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私を愛する事は無いと言った人と、私だけだと言った人

作者: 桃井夏流
掲載日:2024/04/14

ヒーローがヤンデレになりました。ザマァ要素も少しあります。お気をつけて下さい。感想をいただき、最後補足しました。


「君を愛することはない」


何処かの物語の様に、初めて会った訳でもなければ、いがみ合っていた訳でもないと思う。けれど、私の婚約者は突然そんな事を言って来た。


正直な事を言えば、私は親が決めた婚約とは言え、クロッサンド殿下に恋心めいた物が無かった訳でもないから、当然ショックではあった。


けれど私はこの国の宰相の娘であり、みっともない姿を晒すのは恥ずかしい事であった。そう言われて、そう言う風に育ってきた。


泣いて縋れない程度の想いだったのならば、いずれ忘れられるだろう。そう思って私は小さく頷いた。


「わかりましたクロッサンド殿下。ですが、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


こんな時も君は申し訳ない態度も取れないんだな、と侮蔑する様に言われて、私は傷付きながらも殿下の言葉の続きを待った。


「君がアリスを害していると聞いた。残念ながら証拠もあるようだ。そんな人間を国母にすることは出来ない」


私は息を呑んだ。

それは殿下の言った事が事実であったからでは無い。でも、もしかしたら、こんな事が起こるかもしれないと、心の何処かで思っていたからかもしれない。


そんな私の態度に、殿下は心当たりがあるようだな、と見当違いの事を呟いた。



アリス・バーソン男爵令嬢。今学園の男子生徒の中で異様な程人気のある元、平民の少女だ。

私はその異様さに恥ずかしながら恐怖心を抱いていた。


だって、誰も彼女を独り占めしたいと言い出さない。これっておかしい事じゃないかしら。


あんなに愛されているなら、高位貴族は正妻は難しくとも、愛人としてでも傍に置きたいと思ってもおかしくない。

彼女と釣り合う身分なら当然恋人に。ゆくゆくは結婚したいと思うものではないのかしら、と。


でもどうやらおかしいと思っているのは私の他に一人だけのようで。それが怖くて私は彼女に近寄る事は無かった。だから、私が彼女に害など成せるはずがないのに。


「その証拠は、どういうもので…」

「無視出来ない程の客観的な目撃証言もあれば、物的証拠もある。私は残念だよシエラ。いや、ティラスムーン公爵令嬢。こうなっては私も君を庇いきれない。婚約は破棄させてもらう」


庇いきれない、そう。殿下はそう仰るけれど、庇おうと言う意思が生まれたのかすら今となっては怪しいところだ。

けれど、今ここで私が身の潔白を証明しようとしても難しいでしょうね。


『異様』な彼女に太刀打ちするカードが今の私には無い。



「………謹んで、お受けします。今までありがとうございました、殿下。御前、失礼致します」


先程まであった筈の殿下への僅かな好意は綺麗サッパリ消え去っていた。


残ったのは不安。父は私をどうするだろうか。使えない駒だと修道院に送られるだろうか。それも悪くないかもしれない。

修道院には、きっと今の様な異様な、ううん、異常な自体はそう起きないと思うから。



「シエラ!」


回廊を歩いていると隣国の王子殿下で、親しくさせていただいていたマキアス殿下が珍しく慌てた様子でいらっしゃった。


「まぁ、どうなさいました?」

「ごめん…一部始終聞いた。どうなってる?いよいよおかしい。シエラがそんな事する訳がないのに」


私の目から、思わずポロッと涙が溢れた。妃教育を受けていた私はびっくりした。自分にまだそんな事が出来ると思わなかったからだ。


でも、信じてくれる人がまだ居た。その事がおかしいくらい私をただの女の子に戻した。


「マキアス殿下、私、知らないです、やってません。害がなんだかも分からないのに…」


私はハンカチを出そうとした。隣国の王子殿下の前でこんなにボロボロと泣くのは失礼にあたると思ったからだ。マキアス殿下の国は我が国より遥かに大きな国であり、友好国であれど、礼を欠いてはいけない。


でもそんな私をマキアス殿下は引き寄せて、髪を梳いた。大丈夫、大丈夫だ、と繰り返しながら。

私はその優しい声に次第に涙も落ち着いてきた。


「私、悔しいです。無実の罪で修道院に行く事になるかもしれないなんて」

「…なんだって?」


あれ?マキアス殿下怒ってらっしゃる?


「何故君が修道院に行かねばならない。私は嫌だ。君がようやく人のものから解放されたのに、今度は神のものになるなんて」


それはまるで愛の告白の様で。私はどうしたらいいのか分からず、俯いた。


「……ありがとう、ございます。マキアス殿下が信じて下さった事、一生忘れません」


「諦めないでくれ。早すぎるし、君は少し聞き分けが良過ぎる。もう私はシエラを諦めるつもりはない。この国が君を必要としないなら、私が連れ去っても良いだろうか」


ドキドキする。こんな気持ちは初めてだ。


でも、良いのだろうか?仮にも国母となるべく知識を与えられた私が、友好国とは言え他所の国の者になっても。


「難しく考えないでシエラ。君は真面目だから難しいかもしれないけど、今は、今だけでも良いから、わがままになってくれ。ほんの少しでも私を想ってくれるなら、着いて来て欲しい」


私はどうしたい?このまま理由のわからない出来事で、してもいない罪で父にも断じられる事に耐えられる?


耐えてまで、この国に、義理を立てる必要があるかしら?


この国は私が要らない。それなら、私を必要としてくれる、この方に着いて行っても、良い?


决意した私がその言葉に頷くと、マキアス殿下は綻ぶ様な笑顔で私を抱き上げた。


「一生大事にする。君だけを愛すると誓うよ、シエラ」



同じ日に、全く反対の言葉を殿方に言われるなんて思ってもみなかった。


私は照れくさくて、マキアス殿下の様に堂々とは言えないけれど、マキアス殿下の耳元に唇を寄せて囁いた。


「一生かけて、この想いを育て続けます、マキアス殿下」





三年後。アリス・バーソン男爵令嬢は禁止されている魅力魔法の使用をし続けた事により、魔力枯渇をおこし、そのまま罪人塔に幽閉されたらしい。


らしい、と言うのは、いくら調べようとしても、そのくらいしか私の元に情報が入って来ないからだ。


マキアスは思いの外、過保護で、独占欲が強く、私を国に連れて帰ると自分の宮から出したがらなくなった。


「ねぇマキアス。籠の鳥もたまには知りたい事もあるのよ?」

「シエラが傷付く情報ばかりだよ。君の夫は心が狭くてね、君が私の事ばかり考えて生きて居れば良いのにとすら思っているんだ」

 

「…籠から出たいと言った訳ではないのに。そんな泣きそうな顔しないで?もういいわ。全く、自分の貴方への弱さを叱りたいくらいよ」

「ごめんね、この国も完全に君に安全とは言い切れない。この中なら守り切る自信がある。不甲斐ない私を許してくれる?」


まるで羽を切られた小鳥の様なのに、私は今以上の異様さを知っているから、この腕の中で安心してさしまえるのだ。


「愛しているから、許してあげます」


その甘い口付けに、私を組み敷く身体に、溺れてしまうのだ。



「私も愛しているよ。私にはシエラだけだ」



もう空は遠い。



***



君はなんにも知らなくて良いんだ。

魅力された奴らが、私の様にされなかった一部の人間に今は糾弾されて居場所が無くなった事も。


君の元婚約者がそれと同じ理由で廃嫡されてあの女と同じ様に幽閉された事も。


宰相が君を取り戻そうと躍起になっている事も。


この腕の中に居る私のシエラはなんにも知らなくて良い。

知ってしまえば優しい君の心に奴らが残ってしまうから。


君には辛い思い出かもしれない。でもそれはそのままであってほしい。そこに慰みなんかあってはシエラの新しい記憶になってしまう。


特に宰相なんか、どんな理由で君を取り戻そうとしているか、知られたくない。それは決して愛なんて優しいものではないから。

けれど、それでも良いと、父の元に帰りたいとシエラに泣かれでもしたら、私は、どうなってしまうか分からない。


自分でもヤバイ人間だと言う自覚はある。こんな男に捕まって不憫と思われるだろうとも思う。

でもそれでも私は君だけを愛しているんだシエラ。君だけが許してくれたらそれでいい。


だからもし君が何か知ってしまっても、どうか、私の籠から逃げ出さないで欲しい。


私の愛は、君だけだから。

補足:君を愛する事はない、と言う台詞の話を書きたくて書きました。アリスは乙女ゲームの主人公で、愛されたいと言う願望がありました。

シエラは悪役令嬢の立場でありましたが、転生者の魂を持っていた為、魔法にかかる事はありませんでした。

マキアスは隠しルートのキャラですが、隣国では魔法耐性も発達している為、魔法にかかりませんでした。


読んで下さってありがとうございました。

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