笑んでいる……ということは分かった。

息子が目を開けて、ぼんやりと自分を見ていることを確認してから、彼女は森に視線を落とした。


「もう少しすれば、言葉を教えてあげる。すぐ覚えられればいいのだけど……」


そう言った彼女の後ろから、男性の声がした。


「シュナク。我らが子の様子はどうだ?」


視線を回して横に向ける。

シュナクと呼ばれた、自分を抱いている白いトカゲの脇から……人間が顔を覗かせた。

民族衣装のような、独特の紋様がついた装束を身にまとっている。

無骨なヒゲがびっしりと生えた顔。

鷹のような目をした、壮年の男性だった。

衣装は胸当てや腕当てがついていて、鎧のようだ。

彼を見て、シュナクは小さく笑って答えた。


「あなた、この子は強い子です。瞳の奥に、限りない知性を感じます。目も、もう問題はないようです」

「そうか……体が弱くてはどうかと思っていたが、その心配もなさそうだな」

「ええ。私達のことも、分かってくれているみたい」


微笑んで、シュナクは体を起こした。

彼女の頭を撫でて、ギュスタフが言う。


「準備をしてくれ。花精霊の里に行こう」

「ええ、少しお待ちを」


シュナクに促され、ギュスタフは赤子をそっと抱き上げた。

布に包まれたその中には、もう真っ赤な鱗が少しずつ生え揃ってきている、産まれたばかりの存在がいた。

人間……ではない。

トカゲの子供、それも、大人の男が抱きかかえるほどの大きな。

シュナクは夫が赤子を抱いたのを確認して、そっと立ち上がった。

トカゲの背には白い大きな、鳥のような翼があり、それを揺らしてから、彼女は口の中で小さく何事かを唱えた。

次いで、シュナクの体が白く発光した。

何かの文字だろうか、見たことのない白い光の模様が彼女の体を這って動く。

それらは次第に大きくなって、シュナクの体を包み……相反して、巨大なトカゲの体が徐々に縮み始めた。

そして数秒後、光が爆ぜた。

その中から現れたのは、ギュスタフと同じような衣装に身を包んだ、小さな人間の女性だった。

ギュスタフに比べると、ずいぶん若い。

少女のような顔立ちをしていたが、夫同様に眼光がとても鋭い。

彼女はギュスタフから赤子を受け取り、細いその体で大事そうに抱えた。

ふわりとシュナクの、長い白髪が風に揺れる。

言い得ぬ、桃のような甘い匂いがした。


「出立前に、何か口に入れましょう。この子にも食べさせなければ」

「……そうだな」


人の姿になった夫婦が、巣の奥に進む。

母に抱えられながら、身じろぎも出来ずに思った。

トカゲの姿から、人間になった。

どういうことか分からないが、自分を包むあたたかさは夢ではなかった。

この人は、お母さんで……。

あの人がお父さん……?

じゃあ、僕は……?

視線をずらすと、赤いトカゲの腕が見えた。

指を動かす。

それが動いた。

僕の腕だ……。

頭の奥に浮かんだ考えについていくことが出来ずに、しばらく思考を止める。

僕は、死んだんじゃなかったのか?

それともここは死後の世界……?


窯のようなところに火がついており、その上部には湯気を立てた鍋が置いてあった。

鍋から椀に粥を移し、ギュスタフは赤子を抱いて座ったシュナクに、それを差し出した。

妻が笑顔で受け取ったのを確認し、自分の椀にも粥をよそって座る。

シュナクは、匙で粥をすくって、息を吹きかけて冷ましてから、赤子の口に近づけた。

促されるようにそれを口に入れて飲み込む。

甘かった。

果物が入っているのか、お菓子のような味が広がる。

美味しい。

目を白黒とさせて舌なめずりをしてしまった。

赤子の反応を微笑んで見てから、シュナクは夫に問いかけた。


「森は抜けられそうですか?」

「…………」


ギュスタフは椀を下ろして、表情を曇らせた。

夫の様子に口をつぐんだシュナクが、また赤子の口に粥を運ぶ。


「バルダンの結界がある。奴を殺さない限り、迷宮の呪縛は解けないだろう」

「……ここには戦争に関係のない、子供や老人も多いというのに

「元々は仕留める予定のあった敵だ。いずれ相対せねばならぬ」


ギュスタフはそう言って息をついた。


3 に続く

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