真実の愛があればすべて許される
読み切りギャグです。気軽に読んで下さい('ω')ノ
途中で視点変わります。
新年を祝う王宮の舞踏会は、ざわついていた。
第2王子のエドワードが、婚約者であるマリー=ヴァンシュタイン伯爵令嬢をエスコートしないばかりか、その妹のサリーをエスコートして登場してきたのである。そればかりか互いに腕を組んだり、エドワードがサリーの腰に手を回したり、必要以上に密着していて明らかに特別な関係と分かる。
そのうえ実の両親である伯爵夫妻も、注意するどころか微笑ましいものを見る目で、2人を見守っている。
以前から伯爵夫妻が、上の娘と下の娘を差別して虐待していて、婚約者のエドワードも一緒になって冷遇しているという噂があったが、やはり本当だったかと周囲は確信した。
「やはり、あの噂は本当だったようだな…」
「これは、ただでは済まないな…」
周囲がヒソヒソと囁いている中、全く気付きもせずエドワードが登場するなり、大声を張り上げた。
「マリー、出て来い!」
その声に誰もが修羅場と伯爵令嬢の悲惨な末路を予想して、憐れみと好奇の眼で第2王子達に注目した。
が、いつまで待っても伯爵令嬢は現れなかった…。
「マリー、出て来いと言っているだろう!俺の命令が聞けないのか!!」
さすがにおかしいと周囲がざわつき、中々出てこない婚約者に、エドワードも顔を真っ赤にして怒る。サリーや伯爵夫妻も、どうしたんだと周囲を見回すが、マリーの姿は見つからなかった。
「あのぉ…」
そこへ1人の兵が、王子達に声をかけて来た。
予想と違う人物の登場に、エドワードがさらに苛立つ。
「何だ貴様は!お前なんか呼んでいない、大人しく引っこんでいろ!」
「いえあの…マリー伯爵令嬢を、呼ばれていたみたいなんですが…」
兵がマリーの名を出すと、エドワードが食いついた。
「貴様、マリーがどこに行ったか知っているのか!?」
「マリー伯爵令嬢なら会場に入る前に『大事な用を思い出した』と、お帰りになりました」
「「「「はぁ!?」」」」
予想外の返事に、第2王子達は驚く。
「ふざけるなあの女、何が『大事な用』だ!あの女をさらし者にして笑い者にする以上の、大事な用があるか!!!!」
「そうよ!あの女が濡れ衣着せられて、全て奪われて惨めに野垂れ死にするのを、楽しみにしていたのに!」
驚きと怒りのあまり、悪辣な計画を暴露する2人。
それに伯爵夫妻も追随した。
「全くだ!姉の癖に、妹を楽しませる事も出来ないとは!何1つ取り柄が無いんだから、妹の為に犠牲になるくらいして見せろ!」
「全くですわ!あんな役立たずな子、産むんじゃなかった!」
実の娘や姉、数年来の婚約者に対するあまりにも非情な言葉に、誰もが4人に憤りと冷たい視線を向けるが、4人は気づかない。
「あのぉ…」
憤慨している4人に、またおずおずと兵が声をかける。
「何だまたいたのか。ちょうどいい、お前伯爵家に行って、マリーを連れてこい!怪我はいいが、殺すなよ?まださらし者にするという、大事な役目があるんだからな!!」
しかし兵は、エドワードの言葉を無視して言葉をつづけた。
「そのマリー嬢から、王子にお手紙を預かってます。王子が公の場で自分を呼んだら、渡すようにと…」
そう言って、1通の手紙を差し出す。
すると王子が顔を顰めた。
「あの女が俺に手紙だと?何だ、命乞いでもする気か?まぁいい、読め」
偉そうに腕を組んで、手紙を読むよう兵に促す。自分で読む気はない様だ。
仕方なく兵は手紙を開いて、大声で読み始めた。
『ごきげんよう、殿下。
きっと今頃は、私に濡れ衣を着せて笑い者にする筈だったのに、当てが外れて4人で怒り狂ってるところでしょうか?
バッカじゃないの?濡れ衣着せられて、酷い目にあわされると分かっているのに、誰がのこのこ出向くというの?そんなんだから、学園の成績がいつも赤点スレスレなのよ!いつもいつも自分の仕事を人に押し付けて、人の目の前でサリーとキスしたり、抱き着いたりするわ、注意すれば『真実の愛だから許されるんだ』と、堂々と言い切る。
そうそうサリー、貴方も私の数少ないアクセサリーやドレスを奪っては『真実の愛で結ばれた2人を、引き裂く悪役令嬢だから慰謝料は当然』と言って、正当化する始末。お父様もお母様も注意するどころか『貰って当然。妹の恋人と婚約するお前が悪い』と、言いきってましたわね。自分達でムリヤリバカ王子と婚約させた癖に、私が好きで婚約したかのような発言!おまけにお父様に至っては、自分の仕事まで押し付けてくる始末!良い機会なので、こちらから喜んで婚約破棄と絶縁を言い渡します。もちろんそちらの有責でね!
という訳で、慰謝料として貴方達の持ち物をいくつかいただきます。
事後承諾だけど、もちろん異論はないわよね?だって貴方達がずっとやって来た事なんだもの。
いただいた慰謝料は、私と愛する人との今後の生活費として、大事に使わせていただくわ。
そう、私にも愛する人がいます。
貴方と違って優しく、誠実で頼りになる方です。
私の『真実の愛の相手』です。
もちろん許して下さるわよね?だって『真実の愛があれば、何をやっても許される』んですものね?
あぁそうそう。
探そうなんて、思わないで下さいね?
そうなったら自衛のために貴方と伯爵の『公にされたら、困る不正や不祥事の証拠書類』が、公に出ることになりますよ?
私は他国で真実の愛で結ばれた方と、幸せになります。
貴方達もどうぞお幸せに。
それではごきげんよう。
お・バ・カ・さ・ん♡
PS.
今度から仕事の書類、特に見られて困る書類は、人に押し付けない方がいいですよ?』
読み終えた途端、兵は王子に締め上げられた。
「貴様~~~~~!!!!」
「ぐえ―――!!」
兵が苦しがって手足をばたつかせるが、エドワードは止まらない。
そこに伯爵が声をかける。
「王子、どうします?」
すると兵を乱暴に突き飛ばすと、踵を返した。
「もちろん探すに決まっているだろう!あの女、人をバカにしやがって!見つけ出して処刑してやる!!」
しかし伯爵が待ったをかける。
「しかしそうすると、我々の証拠書類が…」
その言葉に、エドワードも頭が冷えて、ピタッと足を止める。
「う~~む…このままではとても腹の虫が治まらないが、公にされるのも…」
さすがのエドワードも悩んだ。
そこに不運な兵が、またも声をかける。
「あの~~、すっごく声かけたくないんですけど…」
「じゃあかけるなよ!」
それどころではないが、思わずツッコミを入れる。
「実はウィリアム公爵子息からも、手紙を預かってまして…」
「おぉそうか!そう言えば見かけなかったな…どこに行ったかと思ってたんだが!」
「さすが若くして公爵位を継いだ子息だ!きっとこの事態を予想して、マリーを追っていたんだな」
2人の顔が、希望でパッと明るくなる。
兵は手紙を差し出すと急いで逃げようとしたが、逃げきれなかった。
「おいお前読め!」
王子に指名されたら、逆らえない。
兵は自分の不運を呪いながら、渋々手紙を開いた…。
『拝啓殿下ならびに、伯爵家の皆さん。
きっと今頃マリーの手紙を読んで、逆恨みで激怒しているところでしょう。
ハッキリ言って自業自得です。
これまでどれだけの仕打ちを、彼女にしてきたと思ってるんですか?
いえ何も思ってないんでしょうね。
娘だから、身内だから、婚約者だからと好き勝手やって来たあなた方の事ですしね。
もうお気づきでしょうが彼女の『真実の愛の相手』は、僕です。
初めはお互いバカ王子に尻拭いをさせられてる者同士、慰め合っているだけだったのですが、そのうちお互いに好意を抱くようになりました。
まぁありきたりではありますが、数年かけてお互い分かり合った上での事ですので、どこかの馬鹿共のように顔だけ、身分だけで『真実の愛』だなんて言ってませんし、末永く付き合っていけると思います。
あぁ『婚約者のある身で他の男と~』なんて、言わないで下さいね?ブーメランですから。
それと『真実の愛』で思い出しました。
この前殿下に『真実の愛の相手だから、調べて置け』と言われた男爵令嬢ですが、先日幼馴染の子爵令息と結婚したそうですので、お諦め下さい。
それでは僕達は他国で幸せになります。
貴方も『37番目の真実の愛の相手』と、お幸せにどうぞ。
今度は3か月以上もつと、いいですね。
PS.
優しい彼女と違って僕は『先手必勝』の男です。
「ふざけるな――――――!!!!」
王子は怒りの余り、手紙を奪い取って破り捨てた。
細かく破り捨ててもまだ気が収まらず、何度も足で踏みにじった。
「もう怒ったぞ!父上に言って、2人とも処刑してやる!!」
足音高く父王の元に向かおうとしたエドワードの腕をつかんで、止めるものがいた。
「酷いわエドワード様!」
「さ、サリー?どうしたんだ?」
泣きながら食って掛かる恋人に、エドワードが戸惑う。
「『37番目』って何よ!『今度は3か月以上もつといいですね』って、どういう事!?」
「あ」
その時になって思い出したが、もう遅い。
「酷いわ!私に隠れて他の女と付き合っていたなんて、しかも36人も!」
癇癪を起こすサリーに、エドワードも怒りを忘れてタジタジになった。
「いやほら、過去の事だから…」
「38人目を物色していた癖に!!!!」
「そうですぞ殿下!うちの娘をもてあそぶなど!」
「あんまりですわ、あれだけ『真実の愛』と言っておきながら!」
泣き喚く娘に、それまで黙っていた伯爵夫妻も加勢する。
もはや2人を追うどころではなかった。
周囲の連中も冷たい視線から「この茶番いつまで続くの?」という、ウンザリした視線に変わっていた。
「静まれ!」
そこへ広間に大声が響く。
国王と王太子が入場してきた。
エドワードを除いた全員が、頭を下げる。さすがの伯爵夫妻も、国王に非礼はできなかったらしい…ちなみにサリーは、両親に頭を押さえつけられて、無理やり下げさせられていた。
「父上!マリーが私という婚約者がありながら、宰相子息と駆け落ちしました!浮気です、不義密通です。今すぐ捜索して処刑して下さい!!」
「馬鹿者!自分を棚上げしてよくも言えたものだな!しかもマリー嬢に仕事を押し付けていただと!?王家の機密が駄々洩れではないか!おまけに賄賂を貰って、脱税や密輸を黙認していただと!?貴様のような奴に王族を名乗る資格はない、身分を剥奪する!」
「そんな!何でその事を!?」
「ウィリアム公爵子息が、証拠書類を届けてくれたわ!!」
父親の登場にエドワードが笑顔で詰め寄るが、激怒した国王が証拠書類を投げつけて、怒鳴りつける。
味方と思っていた父王に叱られて、エドワードが項垂れる。
「それと貴様が今までたらしこんだ令嬢達から、抗議と慰謝料の請求が山のように来てるぞ!『真実の愛だ』と言ってしつこく口説いてきた癖に、付き合い始めて3か月と持たずに浮気三昧だとな!!」
それを聞いて伯爵一家が騒ぎ立てる。
「酷いわ!やっぱり浮気してたのね、婚約破棄よ!慰謝料請求よ!」
「そうだそうだ!娘を傷つけるなんて、いくら王子でも許せないぞ!」
「慰謝料はしっかりいただきますわ!」
身分を剥奪されたエドワードに見切りをつけて、金をせしめようとした伯爵達だったが、国王の怒りは彼らにも向かった。
「ふざけるな!マリー嬢をあれほど虐待しておいて何が『娘を傷つけるのが許せない』だ!貴様らまとめて牢屋行きだ!衛兵!」
「そんな、待って下さい父上!」
「畜生バカ王子、お前のせいだ!」
「そうよ、アンタがマリーに濡れ衣着せて見世物にしようとするから!」
「何だと!貴様らも喜んで同意していた癖に!」
「うるさい!さっさと歩け」
国王が呼ぶと、すぐさま兵が駆けつけてわめく4人を連れて行った。
傍観していた貴族達は、やっと茶番が終わったとホッとした。
その陰で一組の男女が、そっとその場を離れたのを、誰も気づかなかった…。
「あーいい気味!」
「本当に。スッキリしましたね」
会場を抜け出して変装をとくと、私とウィリアムは先ほどの茶番を思い出し、大笑いした。
「我儘を聞いてくれてありがとう。馬鹿共の醜態も見れたし、これで心置きなく旅立てるわ」
「いいえ。僕も彼らの行いには、我慢の限界でしたから。最高の門出になりましたね」
出発を遅らせて申し訳ないと思ったが、彼も同じ気持ちでいてくれた事に嬉しくなった。
「それにしても…大勢の貴族の前で、あそこまで取り繕うことなく自分達から暴露するなんて、揃いも揃ってどれだけバカなのか…」
ため息をつく彼に、クスッと笑う。
「まぁ4人ともずっと権力で周囲を黙らせてきたから、取り繕うという発想が抜けてしまったのでしょう」
私の言葉に彼が深々とため息をつくと、気を取り直すように今後の話を振って来た。
「さて、まずは隣国の伯母上のところに行って式を挙げて…その後はどうします?」
「色んな国に行って、あちこち見て回りたいわ!ずっとバカ共に縛られて狭い世界の中だったもの」
「そうですね、では行きましょう…僕達の真実の愛のために」
その言葉に笑いながら差し出された手を取り、待たせていた馬車に乗る。
きっとこの先、慣れない国や場所で苦労する事もあるだろう…泣いたり、怒ったり、彼とケンカする事だって、あるかもしれない。
でも彼と一緒ならきっと大丈夫だと思えた。
そうして私達は、新しい未来へと向かった。
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