終幕 龍騎団
「さて」
丘上に一つの軍団が布陣した。
しかし、その姿は軍団と呼んでいいのか疑問が湧くほど貧弱なものだった。
総勢三百。
それがこの軍団の構成人数だった。
その小さな軍団が丘上から見下ろす先には、千ほどの兵力を有した軍が見えた。
あれですら、敵の小隊未満の部隊だ。
しかし、そんな圧倒的な兵力差を実感しながら、丘上の軍団を率いている馬に乗った男は、気にせずに笑った。
「さぁ、全員、この乱れた世に、名乗りを上げるぞ!!」
声高に宣言し、突撃命令を出そうとして、
「名乗りはなんて上げるんだ? この軍団の名前は?」
仲間の一人がそう言う。
「え、玄徳軍団じゃダメ?」
『ダサい!!』
幽州に蔓延る九の賊団を併合する事に成功した劉備は、出撃直前に軍団名を考えなければならなくなった。
「正義軍はどうだろうか!!」
「龍の如き強さ、龍如団は!?」
「デンちゃん、マジかよ」
「あれ!? ダメですか、憲和さん!?」
「流石、自分の軍団に混沌の狼とか名付ける子は違うわね」
「格好いいじゃん!!」
「あれつけたの、デンちゃんなんだ………」
「雷のごとき軍団、雷鳴軍とかどうよ!!」
「雷万の色強すぎだろ」
「ねえちょっと!? 敵に見つかったよ!? 名前なんて後で良いから、先にあいつ等倒そうよ!」
甘英の悲鳴に、全員が首を振る。
『名前は、大事だ』
「バカばっかだ!!」
甘英は悲鳴を上げて、頭を抱えた。
簡雍が溜息を吐く。
事実、敵が近づいてきている。これ以上揉めれば、高所の利を失いかねない。
「龍は劉に通ずとして、この軍団の凄みである騎馬隊の字も取り入れて、『龍騎団』ってのはどうだ?」
『………………』
「あれ、ダメだったか?」
『………かっこいいじゃん』
「うわーん、バカばっかだー!!」
甘英が泣き声を上げ、簡雍が呆れるように溜息を吐く。
「よーし、そいじゃあ、かっこつけますか」
そんな幼馴染たちに苦笑して、劉備は細い二本の剣を鞘から抜いて天に掲げる。
「乱れた世に正義の名乗りを上げる。我等、龍騎団。賊徒よ。義勇の刃をその身に受けろ! 龍騎団、行くぞ! ウー。青衆、愚馬を率いて左から回り込め。ヒー。雷万、皓龍を率いて右からだ。蘇張、列把、沌狼、弓を放て!!」
敵軍―――黄巾軍の千人が丘上から飛来する弓矢に、進軍の足が鈍る。
「今だ、憲和! 鐘を鳴らせ!」
その鐘の音と同時、伏兵として状況を見守っていた臥顎が敵の背後から鬨の声を上げ攻めかかる。
浮き足立った所に、丘を左右から降りていた関羽率いる歩兵部隊と張飛率いる騎馬部隊が、タイミングを絶妙にずらしながら襲いかかった。
奇襲の上、背後と左右からの攻撃だ。黄巾軍は相手の正確な人数が測れず、実際よりも多い数に襲われていると錯覚する。
黄巾軍は完全に混乱の最中に追い込まれた。
「よっしゃ、こっちが少数だって気づかれる前に指揮官をしとめるぞ! 蟒蛇、オレに続け! 出るぞ!!」
四半刻(約三十分)ほどのできごとだった。
黄巾軍は劉備に指揮官を討ち取られ、軍で一番の怪力の兵が張飛に首を取られた。
敗走を始める黄巾軍をそのまま逃がし、劉備の立ち上げた義勇軍、龍騎団は勝ち鬨をあげた。
乱世の直中に、たったの三百で名乗りを上げた義勇軍、龍騎団。
彼らの快進撃は、ここから始まる。
上げ忘れてました。
誤字、ルビ、表記ゆれの修正を行いました(2024年10月13日)。




