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新説三国志演義 シーズン1 黄巾の乱編  作者: 青端佐久彦
第一集
12/181

十一幕 最強と最狡の出会い



 「………話がちげえぞ」

 (けん)(せき)の邸宅で、(とう)(しゅう)の意識を刈り取った少年は一連の騒動の主導権を握っていた(えん)(じゅつ)を睨みつけた。

 少年は性を(てい)、名を()(あざな)(ほう)(せん)という。十四歳だ。

 「おい、のじゃ姫。お前言ったよな? 俺の力を振るう場を用意するって。もしかしてこれで終わりか?」

 「誰がのじゃ姫じゃ。安心せい。これは本命のための余興じゃ。真の戦はこの先にある。兵卒として、にはなるかもしれんが、参加させてやろう」

 袁術がため息を吐きつつ言うと、丁布も鼻を鳴らした。

 「むしろ、前線で戦えるなら、兵卒としての方が願ったりだ」

 二人の奇妙な因縁の始まりは、一週間前に遡る。



 「ねえねえ、センちゃん。その髪飾り可愛いね。どしたの~?」

 「あ、これですか? 裏通りの露天で売ってたのが可愛かったんで真似してみたんです」

 「真似して………って、じゃあそれ手作り~!?」

 「髪飾りなんて高いもの、私買えないですよ~」

 「きゃ~~っ、すごーい」

 女三人寄れば姦しいと言うが、二人でも十分喧しい。

 丁布はため息を吐いて昼寝を諦めた。

 寝転がっていた場所は木の上だった。にもかかわらず、丁布の諦めは、木の下にいる少女二人にも伝わったようだった。

 「あ、てふてふ。おはよ~」

 間抜けた声で挨拶をしてくるのは色素の薄いくせっ毛の目立つ髪を腰まで伸ばした少女で、性を(おう)、名を(ちょう)といった。丁布よりも二つ年上の十六歳だ。

 「奉先くん。おはよう」

 もう一人、次いで丁布に声をかけたのは、王蝶と対照的に真っ直ぐな黒い髪を後ろで結い上げた少女で、性は(ちょう)、名は(せん)といった。年は丁布と同じ十四歳で、五つになる弟を背中に背負っている。

 丁布が養父の(てい)(げん)(らく)(よう)に来て、二年が経っていた。王蝶とはその頃に知り合い、張蝉は半年前に洛陽にやって来たところを、知り合った。

 丁布は木から飛び降りる。

 そしてそのまま歩き出した。

 「ちょいちょい。てふてふ、無視しないでよ~」

 「アホみたいな名前で呼ぶなよ、王蝶」

 振り返らずに渋面を作りながら、返す丁布に張蝉が声をかける。

 「奉先くん、どこいくの?」

 「仕事」

 これにも振り返らずに答えると、丁布は後ろ手に手を振りながら歩き去った。

 後には、ため息を吐く二人の少女と、姉の背ですやすやと眠る少年が取り残された。



 丁布の父、丁原は、洛陽で()()()の任に就いていた。騎都尉は警察官のような役職だ。しかし、取り締まる対象は一般市民ではなく、皇帝の周辺を守る近衛兵の取り締まりを行う。

 丁布は十四になった。

 まだ、実績の少ない彼は、しかし、確かにその名は洛陽に広まっていた。(あざな)を、洛陽で名乗れるほどには。

 父が宮中に目を向けるなら、自分は外だ。

 そう、行動で示した。

 近年の日照りや虫害による農作物の被害は、洛陽にも影響を及ぼしている。

 ()(みん)が増え、表通りから少し外れれば、治安は見るからに悪くなる。

 張姉弟もそんな流民の一例だ。

 王蝶はそんな流民の家の子供を集めて面倒を見ている。それも、まだ、マシな子供たちだった。

 裏通りは犯罪者の巣窟といって差し支えなく、そんなあぶれ者を成敗して、丁布は洛陽で名を上げていた。



 「………はぁ」

 丁布は辺りを見渡してため息を吐く。

 (最近、流民の数が増えたな。噂の黄巾とかいう連中の余波だな、こりゃ)

 迷惑な話だ。

 とはいえ、政府の腐敗は丁布も感じている。民たちの中に、未だ立ち上がり、政権打倒のために動こうという気骨のある人間がいたのは意外だったが、そうでなくとも、その内誰かが動いていただろう。

 (かん)(がん)か。

 それとも(がい)(せき)か。

 どちらにせよ、現状をよく思わない勇士が、立ち上がり、政権を打ち崩し、そして数十年経ったらまた腐敗していく。

 それの繰り返し。

 だから。

 丁布の心は晴れなかった。



 最近、洛陽では人売りの組織が横行しだしていた。

 流民が増えた現状を利用して、子どもを攫い、売り飛ばすのだ。

 それだけでは騒ぎになるので、父親は殺し、母親は飽きるまで慰み者にされた後、殺されるか、器量が良ければどこかに売られる。

 当時は戸籍も満足に揃っていなかった時代だ。長年住んでいる隣人ならばまだしも、よそから流れてきた一家がある日突然いなくなっても、誰も気づきはしない。

 数年前にも同じ様なことがあった。丁布が洛陽に着いてまだ間もない頃のことで、その時の一団は、彼によって壊滅させられた。

 その当時の下っ端が、どうやらまた幅を利かせようと目論んでいるらしい。

 それを、丁布は幼なじみにも伝えていた。

 だから裏通りには近づくな、と。

 だから、その二人の姿を見つけたとき、問答無用で走り寄って、二人の少女の頭に拳骨を振り下ろした。



 「………お前らはバカなのか?」

 丁布の怒気に、王蝶と張蝉は肩を振るわす。

 「い、いや、センちゃんは悪くないの! 私が誘ったの~!!」

 「うるせぇ、バカ」

 取り付く島も無し。

 丁布は二人の頭をもう一度ずつ小突くと、頭を掻いて辺りを見渡した。

 「ごめんよ~、てふてふ。もう、私たち帰るから~。機嫌なおしてよ~」

 「おい、張蝉」

 「無視ですか~!?」

 「なに? 奉先くん」

 「おまえ、ちっとはやれんだろ? 獲物は?」

 「へ? センちゃんが~?」

 「そりゃ、こんな場所に来るんだし、いちおう、小刀を」

 「センちゃん、刃物なんて持ってたら危ないよ~? 転んだときに刺さっちゃうよ~?」

 「おい、バカ」

 「はい、呼んだ~?」

 「おまえはリョウを負ぶってろ」

 「え~、てふてふがおぶればいいと思う~」

 「王蝶さん、お願いします」

 「センちゃんまで~!?」

 「気が抜ける!」「王蝶さん、私たち、囲まれてます」

 「………へ?」

 そこでようやく、王蝶は自分たちが危難に遭遇していることを悟った。



 八人。

 前に四人、後ろに二人、上に二人。

 黙視と気配で丁布は自分たちを囲んでいる人数を計る。

 ちらりと目をやれば、王蝶が張蝉の弟のリョウを背負った所だった。

 片手を上げる。

 丁布が意識を敵からずらしたほんの僅かな隙に投げられた針は、丁布が上げた手に握られた、棒によって弾かれた。

 「おい張蝉」

 弾かれた針が地面に落ちるまでの間に、

 「上の奴に目を配っとけよ」

 「後ろの奴は任せて」

 短く打ち合わせた二人は、王蝶とリョウを背中合わせに守る形で戦闘態勢に入り、

 カツーン、と。

 針が落ちた途端に、敵に向かって攻撃を仕掛けた。



 丁布の持つ武器は、折り畳まれた鎌だ。草刈り用の鎌ほどの大きさのそれは、振るって伸ばすと、金属音を響かせて身の丈ほどの大鎌へと、変貌を遂げた。

 大きくそれを振るうと、それだけで前にいた三人の首が体と分かれた。

 「まったく」

 その攻撃の隙を衝いて、針が上から放たれて丁布の背後の王蝶たちを狙うが、丁布は振るった大鎌の勢いをそのままに刃の腹でその針を受け止める。

 「あん時の下っ端が雁首揃えてまぁ、暇なこったな」

 つまらなさそうに言う丁布を震えながら見上げるのは、前方にいた四人の内の一人だ。

 「あ、あぁ、おまえ」

 彼は、気づいたのだ。

 武器を見て気づいた。

 数年前、人浚いをやっていたときに、ぶらりと現れた年端もいかぬ少年と、その身に合わぬ大鎌によって、仲間たちが惨殺されたのを思い出した。

 当時の頭は武に秀でていた。

 それをいとも簡単に、両断した少年がいた。

 「あ、た、助け」

 針が飛んできた。

 それを、目の前の少年は、大鎌を振るって、弾いた。

 反射的に、生き残っていた男は、逃げ出した。

 逃げ出そうとした。

 「あーあ」

 背後で声が聞こえる。

 「お前らがうるさいから『(おう)()』が目を覚ましちまった」

 男の視界がぐるりと回る。

 「あ、あれ?」

 なぜ自分は倒れている?

 だって、足も体もそこに立っているじゃないか。

 「『桜花』は大食いなんだ。生を喰らい、そして、一時ほど死も、喰らう」

 「あ、ああああぁぁぁぁぁ!!」

 首だけになった男は絶望の声を上げた。そして、静かになる。

 防御のついでに、目の前の男を殺した丁布は、気だるげに、上を向いた。

 「おまえが、今の頭か」

 先ほどから針を飛ばしてくる男に対してそう言うと、丁布は、切り落としたばかりの男の首を蹴り上げた。

 凄まじい勢いになった首は、平屋の屋根にいた男に当たり、男の体勢を崩させる。

 男が足を踏み外して落ちてくるのを丁布はニヤリと笑いながら見て、

 「大人しくしてりゃ、早死にすることもなかったのにな」

 男を空中で両断した。



 僅かな時間だった。

 張蝉が、二人の男と二度ほど組み合ったその間に、丁布は五人を殺した。

 「か、頭!」

 「すきありー」

 張蝉は一瞬を見逃さずに肉薄し、足をかけて男を転ばす。一瞬躊躇うかのように背後を見た後、安心したように笑って小刀を振り下ろした。

 小刀が男の喉を抉る。

 「動くなぁ!」

 上に控えていた男が弓をつがえて叫んだ。狙いは、王蝶。

 「奉先くん、後はよろしく」

 張蝉が男の弓の射線上に割り込む。

 「うわああぁぁ!」

 男は反射的に引き絞っていた弓矢を離した。

 「ぐっ」

 矢は、張蝉の肩に突き立つ。

 それと引き替えに。

 「高い買い物だったな」

 丁布の一撃によって、弓を放った姿勢のまま両断された。



 「センちゃん! ごめんなさい! 私が狙われたせいで!!」

 「大丈夫です。それよりも、リョウの目隠し、ありがとうございます」

 張蝉は左肩に突き刺さった矢を抜く。

 弟に人を殺す瞬間は見られたくなかった。

 「奉先くん、もう一人は?」

 「そちらさんがやってくれたよ」

 丁布が顎で示した先には、三尖刀を持った男がいた。

 「ありゃ。バレてたか」

 そう言って、()(れい)は気まずそうに頭を掻いた。



 いつの間にか現れた男の姿に、張蝉も王蝶も目を剥く。

 「姫さん。バレてたみたいだぜ」

 「ゆーげんのうつけめ」

 「おれのせい!?」

 そんな男の後ろから袁術も顔を出す。

 「で?」

 丁布は放っておくと延々と漫才をしだしそうな空気を感じて機先を制す。王蝶と張蝉が二人揃うとなかなか話が進まないのと同じだ。

 話を振られて、袁術が丁布に向き直った。

 幼い双眸からは、その年齢に似つかわしくない知性を感じる。

 丁布は思わず体を強ばらせた。

 「「っ!!」」

 それを二人の少女が感じ取った。

 「てふて~ふ! 時代は幼女ではなくお姉さんキャラだと思うんだ~!!」

 「そ、そんなっ! ずるいです、王蝶さん! 奉先くんっ! 同い年キャラの方が時代の需要があるよね!?」

 「どの時代も来ねぇよ」

 後ろのアホ台詞に振り返らずに答える。危うく、目の前の少女の雰囲気に飲まれるところだった。

 二人が空気を読めずに騒いでくれたおかげで、丁布は自分を持ち直すことができた。

 「見つめ合ってますよ!?」「まさか、手遅れだというの~!?」

 だから後ろのバカ二人の戯れ言は聞こえない。

 「誰だ、あんた」

 「申し送れたの。妾は袁(こう)()と申す」

 丁布、王蝶が絶句した。



 「()(なん)(いん)の………」

 王蝶が呟く。それを聞いて、張蝉もやっと理解したかのようにギョッとした。

 河南尹とは、この洛陽を含めた()(なん)(ぐん)の統治者ではないか。

 「そんな人が、なんで」

 こんな場末の路地裏には似つかわしくない、高貴な人間だ。

 「要求はなんだ」

 丁布の問いかけに、袁術が満足げに微笑む。

 「話が早いの」

 「わざわざ、おれたちが囲まれたのを、その時点で助太刀するわけでもなく見ておいて、試しに一人逃がしてみりゃ、わざわざ討ち取って見せびらかしてくる」

 丁布の言葉に袁術は笑みを深くする。

 「おれらに恩を売って、何をさせたいんだ」

 丁布が睨みつけてくるのを、袁術は嬉しく思った。

 「さすがは丁騎都尉殿の息子だの。良い眼じゃ。お主には国家の大事のために動いてもらいたいんじゃ。近々行う策にどうしても、札が一枚足りん。その一枚に、お主がなってほしいんじゃよ」

 その告げられた、予想だにしない大きな話に、丁布は戸惑いを覚えた。

 話が大きくなりすぎている。

 丁布はそう感じた。

 自分の判断の埒外の話だ。

 丁布は、父、丁原に拾われて、生活が一変した。

 食う物にも着る物にも、寝る場所にすら困らなくなった。

 あの出会いがなければ、決してこんな暖かな場所にはいられなかった。

 丁原が、自分の力とするために丁布を拾ったのはわかっていた。

 だから、丁布は決めたのだ。

 父の力になると。

 王蝶と行動を共にするのは、彼女の父、(おう)(いん)が、隠居してなお、高名を馳せる名士だからだ。

 同時に、張蝉とも行動を共にするのは、王蝶と親しくなりすぎて、周りから警戒されないためだ。

 市中の警護を買って出て、名前を売っているのは、いざいざ、父から表舞台に立つことを要請されたときに、周りを納得させることができるからだ。

 その一方で、近所の年少の子どもたちと行動していれば、周りの眼は、子どもの遊びとして必要以上に事を荒立てようとはしないだろう。そのためだ。

 友人を作るのにすら、日々の挙動ですらそこまでの配慮をした。

 すべては父のためだ。

 父のため。父のため。父のため。

 今、袁家と繋がりを作るのは、それこそ父の道の妨害になるかもしれない。

 高名な家との繋がりは、それが貸しを作ることであっても、地方上がりの一臣下には避けるべき大波であった。

 「一度持ち帰り、父に判断を仰いでみましょう」

 判断をするのはおれではない。

 おれは父のための道具だ。

 そんな覚悟を持って、確かな意志を持って、丁布は袁術の眼を見つめ返した。



 「いや、判断をするのはお主じゃ。丁奉先」

 しかし、袁術はその手を緩めない。

 悲しい、男だと思った。

 器が大きく、そして歪んでいる。

 自身の運命を、揺らがずに受け入れている。人に使われ、使い潰されるのを良しとしている。

 そんな、丁布の根底にあるのは、『諦め』だ。

 自分に恩を与えてくれた相手が、丁原だった。

 自分の父となった男が、丁原だった。

 その男が、大人物ではなかった。

 袁術は歯噛みをする。

 丁布という人間の器は、そんな小役人の人足のような、そんなちゃちなもので終わっていいはずのものではない。

 これでも人を見る目には自信があった。

 十にも満たない幼さで、政争を潜り抜け、人の悪性を見つめ続け、数多の人間を利用してきた。

 そうしなければ今の地位には立てていない。

 そんな、狡知の塊のような自分が、思うのだ。

 この少年を埋もれさせるのは勿体無い、と。

 (なれば、妾はお主の足を進ませよう)

 「落ち着いて考えてみよ。お主が父上殿に恩義を感じるのはわかっておる。こうして誘いをかける前に、ある程度は見聞きした。隠匿しているとはいえ、名士の王翁の娘と関係を持つは、たしかに父上殿の為になろう。しかしの。そこの矢傷を負った娘は、代わりがいたであろう。それを受け入れたはお主じゃ。それは、お主の意志じゃろ? お主は父上殿が全てと思っておるかもしれんが、お主は既に父上殿の手を放れて判断する力を持っておる」

 「ちょっと!」

 そこで、傍観者となっていた者の声が割って入る。

 「河南尹様だかなんだか知らないですけど、そんな言い方あります? チョウちゃんは奉先くんの友達だよ!! 貴女が何者だろうと、そんな言い方はさせない! 許さない!! チョウちゃんと、奉先くんを、私の友達を、侮辱するな!!」

 張蝉だった。

 袁術の不思議と確信を持った言い方を、震えながら聞いていた、王蝶の前に立ちはだかり、鋭い目を、袁術に向ける。

 「わかっておる」

 それに対して、袁術は申し訳なさそうに返した。

 「済まぬがの。時間がないのじゃ。こうしてお主に接触できるのは、今この場だからこそ。お主が帰り、父上殿に裁可を仰いだ時点で、計画が露呈しかねない。そんな相手と、妾はことを構えておる」

 丁布は絶句する。

 そんな嘘みたいな相手が、いるものなのか。

 「どちらにせよ、これが失敗に終われば、後漢は無事では済まぬ。お主の父上殿のいる場も、脆く崩れさる」

 袁術は目をカッと見開いた。

 「わかるか。この選択は、お主が選び取った者たちも巻き込んだものなのじゃ! 生きている限り、自分の意志がないなどと、そんな甘えは通用せん!!」

 「………っ」

 「お主の力を貸してくれ。お主の力を余すことなく発揮できる場を提供すると約束する。猛者と戦えるし、軍も率いれる。父上殿が心配か? なに問題あるまい。あの『風読み』の丁(けん)(よう)殿であれば、後漢さえ残れば、波が高かろうと泳ぎきるじゃろ」

 袁術の言葉に、誰もなにも返せない。

 「もし」

 しかし、なにも返さないのは決して正しいことではない。

 袁術は誘いの手を伸ばしたのだ。

 圧倒されて、それで終わるのか、と。

 「もし、おれが力を貸して、コイツらを守れるのなら」

 そんな挑発をされては。

 「手を貸してやる。ああ、貸してやるさ」

 受けるしかないではないか。

 いやそうではない。

 彼女らを守るためなら。

 そして、父の邪魔にもならないなら。

 そこまでの条件をつけられて、それでもなお、断るという選択肢もあったはずだった。

 つまるところ、これは、丁奉先という少年が彼女を気に入ったというだけの話だ。

 力を備え、それに足る器を備えた少年は、幼く、そしてだからこそ、狡く賢く生き抜いている少女につくことを決めたのだ。

 丁布は手を差し出す。

 それを受けて、袁術もその手を握り返した。

 「よろしくの、ほーせん」

 父の恩義を脇に置き、友との一時の安楽を端に避けて。

 そして、丁布が選び取ったのは、自身の力がどこまで通用するのか。そんな、狂った武者震いだった。

 「ああ。おれはどうやら、暴れたかったらしいぜ。あんたが用意する戦場とやら。楽しみにしてるぜ、のじゃ姫」

 「『のじゃ姫』ってもしや、妾のことかの?」

 ここに、こうして、この先十数年に渡って、着かず離れずを繰り返す最強の少年と最狡の少女の同盟関係の発端が、形作られた。

呂布が丁原の養子だったなら苗字も変わるはずじゃんね。

劉封が劉備に養子になった時に改名したみたいにさ。

なので、丁布です。

董卓の養子になったら董布になります。

豆腐。


ルビ、誤字、表記ゆれの修正を行いました(2024年9月21日)。

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