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新説三国志演義 シーズン1 黄巾の乱編  作者: 青端佐久彦
第一集
31/181

終幕 龍騎団



 「さて」

 丘上に一つの軍団が布陣した。

 しかし、その姿は軍団と呼んでいいのか疑問が湧くほど貧弱なものだった。

 総勢三百。

 それがこの軍団の構成人数だった。

 その小さな軍団が丘上から見下ろす先には、千ほどの兵力を有した軍が見えた。

 あれですら、敵の小隊未満の部隊だ。

 しかし、そんな圧倒的な兵力差を実感しながら、丘上の軍団を率いている馬に乗った男は、気にせずに笑った。

 「さぁ、全員、この乱れた世に、名乗りを上げるぞ!!」

 声高に宣言し、突撃命令を出そうとして、

 「名乗りはなんて上げるんだ? この軍団の名前は?」

 仲間の一人がそう言う。

 「え、(げん)(とく)軍団じゃダメ?」

 『ダサい!!』

 幽州に蔓延る九の賊団を併合する事に成功した(りゅう)()は、出撃直前に軍団名を考えなければならなくなった。



 「正義軍はどうだろうか!!」

 「龍の如き強さ、(りゅう)(じょ)(だん)は!?」

 「デンちゃん、マジかよ」

 「あれ!? ダメですか、(けん)()さん!?」

 「流石、自分の軍団に混沌の狼とか名付ける子は違うわね」

 「格好いいじゃん!!」

 「あれつけたの、デンちゃんなんだ………」

 「雷のごとき軍団、(らい)(めい)(ぐん)とかどうよ!!」

 「(らい)(ばん)の色強すぎだろ」

 「ねえちょっと!? 敵に見つかったよ!? 名前なんて後で良いから、先にあいつ等倒そうよ!」

 (かん)(えい)の悲鳴に、全員が首を振る。

 『名前は、大事だ』

 「バカばっかだ!!」

 甘英は悲鳴を上げて、頭を抱えた。



 (かん)(よう)が溜息を吐く。

 事実、敵が近づいてきている。これ以上揉めれば、高所の利を失いかねない。

 「龍は(りゅう)に通ずとして、この軍団の凄みである騎馬隊の字も取り入れて、『(りゅう)()(だん)』ってのはどうだ?」

 『………………』

 「あれ、ダメだったか?」

 『………かっこいいじゃん』

 「うわーん、バカばっかだー!!」

 甘英が泣き声を上げ、簡雍が呆れるように溜息を吐く。

 「よーし、そいじゃあ、かっこつけますか」

 そんな幼馴染たちに苦笑して、(りゅう)()は細い二本の剣を鞘から抜いて天に掲げる。

 「乱れた世に正義の名乗りを上げる。我等、龍騎団。賊徒よ。義勇の刃をその身に受けろ! 龍騎団、行くぞ! ウー。(せい)(しゅう)()()を率いて左から回り込め。ヒー。雷万、(こう)(りゅう)を率いて右からだ。()(ちょう)(れっ)()(とん)(ろう)、弓を放て!!」

 敵軍―――(こう)(きん)(ぐん)の千人が丘上から飛来する弓矢に、進軍の足が鈍る。

 「今だ、憲和! 鐘を鳴らせ!」

 その鐘の音と同時、伏兵として状況を見守っていた()(がく)が敵の背後から鬨の声を上げ攻めかかる。

 浮き足立った所に、丘を左右から降りていた(かん)()率いる歩兵部隊と(ちょう)()率いる騎馬部隊が、タイミングを絶妙にずらしながら襲いかかった。

 奇襲の上、背後と左右からの攻撃だ。黄巾軍は相手の正確な人数が測れず、実際よりも多い数に襲われていると錯覚する。

 黄巾軍は完全に混乱の最中に追い込まれた。

 「よっしゃ、こっちが少数だって気づかれる前に指揮官をしとめるぞ! (ぼう)(じゃ)、オレに続け! 出るぞ!!」



 四半刻(約三十分)ほどのできごとだった。

 黄巾軍は劉備に指揮官を討ち取られ、軍で一番の怪力の兵が張飛に首を取られた。

 敗走を始める黄巾軍をそのまま逃がし、劉備の立ち上げた義勇軍、龍騎団は勝ち鬨をあげた。



 乱世の直中に、たったの三百で名乗りを上げた義勇軍、龍騎団。

 彼らの快進撃は、ここから始まる。

上げ忘れてました。


誤字、ルビ、表記ゆれの修正を行いました(2024年10月13日)。

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