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新説三国志演義 シーズン1 黄巾の乱編  作者: 青端佐久彦
第二集
43/181

三十九幕 小覇王の冒険~神仙との邂逅



 (ちょう)(こう)を渡った三人は、馬に揺られていた。ちなみに、(たい)は馬をもっていなかったので、三人で二頭の馬に乗らなければならなかった。

 幸いなことに、泰は乗馬の心得もあったので、(そん)(さく)(しゅう)()が同じ馬に乗り、泰は一人で乗っている。

 周瑜は孫策の後ろで馬に揺られながら地図を広げた。

 「あらま。いつの間にやら、もう(じょ)(しゅう)に入ってたのね」

 (よう)(しゅう)(きゅう)(こう)(ぐん)()(こう)(ぐん)は、揚州の中でも北に飛び出た形になっている。

 そのため、長江の中流域の北側にはまだ、揚州が続くが、長江の下流域を北上すると、その渡った先は徐州になるのだ。

 「徐州か。今徐州のどこだ?」

 「南端だし、(こう)(りょう)だね」

 孫策の問いに周瑜が答えた。

 周瑜たちにしてみれば、やっと本来の旅路に戻れたことになる。ここから目的地までは急げば四、五日で到着する、はずだ。

 「ところでさー、ユー」

 「なーにー?」

 カポカポカポカポ、と蹄の音を鳴らしながら進む馬の上で孫策が間延びした雰囲気で周瑜に話しかける。

 「さっき、渡しの奴に聞いた話だけどさ―――」

 「行かないよ」

 「「えーーー!?」」

 「泰ちゃん、あんたもなの!?」

 予想通りに乗り気な孫策(バカ)と予想外に乗り気な泰に周瑜が頭を抱えた。

 三人は長江の渡しをやっている男から面白げな話を聞いたのだ。



 長江を渡った先にある(こう)(りょう)(ぐん)(こう)(りょう)(けん)。この地名にある陵とは墓のことを指しており、かつてこの地は広大な墓地であった、という言い伝えがある。

 そして、その墓地には古代の王朝の王族たちが埋葬されており、死体とともに、財宝が埋められていると言うのだ。

 その墓地は地下にあるとされ、その入り口は発見されているが、そこは迷路のように複雑なうえ、数々の罠が仕掛けられており、強者が挑戦しては帰らぬ人となっているらしい。

 それを聞いて、目を煌めかす二人がいた。

 「古代遺跡だぜ!? インディーだぜ!? ロマンだろ!!」

 「仕方ありませんよ、(そん)(はく)()。この冒険心は女子どもには理解できません」

 「いや、泰ちゃん、その女子どもにあんたはばっちし該当するでしょ!?」

 「行くか、泰」

 「行きましょう、孫伯符」

 「あー、もう! 大陸未曾有の危機が迫ってるんだってのに!!」

 叫びをあげる周瑜は、しかし手綱を握ってはおらず、多数決という数の暴力に屈するしかなかった。



 「歴史物の物語を創っているはずなのに、非科学的なことは起きるわ、オカルトは起きるわで納得いかないし、脇道に逸れまくって本編がまったく進まない物語ほど、読者が離れていくものだってのに、なぜそれを続けるのかわからないし、果てには遺跡に探検!? 要素は詰め込めばいいってものじゃないってわかりきったことだってのに」

 「………あの、孫伯符。周さんはどうしたんですか? ちょっと怖いんですが」

 「………まあ、展開に着いていけなくて、バグってんだよ。あいつ、たまにああなるんだ。なんか、世界に文句言ってるんだとさ」

 どんよりとした顔で何やら長文の文句を垂れ流し続ける周瑜とそれにドン引きする泰、そしてそんな二人を苦笑いしながら見守る孫策の三人は、暗くぽっかりと口を開けた、洞窟の入り口に立っていた。

 探検をしようと遺跡の所在を聞き込んだ結果、なんともあっさりと、その遺跡まで案内されることとなった。

 なんでも、遺跡と呼ばれてはいるものの、内部は二里半(約1㎞)にも満たないほどの大穴といくつかの細道でできているらしく、かなり調査も進んでいるとのことだった。

 宝と呼ばれていたものはあらかた取り尽くされ、内部の地図すら作製されている、もはや一種の観光地と化した場所となっている。

 「まあ、とは言っても、古い洞窟を基盤に造られた遺跡のようだし、滑落もないとは言えない。現に、月に数人、帰ってこない奴もいる。お宅らも、気をつけるこった」

 案内してくれた男は、そう言い残すと、元来た道を帰って行った。



 「調査の進んだ遺跡か」

 「宝も取り尽くされてる、ですか」

 洞窟の中を進みながら、孫策と泰は体重を預けるように、壁に手を付けながら俯いている。

 そんな二人を左右に置きながら、真ん中を歩く周瑜は気を使ったように口を開いた。

 「ま、まあ、記念にはなるかもだし、奥まで行ってみようよ、ね?」

 しかし、ここでも周瑜のその気遣いは空回りする。

 「つまり、隠された道を見つければ!!」

 「はい! その先にはお宝の山です!!」

 「ああ、そう………」

 そんな些末事では、一度火が着いた少年心はへこたれなかった。



 洞窟の内部は薄暗く、三人が持っている松明しか光源はない。

 そんな中を進むことしばらく、最初に気づいたのは孫策だった。

 「お?」

 入り口からずっと、右手を壁に当てて歩いていた孫策が立ち止まる。

 「ありましたか!?」

 そんな孫策に泰が興奮したかのように、話しかけた。

 (なんかこの二人、すごい仲良くなってない………?)

 この二人の関係性を考えると頭痛がしてくる思いの周瑜は、口を挟むのを諦める。

 「この部分だけ、壁に溝があるな。多分、動くんじゃないか、これ」

 「やっぱりですか!! あからさまな細道に意識を向けておいて、本命は巧妙に隠蔽する。左右でなければ上下かとも思いましたが、手間が省けましたね、孫伯符!!」

 (ずっと手を付けてたのはそれかぁ)

 暗がりの中で見落としてしまいそうな僅かな痕跡を、二人はずっと探していたのだ。

 そもそも、おかしいとは思っていた。

 左右に伸びている細道は、隠されていた形跡すらなく、自然のままの状態だった。

 この場所が洞窟であることも災いし、探索者たちはその細道にばかり目がいってきたのだろう。

 しかし、言い伝えが本当だとして、重要な物をそんな隠蔽すらされていない場所に置くとは考えづらい。

 半信半疑で探索をしていたほとんどの者たちは、そこまでに考えが至らなかったか、もしくはそれを検証する労力を払わなかったのだろう。

 しかし、三人はその痕跡を見つけた。

 「泰、どうだ?」

 「確かにこの部分だけ、厚みが違いますね。どいてください、孫伯符。衝撃を分散させないように注意を払いつつ、砕きます」

 「頼んだ」

 そう言って、泰が孫策の見つけた壁に両手をあてる。

 「()()(げん)(しき)(れっ)(そう)(しょう)(てい)

 呼吸を整え、泰が呟くと、掌が置かれた場所から罅が走り、ガラガラと音を立てて、隠された道を塞いでいた岩が崩れ落ちた。

 ふわっと、カビ臭い空気がその向こう側から流れてくる。その先には、底の見えない闇が、大きな口を開けていた。



 先ほどまでの道よりも、明らかに濃度の濃い闇が三人を包む。

 その重さに竦みそうになりながら、足を進めた。

 「まさか、ホントにあるとはねー。てことは、この奥にはすごいお宝があるってことかー」

 先ほどまではうんざり気味だった周瑜もウキウキとしたように、足取りが軽い。

 濃い闇から感じる重圧よりも、興奮の方が勝り、周瑜が何歩か先行する。

 その直後のことだった。

 「―――っ!?」

 周瑜の足元が突然崩れる。

 その事実に、周瑜は反応することができず、声も上げられない。

 一瞬の浮遊感の後に感じた衝撃は落下によるものではなく、孫策に手を引かれたがために、壁に体を打ち付けた衝撃だった。

 「いった………っ!?」

 孫策に助けられなければ落ちていたであろう穴の底を見て、絶句する。

 周瑜が持っていた松明が落ちて、穴の底を照らしたことにより見えた穴の底には、一面に岩の棘が上を向いて生えていた。

 落ちていたら痛いでは済まない。自重により、棘が体中に刺さって運が良くても即死だろう。ちなみに、運が悪ければ即死できず、じわじわと死んでいくことになる。

 もし一人で来ていたら。

 そう考えると、背筋が寒くなる思いだった。

 「やっぱりこっちが本命みたいだな。罠がシャレにならんレベルだ」

 「ここは、落とし穴対策に三人で手を繋ぎましょうか。一番体重の軽い私が先頭を行きます。二番手は………悩みますね。周さん、お願いしていいですか?」

 「う、うん、わかった」

 「いいか、ユー。何があっても泰の手を離すなよ? わかったな?」

 「わかった。何かあっても、伯符が支えてね?」

 「もちろん」

 そう、打ち合わせをすると、三人は探索を再開した。



 しばらく進む三人を様々な罠が襲い、その度になんとか乗り越えた。

 足元に仕掛けがあり、その仕掛けを踏むと、壁から矢が放たれることがあるとわかってからは孫策が先頭に立った。

 その時先頭だった泰はなんとかかわすことができたが、壁に突き立った矢を抜いて調べてみると、先端に毒が塗ってある事がわかったためだ。念のため、戦鐙を頭まで装着した孫策が先行する事となった。

 他にも、大岩が背後から転がってきたこともあったが、咄嗟に泰が後ろに回り、大岩に(けい)を流し込むことで破壊して事なきを得た。

 そんな風に、罠を回避しながら、道を進むと、どこからか人の声のようなものが聞こえてきた。

 「………風の音ですかね?」

 泰が訝しげに呟く。

 その声は、直進した先の曲がり角の向こうから聞こえてきていた。

 泰の言葉を肯定するかのように、その先からは明かりが漏れている。

 三人はもうすぐ終着であることを感じ、安堵しながらも恐る恐る進んだ。



 その先には、怪物がいた。

 そこにいた怪物を、孫策は後に振り返ってこう語った。

 「あそこにいた化け物以上の化け物には、ついに出会わなかった」と。

 そんな、化け物に、三人は対面した。



 まず、聞こえてきたのは、喘ぎ声だった。

 その事実に、すぐに思い至らない孫策よりも、女性陣が反応した。

 三人が出た場所は、大きな広間のような場所だった。

 天井がなく、吹き抜けになっており、明かりが空から差している。

 そして、広間の中央には大きな木のようなものがある。それは幹の部分が横に倒れており、その根本からは根が地上を這っていた。

 根は幹に近づくにつれて小高い丘のようになっており、見通しがきかない。

 そのため、何が起きているのかはわかっても、誰が、誰に、どこで襲われているのかがわからなかった。

 そんな状況に戸惑っているうちに、孫策が声に反応して動き出す。

 「おい、誰かいるのか!? 大丈夫か!?」

 そう、孫策が呼びかけると、喘ぎ声はやんだ。

 「おやおや? こんな所まで入ってきた人がいるんですか? いやいや、これはお恥ずかしい所をお見せしました」

 そんな声と共に、人影が飛び出してくる。

 その姿に三人は絶句した。

 まだ幼い少女だった。

 泰よりも幼い。

 孫策の妹、(そん)(こう)と同じくらいの少女。

 しかし、その身に衣服を纏っておらず、頬は上気し、体中に粘液が絡みついている。

 そして、なぜか、頭には狐の耳が付いており、尻からは狐の尻尾が生えていた。

 「コンコン。お目汚しをしてしまい申し訳ありません。まさかこのような僻地に人が来るとは思いもよらず、情事に明け暮れてしまいまして」

 そんな事を恥ずかしげにはにかみながら述べる少女に、三人は言葉を返せない。

 そんな中、更なる異変が襲いかかる。



 地響きを鳴らしながら、地上を這っていた根がうねうねと蠢き始めた。

 「な!?」

 有り得ない光景に、孫策たちが動揺するが、少女はそんな衝撃の現場をつまらなそうに見る。

 「まだ果ててませんか。それ自体は賞賛しますが、もう虫の息でしょう? あ、すみません。その手に持ってる松明を一つもらっても良いですか?」

 そんな少女にのまれるように、孫策は手に持っていた松明を手渡す。

 「ありがとうございますコン。おや、超イケメンじゃないですか。こんな人に助けてもらえるなんて、超ラッキー」

 そう言いながら、少女は松明を蠢き始めた根の中心部に投げつけた。

 一瞬の静寂の後、根の中心部から炎がごうと上がり、たちまち広間は火に包まれる。

 「いやー、良く燃えますね。さすがさすが。あ、端まで下がりましょう。ささ。ほらほら」

そんな少女に促されながら、三人は思った。

 (いったい、何が、どうなってるんだ―――!?)



 「いやー、申し遅れました。わたくし、(きつ)と申します。見ての通り、狐っ子です。………いやいや、ちゃんと人間ですよ? 狐さんからお耳と尻尾を拝借して、ちょちょいと加工して、装着してるだけです。はい」

 吉と名乗った少女は、着ていた着物を回収して身に纏いながら、笑顔で自己紹介を始めた。

 「あー、おれは孫伯符。こっちが周瑜でこっちが泰だ。で、吉、でいいのか? お前はこんな所で何をしてたんだ?」

 「孫伯符様ですか。あなたのその気、将来大物になる感じがひしひしとしますね。覇王様と呼んでもよろしいですか?」

 「やめてくれるとありがたい」

 珍しく、孫策が押され気味であるが、他の二人は言葉を発することすらできない。

 それくらい、吉は怪しすぎ、それと同時に邪気が見られなかった。

 状況としては怪しさ満点なのに、どこからどう見ても幼い少女以上のものには見えないのだ。

 「何をしていたか、という問いですが、なんと申しましょうか。信じてもらえるかはなはだ疑問なのですが、とりあえず、かいつまんでお話しするとですねぇ―――」

 そして吉が語った事情は、本人の言うとおり、とても信じられるものではなかった。



 「実はわたくし、とある物好きなお方に拾われまして、その人が子どもに殺し屋をさせるように訓練する外道でして。そんな外道のもとで一年を過ごしたわけなのですよ。で、そこにいるのが嫌になって、家出して、今に至る、というわけです、コンコン」

 その吉の言葉に、泰が顔を強張らせる。

 どこかで聞いたような話だった。

 「その外道さんはですねー。なんとわたくしに(ぼう)(ちゅう)(じゅつ)を教え込みましてね。まあ、他の先輩方も教え込まれてたようですが」

 「房中術、ってなんだ?」

 孫策が眉根を寄せながら聞くと、吉はむふふ~、と笑った。

 「()(おう)(さま)ってば、えっち~」

 「なんでだよ!? あと覇王ってのやめろよ!」

 「え~、ではでは、(しょう)()(おう)(さま)。まあ、房中術ってのは、簡単なものでは(ねや)の技のことですよ。女性が男性を悦ばす技、男性が女性を悦ばす技。そういうものが房中術です」

 「………性交のことか?」

 「ま、それだけではありませんとも。口や手、舌、指、足、いろいろな場所で相手を悦ばすことができますし、性交に限ったお話ではありません」

 「………なんか眩暈がしてくる。おまえ、何歳だよ」

 「七歳です」

 「アウトだろ! おいこれアウトだよな!?」

 孫策は目を回しながら先ほどから静かな女性陣に話を振る。

 「そうですね、アウトですね」

 そう言いながら泰は目を逸らすが、周瑜は気まずそうにしながら孫策に言った。

 「いやあ、確かにその年齢だと早いけど、十を超えたころにはそういうことも勉強させられるよ? うちもそこそこ格の高い家だし、そんな家の娘に生まれたからには子どもをしっかりと作るのも役目の一つってことで」

 「マジで!?」

 「まあ、マジ。男の人ももう少し後でやるのかな、そういうの。よくわからないけど」

 「え、でも、え、どうやって」

 「張型とかあるじゃん。あれを使って、こう、舐めたりとか」

 べー、と舌を出しながら舐める仕草をする周瑜に、孫策は感心したように頷く。

 「はー、そういうもんなのか。へー。大変なんだなー」

 「そうそう。それに、女の子は初めての性交は痛いからさ。でも、痛がってると男の人は嫌がるんだってことで、張型を中に入れて慣れろとか言われるの。どう思う!? わたし的には初めてを張型に奪われるってのはなんか釈然としないんだけど!?」

 「いや、それで嫌がるってのは男として器小さすぎだろ。おれはそんなん気にしねえけどな。そんなのよりも、惚れた女が無機物なんぞに奪われる方が腹立つ」

 「だーよーねー! よしよし、わたし、間違ってないよねー! ふっふっふー。婆様見てろー。帰ったら張型で処女喪失なんてナンセンスだって説教してやる!」

 「何の話してます!?」

 バカップルのずれまくった会話に耐え切れず、吉が横から突っ込んだ。

 ちなみに泰は、また始まったよ、というように遠い目をしている。

 「え、待って待って。この二人は恋人同士!? せっかくのイケメンとの出会いに心ときめいたのに、もう失恋!?」

 「「え、違うよ?」」

 「それはそれでびっくりなんですけど!? コーンコーンコーン。おーけー。落ち着きました。まず、えーと、周さん。あなたは女性なんですから、そういった性的なことをみだりに男性に話さない方がいいですよ」

 「いや、さすがに伯符にしか話さないって」

 「だからその小覇王様に話す(特別感を出す)のをやめなさいって言ってるんです!!」

 出してないのにー、とぶーたれる周瑜をとりあえず放置して、吉は話を続けた。

 「とまあ、だいぶ脱線しましたけど、房中術というのは一般的にはそういうものとして伝わっていますが、わたくしが言っているのは更にそれを極めた術のことです。体内の気をうまく操り、男性が吐き出した精を女性が体内で受け止め、活として男性に返す。それが房中術です。『男性は(せい)を体内で作れるが(かつ)を体内で作れず、女性は活を体内で作れるが精を体内で作れず』という教えがあるんです。房中術を極めていれば、男性は女性と交わることで活力を、女性は男性と交わることで精力を充填でき、生命力を高めることができるということです」

 「わかりやすく言うと?」

 「ヤればヤるだけ生命力が高まります」

 「房中術すげえ!?」

 「不老不死にもなれます」

 「房中術すげえ!!??」

 「とまあ、そんな技を、わたくしは修得しているわけですけども、うまく操れば男性から精を奪い取り、活を与えない、というような搾取もできるんです。生命力が高まれば、傷の治りが早かったり、病にかかりにくかったりするわけですよ。で、外道の庇護を抜け出したわたくしは、生命力を高めることで生き残ろうとしたわけです。ところが、わたくしとまぐわうと、男性の方は泡を吹いて死んでしまうわけですよ。その辺うまく調整ができませんで、精を取り尽くし過ぎてしまうんですよね。わたくしの才能が怖いぜー。本来は精と活を循環させてより強い力に変えられるはずなんです。というわけで、行きずりを襲いながら方々を旅していたら、この洞窟の地下から強い生命力を感じるではありませんか。というわけで、入り込み、そこであの化け物と出会ったというわけです。あの化け物は大きな蛇なんですけど、下半身が無数に分かれてて、それを自由に動かして、獲物を性的によがらせて、生命力を貪って、抜け殻になった体を丸呑みしていたらしいんですよ。無駄がないですよね。あの化け蛇さん、不死身だとうたうだけあって、なかなかでしたが、本当に不死身というわけでもなかったんですかね。わたくしを犯しぬきながら、どんどん弱っていきまして。そこにあなたたちが来て声をかけてきたという塩梅です。不死身には炎と昔から相場が決まっているでしょう。ちょうどよかったので、火をお借りして、止めを刺したという感じでした」

 「「「………………」」」

 「いやー、化け蛇さんから生命力たっぷり搾取できました! ここまで生命力たっぷりだと食事が必要なくなったりしませんかね。さすがに無理ですかね?」

 三人は、そんな人外じみた少女を視界に収めながら、一歩下がる。

 「おい、ユー。解説。解説頼む」

 「なんでわたし!? 無理だよわかんないよオカルトにも程があるよ!? 仙人ってこうやって本人の自覚がないまま仙人になるのかな!?」

 「彼女の出自に少し心当たりがあるとかそんなことが些細な問題になるかのような情報が続々と出てくるんですけど。え、彼女、なんて言いました? 化け物が不死身とうたう? あの謎生物、喋ったんですか? というか、不死身だったんですか? というか、不死身には炎ってそんな相場があるんですか? ちょっとツッコミが追いつきませんけど!?」

 「あ、わたくし、股関節外して骨盤ずらせるから、大人の一物でも受け入れられますよー」

 「そこじゃねーんですよ、そこもわけわかんないんですけど、そこじゃねーんですよあーもう!!」

 泰の叫びに孫策と周瑜が遠い目になる。

 「いやー、おかしいですね。真実を語れば語るほど嘘つきにしか見えない不思議! まあ、えてして現実というものはそんなものですよ。気にしない気にしないー」

 そして、吉だけが、その場で一人、元気だった。



 「というわけで、わたくし、吉と申しますが、どうでしょうどうでしょう!? 旅のお供にどうでしょう!? 男一女二の構成とか、乙女として身の危険を感じなくて済む夢の編成なんですが、どうでしょう!? わたくし強いですよ! もう一人の夜は嫌なんですよコンコン」

 「………………へ!?」

 「幼女が仲間になりたそうにこっちを見てるよ伯符」

 「幼女の皮を被った化け物ですけどどうしますか孫伯符」

 「いや、まあ、おれは構わねえけど」

 「やったーーー!! よろしくお願いしますね小覇王様! ゆくゆくは小覇王様の正妻ポジションを狙いたいと思いますので、よろしくお願いします!! あ、今は房中術がうまく制御できないので、わたくしをお抱きになるのは、もう少し成長を待ってほしいですごめんなさい。でもいつか、ラブラブな家庭を築きましょう!!」

 「待って待って。一緒に旅をするだけでおまえを娶るなんて言った覚えはないし、小覇王って呼ばないでほしいし、抱きたいとも言ってないし、あーもう! ツッコミが追いつかねえ!!」

 かくして、賑やかな一行に、さらに賑やかしい幼女が加わり、旅路は遅々として進まずにいた。

とんでも設定。

これが歴史ファンタジー!

房中術によって化物が産まれてしまったお話。

于吉制作秘話みたいな。


章番号修正(2024年9月25日)。

誤字、ルビ、表記ゆれの修正を行いました(2024年10月29日)。

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