七幕 月刊黄巾radio『第7回』
「はいどうも。というわけで、今回も始まりました。『月刊黄巾radio』。メインパーソナリティは私、【張宝親衛隊なんて絶対に認めねえ】、鄧茂と」
「【ミステリアスな黒髪美少女】、程遠志でお送りいたします」
「ぶふっ」
「………」
「………」
「何よ」
「いや、別に」
「………」
「黒髪美少女www。ミステリアスwww」
「ちょっと、CMで!!」
「何考えてんのよ、あんた!」
「いや、俺はお前の通称を呟いただけじゃねえか」
「芝生やしてんじゃないわよ!!」
「うるせーなー」
「あんた、お姉様は上官よ? 上官の言うことには従う、んじゃないの?」
「ぐ………、わーったよ。真面目にやりますよー」
(まさか、ホントにこれで従うとは)
「はい、初っ端からCMごめんなー」
「誰かさんの失言のせいでねー」
「う、あー、と。先月の放送を聞いてない人のために紹介しとくと、今俺の前にいるのは、先月から新たにこの放送のパーソナリティに加入した、程遠志って奴だ」
「どうもー。あ、ちなみに、私の前にいるゴツい男は鄧茂。みんなもお馴染みよねー。今回もこのだみ声で失礼するわー」
「ぐ、えー、と。程遠志は先月行われた黄巾の幹部会にて、『未』の中方長に任命されたんだよな」
「鄧茂は『牛』よね。鈍牛(笑)」
「じょーーーーぅとうだ、てんめえ、この野郎が!!!!」
「………ごめんて」
「」ギリギリギリ
「さすがにしつこかったって思ったわよ」
「」ギリギリギリ
「だから無言で歯ぎしりやめて胸倉掴まないで」
「」ギリギリギリ
「はい、どーも、月刊黄巾radio。ちょっと遅れたけど、始めていきまーす」
「まずは、オープニングミュージック。張宝お姉様が歌います。『起て、同志』。聞いていただきましょー」
起て (起て 起て)
叫べ (叫べ 叫べ)
目を (逸らさずに)
理不尽を
打ち倒せ
民が泣き 水が枯れ 大地が揺れる
王朝は 贅を侍らし
私腹を肥やす 悪代官
悪政認める 国の法
乱れた この国に
正義を 示すのは
黄色い 勇士だ
黄天を 仰ぎ見ろ
「―――はい。張宝さんのファーストソング、革命歌、『起て、同志』でした」
「お姉様ー。素敵ですー」
「今月も、放送の最後には張宝さんの新曲を披露するからなー」
「はぁはぁはぁ」
「落ち着けよ。さて、次はすっかりお馴染み、中方長の紹介コーナー、『教えて十二志』です。今回は誰の紹介になるのかな?」
「このコーナーでは、箱の中に入ったくじを引き、そこに書かれている十二志のメンツに質問をしていくコーナーです」
「じゃ、程遠志。早速、引いてくれ」
「あいー。………これだぁ!」
「えーと、なになに? ………え」
「ん? 誰になったの?」
「えー、と。………『申』中方中方長、何儀、です」
「………………え」
「これは、放送事故待った無しだなぁ」
「えーと」
「おろろろろろ」
「おい、ミステリアスビューティー。吐くなら向こう行け」
「おろろろろろ。ごめん。おろろろろろろろろろろ」
「えーと、トラウマスイッチが発動したんで、程遠志は一時離脱です。番組終了までに帰ってこれるのかな、あいつ」
「ではでは、一人になりましたが、続けます。まぁ、先々月までは俺の一人喋りだったしな」
「何儀さんに事前に取ったアンケートがあります。これを読み上げていくので、皆さん、お聞きください」
Q1.お名前は?
A1.何儀だぁ。
Q2.なぜ、黄巾に参加したんですか?
A2.お腹いっぱい、ご飯を食べるためだぁ。
Q3.なるほど。ところで、あなたの得意な武器は何ですか?
A3.好きな食べ物は人間だぁ。
Q4.聞いてませんよ。黄邵さんとは仲がよろしいんですか?
A4.女の肉は軟らかすぎて美味しくねぇなぁ。男の肉がコリコリして美味いんだぁ。
Q5.ちょっと、イメージ悪すぎませんか、あなた。
A5.運動をしっかりした肉がいいよなぁ。
Q6.落ち着いてください。
A6.腿の肉が張ってて美味いんだぁ。
Q7.あの、ちょ。
A7.お腹空いてきたし、もういいかぁ?
Q8.………会話になりません。もう結構です。
A8.そんじゃぁ、いただきまーす。
「………。え? 終わり? え、待て待て。インタビュアー、無事か!? 生きてるか!?」
「………。えーと、インタビュアーは消息不明だそうです。え、待って、闇が深すぎないか!?」
「戻りましたー。程遠志です。お見苦しい所をお見せして済みませんでした」
「………おかえり」
「どしたの? 顔色悪いわよ?」
「この革命軍、一部の闇が深すぎるんだが」
「………」
「………」
「つ、次のコーナー、行きましょう」
「この放送、お蔵入りにした方がいい気がしてきた」
「気を取り直して参りましょう」
「『ふつおた』コーナー」
「これは、放送を聞いているみなさんから寄せられた、お便りをご紹介するという企画です」
「じゃんじゃん行きましょー。ラジオネーム《君よずっと幸せに》さんからのお便りです。えーと、『鄧茂さん、程遠志さん、毎月お疲れさまです。いつも楽しみにさせていただいてます』。わー、こういうのが来ると嬉しいわね」
「まぁ、これやってて良かったと思える瞬間だわなぁ」
「『ところで、最近、僕は美食に凝ってるんですが』………ん?」
「ほぉ。この不景気に優雅な人もいたもんだ」
「………『お二人は人肉で好きな部位はどこですか?』おろろろろろ」
「てめえ、何儀だな!? テロすんな!!」
「おろろろろろろろろろろ」
「えー、このお便りはポイします。つぎつぎ。ラジオネーム《風にそっと歌うよ》さん。『先日、私の彼氏が何者かに食べられました。骨しか残っていません』。かーぎー!! ついに来ちゃったよ! 被害者からの苦情だ!」
「おろろろろろ」
「『………あの、人肉って、美味しいんですかね』。やめろぉ! その道は進んではいけない!!」
「おろろろろろろろろろろ」
「おまえ吐くならあっちに行けよ」
「うー、うーー」
「涙と胃液と汗と鼻水でぐしゃぐしゃです」
「実況すんなぁ!」
「いやおまえ、放送始まってから半分くらい吐き続けだからな? 放送事故ってレベルじゃないからな?」
「うるさい! うー、次のお便りは私が読むわ!」
「あー、スタッフさん。そろそろこいつが限界だから、何儀関連は避けてくれ」
「………。………くそぅ。えーと! ラジオネーム《Woo Yeah》さん。………随分、テンションの高いラジオネームね。えーと、『鄧茂さん、こんにちは』」
「はい、こんにちは」
「『僕の村はアナタに滅ぼされました。家族も友人も殺されました。人生がめちゃくちゃになりました。どう責任取ってくれますか? とりあえず、謝ってください』。重い重いおもーい! これはこれで放送できないレベルじゃないの!?」
「そうか。そりゃ悪いことしちまった」
「え!? これ、続けるの!?」
「あ? そりゃこのコーナーは『ふつおた』コーナーだからな。ちなみに、正式名称は『復讐の集いからのお便り』コーナーだ」
「普通のお便りじゃなかったの!?」
「まぁ、みんな気にしてんだよ。民のためにと立ち上がった集団なのに、民を攻撃するからな、俺ら」
「私はしーてーなーいー」
「おまえはどっちかっていうと、村を潰した功績じゃなく、鎮圧軍を退けた功績で中方長にいるからな」
「そんなことまで知ってるとか………あんた、私のこと好きなの!?」
「はーい、拾いませーん。対して俺は村から物資を徴収したり、寄越さない村は潰して総取りしたりしてたから、そりゃ恨まれてるだろな」
「会話主体の放送で言葉のキャッチボールを無視するとかどういうことよ………」
「あー、はいはい。めっちゃ好きめっちゃ好き。まぁ、この《Woo Yeah》さんには悪いことしちまったな。俺、基本は逆らった村皆殺しにしてんだけど、見逃しちまったか、すまん」
「………何が怖いかって、悪びれもせず、めちゃくちゃ笑顔で謝ってるところよね。あ。あと、私はあんたのこときらーい」
「まじでぇ? しょっくー。まぁ、俺は無抵抗で物資を差し出した奴らには誓って何もしてない。だからまぁ、《Woo Yeah》さんは村の人間を誇ってくれ。力に屈さず、勇敢に戦ったんだ。で、おまえは生きろ。生きて、いつか俺に復讐に来い。仇を取りに来い」
「………鄧茂」
「今度こそ、しっかり殺してやるからな!」
「仇を雪がせてはくれないんだ!? 返り討ちにしちゃうんだ!?」
「情けをかけるなんて、もののふには失礼だぜ」
「《Woo Yeah》さん、頑張って強くなって。そんでこんな鈍牛なんか殺しちゃいなさい!」
「君たちの熱い挑戦を待ってるぜ!」
「あと二通ね。このコーナー、長くない?」
「当たり前だろが。どれだけ俺らが恨まれてると思ってやがる」
「完全に、一部の人たちによるとばっちりじゃない! 私たちは本来、病気を治す側の人間よ!!」
「おー。熱いねー、しーちゃん」
「しーちゃん言うなし」
「そんなあなたにこのふつおたをどうぞ。ラジオネーム《愛は今も愛のままで》さんからのお便り」
「てかなんなのよさっきからこのポエムみたいなラジオネーム」
「ありゃ、気づかないのか」
「???」
「『黄布のクソ共、こんにちは』。はい、こんにちはー」
「まってまって罵倒されながら朗らかに挨拶を交わすことを求められたんだけど、って突っ込む間もなく、あんたは何普通に返してんのよ!!」
「はーい、被害者の会の雑魚さん、こんにちはー」
「挨拶に罵倒を重ねるの!?」
「『おうこら。てめえらんとこのクソ教祖に治してもらった病気が再発したぞ助けに来いやクソが』。とのことです。上等だ。この村には特別に俺が直々に潰しに行ってやんぞ、ごらぁ!!」
「何であんた文章と喧嘩してんのよ!! ………住所を確認しました。一週間以内に薬を持って向かいます。安静にしていてください!」
「まったく、嫌なリスナーだな」
「あんたが嫌なパーソナリティすぎるのよ!」
「ったく! 最後のお便りだ」
「ちょっと、スタッフ。こいつを刺激するような内容は避けて。最後は私が読むわ。ラジオネーム《揺れる木漏れ日、薫る》」
「「ふふーふーふふ」」
「お、きづいたのか」
「さっきね。このリスナーたち、実は私たちのこと大好きなんじゃないの?」
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってことだろ」
「それがわかってるなら、あんまし怒らないでよね」
「………わり」
「さて、改めまして、ラジオネーム《揺れる木漏れ日、薫る》さんからのお便りです。『純粋な疑問なんですが、鄧茂さんが今まで潰した村の中で、一番印象に残っているのは僕の村ですか?』。と、途中からちょっと怖いわね、この人も」
「なんだよ、また生き残りか。俺もヤキが回ったな。ま、おまえの村じゃねえよ。わりいけどな」
「色々と最低なのは、もう突っ込みません」
「理由としては簡単だ。俺がもっとも印象に残った村は、俺が完膚なきまでに皆殺しにしたからだ」
「で、何が印象深かったの? 強い奴でもいたわけ?」
「いや、なんつーか、気味が悪かった。俺が物資を寄越すように言ったら、そこの村長がすぐに差し出してきた。一軒一軒から少しずつ、物資の提供を受けた俺は気づいたんだ」
「何に?」
「村外れにも家が建ってた。で、俺が『あの家の人間はどうした。あの家からはまだ提供を受けていないぞ』ってな具合に言った訳よ。したら村長は『あの家に住む子は旅に出ております。あの家だけはお見逃しください』なんて言うのさ」
「何か隠してるのかしら?」
「おう。俺もそう思ってな。『隠し立てすると容赦しないぞ』って脅したんだ。でも、村長は首を振った。俺は更に脅すために刀を抜いた。したらガキがいきなり殴りかかってきてな。反射的に斬っちまったんだ」
「………うーん」
「物資を提供する意志のある村はなるべく生かしてやりたかったから、俺も『やべ』って思ったわけさ。で、つい、怒鳴っちまった。『てめえら、死にてえのか!?』ってな。それでも村人は退かないんだよ。それどころか俺を囲んで金やら飯やらを差し出してくる。けど、俺も引っ込みがつかなくなってな。押し退けようとしたら、今度は槍を持ってきた男がいてよ。そいつも斬った」
「………」
「それからは、女も子供も年寄りも、みんなして武器持って突っ込んでくる。最初は躱してたが、『次に突っ込んで来たら、皆殺しだぞ』って言ったら、村長の爺さんが『あの子の帰る家を荒らされては顔向けできん!』って言って切りかかって来やがった」
「………それで」
「爺さん斬っても、他の奴らは少しも怯まねえ。仕方ないから斬った。最後の一人になっても、戦意は落ちなかった」
「………家には?」
「なんもねえよ。槍が数本あるだけだった」
「なんなのよ、それ」
「あの村は、忘れらんねえな。確か村長は、鋳法縁とか言ったな」
「………最後に後味悪くなったわ」
「まぁ、ここらで締めにするか」
「えーと、告知です」
「我が黄巾党は、各村村からの物資の提供を随時受け付けております」
「食べ物や武器、農具や布など、どしどし送ってください」
「送って下さったみんなには、抽選で五十名様に、張宝さんの握手券を差し上げます」
「奮ってご応募下さい」
「「お待ちしております」」
「それでは、そろそろお別れのお時間がやって参りました」
「最後はお姉様のニューソング、『悲しみの果てに』をお届けしながらのお別れとなります」
「お相手は『牛』中方中方長、鄧茂と」
「『未』中方中方長、程遠志でお送りしましたー」
「みんなも黄天の世を目指して頑張ろう!」
「私たちも頑張っていくよー。おー」
「それではさよなら。また来月」
「さよーならー」
しばらく笑顔で手を振っていた二人は、一呼吸おいて脱力した。
鄧茂と程遠志は二人で机の片側に座っており、二人の前には数十人の男女が立ちながら筆を走らせていた。
広大な大陸において、民衆を味方につけるには、広報活動が不可欠だ。
しかし、反面、広大であるが故に、広報活動は至難ともなっていた。なにせ、ネットもテレビも新聞もない。加えて、一部の教養のある者以外は字も読めない。そんな時代だ。
恐らくは大陸に息づく人間の、六割から七割は満足に字を読むこともできない。
その事実に、張宝は頭を抱えていた。
広報を一人で行うのは無理だ。かといって、人数を増やしても効果があるのかがわからない。
それに対する答えを出したのが鄧茂だ。
中方長の選抜のために、各軍を見回っていた張宝がした質問に、鄧茂は少し考えて言ったのだ。
「歌うまい人を集めて、あんたの歌を教えて、各地に散らして、歌ってもらえばいいじゃねえか。うん? 黄巾の教えの流布? そんなん、同じ寸法で、文言を記憶させた奴らを、各地に放てばいいじゃねえか。文字は読めなくても言葉は通じるんだからよ」
その言葉から着想を得た張宝は、大衆に向けた、固すぎない内容の『放送』を行うことに決めたのだ。
今も、鄧茂と程遠志の前に並んだ人間たちは、彼らが話した内容をメモに取っている。
これから彼らは、現在新曲を覚えている張宝役の広報員とともに、鄧茂役、程遠志役となって三人一組で各地を回るのだ。
娯楽の少ないこの時代、毎月訪れるこの広報活動は、大衆の心をがっちりと掴んでいた。
広報員を教育して専門化する事で、プロ意識を芽生えさせた。
今では、各地によって違う広報員の微妙な放送の差異を楽しめると言って、行商人にも人気が高い。
黄巾党の広報は娯楽の少ない民にとって、一大エンターテインメントとなっていた。
「前線が、前線が遠のく………」
「うるっさいわね。呪うわよ?」
「やってみろ。避雷針があるわ」
「避雷針さんは今、洛陽よ。残念だったわね。のろまーのろまーじゅむじゅむ」
「………」
「………」
「何も起こらんな」
「あれぇ!?」
その時、馬元義が夏侯惇に跳ね飛ばされたのを、二人は知らない。
「お疲れ様、二人とも」
張宝が新曲の披露を終えてやって来る。
「今回はこれで終わりよ。二人に任せて正解だったわ。これで村の支援もまた増えるでしょう。来月もまた、よろしくね」
そう笑顔で言う張宝に、鄧茂は溜め息で、程遠志は満面の笑顔で、それぞれ答えた。
メタギャグ回に見せかけていろいろと伏線が登場している。
まあ、気づかなくてもいいくらいのものだけども。
鄧茂が滅ぼした村の村長は実はシーズン0にて登場済みです。
その辺りはまたこのシーズン中に触れるからお楽しみにね。
誤字、ルビ、表記ゆれの修正を行いました(2024年9月17日)。