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13.デュプケ その2

口をつぐんだ竜の子を見上げて、メルトは発しかけていた言葉を飲み込んだ。

そして彼の悲しそうな顔を見つめる。

彼女はためらいがちに口を開き……そして弾かれたように洞窟の出口に顔を向けた。


「坊ちゃま」


押し殺した声ですばやく呼びかけられ、竜の子は息を詰めた。

クロッカス達、追手の可能性もある。

緊張したからと言って、今の自分達に抵抗ができるかは定かではないが、どうしても体が強張る。

しかし、コツ、コツという杖が鳴る音と共に顔をのぞかせたのは、肩に汚れた麻袋を背負った、デュプケだった。

黒い眼帯を顔につけている少女を訝しげに見ているメルトの後ろから、慌てて声を掛ける。


「君は……デュプケ、さんだよね?」

「デュプケでいいよ」


盲目の少女はそう言うと、少し離れた場所に荷物を置いて、岩の上に腰を下ろした。

メルトが我に返って、翼を広げて彼女の前に飛んで移動する。

そして彼女は、女の子の顔を覗き込んだ。


「…………」

「小さな魔力。花妖精だよね?」


デュプケは少し笑って手を伸ばした。

そして警戒の色を顔に浮かべているメルトの前で、右手をひらひらと振る。

その指先が淡く桃色に輝いて、手に握っていた、雨と風でしおれた白い花が、みるみるうちに生気を帯びた。

瑞々しく花弁を広げた白い花が、周りに甘い匂いを撒きはじめる。

メルトがその香りを嗅いで、パァ、と表情を崩した。


「どうぞ」


デュプケに優しく言われ、花妖精の子は手を伸ばして白い花を引き寄せた。

そして花弁に口をつけて蜜を吸う。


「あ……ありがとう」


ためらいがちにそう言われ、デュプケは微笑んでから竜の子に顔を向けた。


「まだ全快してないみたいだね」

「だいぶ痛みは消えたよ」


そう答えてから、彼女をよく見る。

洞窟の外は真っ暗だ。

この暗闇と嵐の中、歩いてきたのだろうか。

ずぶ濡れで髪からはポタポタと水が垂れている。

デュプケは濡れていることを全く気にしていないのか、麻袋から布の包みを取り出した。

そして水滴を払って、中身を掴み出す。

形からすると、ボコボコした岩のような形状のパンのようだ。

何か液体が入った革袋も取り出してから、彼女は一口、その中身を自分の口に開けた。

飲み込んでから立ち上がり、彼女は左手に掴んだ杖でコツ、コツと光の繭の方を叩いた。


「あ……君は……」

「……?」


首を傾げたデュプケに、少しためらいがちに問いかける。


「目が見えないのか?」

「そうだよ、見て分からない?」


何でもないかのようにそう返してから、彼女は器用に歩いて光の繭の前に立った。

そして千切ったパンと、革袋を差し出す。


「はい。冷めちゃったけど、鶏のスープと小麦パン。魔族がどういうものを食べるのか分かんなくてさ。食べれなかったら言って」


魔族、と彼女が発言したのを聞いて、メルトがビクッと顔を上げる。

彼女が怯えた様子を察したのか、デュプケは竜の子がパンと革袋を受け取ったのを、手を揺らして確認してから向き直った。


「大丈夫。あたしは人間族だけど、別にあなた達のことを誰かに言ったりしないから」

「人間族……? 魔女じゃないの?」


メルトが不思議そうに口を開く。

デュプケは光の繭の脇に腰を下ろして息をついた。


「魔女だよ。人間出身のね」

「こんな高度な術式を扱える人間がいるの? それに、あなたはまだ子供に見える」

「お母さんが魔族だよ。あ、これバレたらあたし、村の人達に八つ裂きにされちゃうから。くれぐれも内密にお願いね」


少女は恐ろしいことをサラリと言うと、寒そうに肩を抱いて小さくなった。


「で、魔族のお二人はどうしてこんな森の深層に? 魔族がいる森の上層からは、随分離れてるはずだけど」

「深層?」


意味が分からず問い返す。

メルトを見ると、彼女は白い花を抱いて首を振った。


「うん。まさか上層から落ちてきたとか?」

「上層とか深層とか……よく分からない。僕もメルトも、産まれたばかりなんだ」

「へえ? その割には随分ハッキリ喋るんだね」


特に疑問に思ってもいない風に、デュプケは言った。

そして立ち上がって竜の子に顔を近づける。

薬草のような爽やかな匂いがした。

眼帯に隠された目の部分。

そこから両頬に至るまで、醜いケロイドが覗いている。


「嘘は……ついてないみたい」

「嘘じゃない。僕はドラゴン。父と母はエンバードラゴンって言ってた」

「…………」


デュプケはそれを聞いて、初めて驚いたように一歩下がった。

彼女の様子を見て、メルトが補足する。


「私は坊ちゃまにお仕えする、由緒正しき花妖精です! メルトと言います」

「よろしく、おちびさん。あたしはデュプケ」


メルトに丁寧に名乗ってから、彼女は息を吐いて顎に手を当てた。


「……エンバードラゴン。絶滅したんじゃなかったのね」

「絶滅?」


不穏な単語に、思わず聞き返す。

呟かれた言葉だったが、妙に心に引っかかった。


「……で、そのエンバードラゴンと花妖精の子供達が、どうしてこんなとこに?」


同じ質問を繰り返し、デュプケは付け加えるように言った。


「このオプシアの森は、聖樹オプシアを中心に広がってる。ここは、森の東側、人間族の領地アラン。あなた達が来たのは、おそらく森の西側からだね。大断崖、って呼ばれる大きな谷が間を隔ててる。こんな嵐の中、簡単に越えられるとは思えないけど……」

「…………」


メルトは少し考え込んでから、怪訝そうに言った。


「私達、人間族の領地まで飛ばされちゃったってこと……?」


14 に続く

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