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呼び名

『リンクを確認しました。通信プレイを行いますか』

「出た!」

 カズマが興奮した声を上げる。

「お前らも出ただろ?」

「うん、出た」

「私も」

 ヒロナリとリンもそれぞれの画面を見ながら頷く。

「よっしゃ。三人同時プレイできるぜ」

『はい』を選ぶと、二人のキャラクターがカズマの画面に現れた。

 青いローブを纏った魔法使いと、それから雪のように真っ白い鎧をまとった女性キャラクター。

「三条のこれって、何だ?」

「七瀬君は戦士なんだね。六宮君は魔法使いか」

 リンが画面に現れた二人のキャラクターを見て言う。

「私のキャラクターは、魔法戦士って言えばいいのかな。武器も魔法も両方使えるの」

「何だよ、それ」

 カズマが不満の声を上げる。

「両方できるなんて、ずるくねえか」

「そんなこと言われても」

 リンは少し困った顔をする。

「最初からそうだったから」

「まあ、そうなんだろうけどさ」

「でも、使える武器の数も魔法の数も、僕らよりも少ないみたいだ」

 ステータス画面を確認していたヒロナリが、冷静な声で言う。

「オールマイティだけど、僕らほど専門性が高くないんだね」

「うん、そうなの」

 リンがほっとしたように頷く。

「難しいこと言うんじゃねえよ、ヒロナリ」

 カズマは嫌な顔をした。

「つまり、何だって?」

「器用だけど決め手に欠けるってこと」

 リンが補足した。

「だから攻略にはいろいろと頭を使うのよ」

「ふうん」

 まあ、そう何でもうまくはいかないってことか。

 カズマは納得する。

 それなら俺は戦士の方がいいや。

 なんたって、破壊力抜群だし自分の体一つで戦うってところが男らしいからな。

 そう考えると何となく、自分の灰色の戦士がかっこよく見えてくる。

「でも三条さんのキャラクターって」

 じっと画面を見つめていたヒロナリが言った。

「魔法戦士って言うよりも僕にはお姫様に見えるな」

「ああ、確かに」

 カズマも頷く。

 ヒロナリの言う通り、白い鎧に身を包んだリンのキャラクターは、粗いドットで表現されていることもあって、見ようによっては鎧ではなく純白のドレスを纏っているようにも見えた。

 特に、キャラクターの明るい茶色の髪の毛に金色のドットが入れられているのがお姫様のティアラのようにも見えるのだ。

「あんまり戦士って感じはしねえな。お姫様っぽい」

「そんなことないってば」

 リンは少し慌てたように自分のキャラクターを操作して、剣を振るった。

「ほら。ちゃんと戦えるんだから」

 リンの魔法戦士は、カズマの戦士と比べても遜色ない素早い動きを見せたが、決定的な違いがあった。

 リンの魔法戦士は左利きだった。

「あれ。お前のキャラクター、左利きじゃん」

「うん。最初からそうだよ」

「左利きにすることで、カズマ君の戦士との差別化を図っているのかもね」

「さべつ?」

「カズマ君の戦士と同じじゃつまらないから、ちょっと変えてるんじゃないかってこと」

 リンの補足に、カズマは頷く。

「そういうことか。確かにな」

 同じような操作感じゃすぐに飽きられてしまう。ゲーム会社の人たちも色々と工夫しているのだ。

 カズマは、隣に座るリンの白い腕を盗み見た。三条本人は右利きだったはずだ。

「じゃあ始めようよ」

 リンが弾んだ声を出した。それでカズマも自分の画面に目を戻す。

「よし、それじゃあ全員でミダスフの砦に行こうぜ」

 カズマは、画面の中の戦士を歩かせ始める。

 ミダスフの砦というのが、第四の秘宝のありかだった。カズマはもうその中の第一層には足を踏み入れたことがあった。

 だが、魔法使いはついて来ない。ヒロナリは難しい顔をしていた。

「どうした、ヒロナリ」

「ごめん。僕はまだそこまで行ってない」

「えぇ?」

「場所は分かったんだけど。そこに行くには、魔物が強くて」

 確かにステータスを見ると、カズマとリンのキャラクターに比べてヒロナリの魔法使いのレベルは低かった。

「なんだよ、進めとけって言ったのに」

「ごめん」

「そんなこと言っても仕方ないよ。せっかくだし、三人で行けるところに行こうよ」

 リンの提案はもっともだった。カズマも気持ちを切り替える。

「仕方ねえ。それじゃあお前のレベル上げに付き合うか」

「いいの?」

「だって、それしかねえだろ」

 そう言いながらも、カズマの胸は浮きたっていた。

 三人での通信プレイ。

 それは気の滅入ることの多い日常生活の中でめったに感じることのない、わくわくする感覚だった。

 三人で一緒に戦い始めると、一人の時はもちろん、二人の時とも全く違うということにカズマはすぐに気付いた。

「おお、これすげえな」

 ヒロナリの魔法使いが遠くの敵を撃ち、近付いてきたHPの高い敵をカズマの戦士が倒す。前回はそういうプレイだったが、どちらもできるリンの魔法戦士が入ったことで、状況はがらりと変わった。

 リンの魔法戦士がいるおかげで、カズマの戦士は魔法使いから離れて敵の真っただ中に突っ込んでいくこともできたし、ヒロナリの魔法使いも遠くの敵ばかりでなく、近くの強敵に向けて時間のかかる魔法を撃ち込めるようになった。

 二人のどちらが抜けても、その穴をサポートするようにリンの魔法戦士が動いてくれた。

 リンはドロップアイテムの矢と魔石のどちらも必要としたので、それを誰が取るかで少し戸惑ったものの、今までに比べると三人のチームプレイは理想的に思えた。

「すげえ、これなら簡単にボスも倒せそうだ。な」

「うん」

 カズマの言葉に、ヒロナリが頷く。口数は少ないが、興奮していることはカズマと同じだった。何というか、キャラクターの特徴の歯車が、かっちりと噛み合った感覚があった。

「ヒロナリ。そっち、俺が突っ込むわ」

「分かった。じゃあ僕が援護する。三条さんは」

「こっち側の敵を倒してればいいでしょ」

「うん、それでいいよ」

「やばい、囲まれた。俺ちょっと調子に乗った」

「七瀬君は私が助けるから、六宮君はそのままで」

「了解」

 そんな風に声をかけ合っていたが、だんだんお互いを「カズマ君」とか「三条さん」とか呼ぶのが面倒になってきた。

「もういいよ、カズで」

 最初にそう言ったのはカズマだ。

「俺もお前らのこと、ヒロとリンって呼ぶから。いちいち名前呼んでられねえ」

「それ、いいね」

 リンはすぐに笑顔で同意した。

「カズとヒロだね。うん、呼びやすい」

「うん、まあ好きに呼んでくれれば」

 ヒロナリには、まだ二人をそんな風に呼ぶことはためらわれた。

 自分をヒロと呼ばれるのは、少々くすぐったい気はしたが構わなかった。だが、彼らのことをカズとかリンと呼ぶことはできなかった。

「リン、そっちいったぞ」

「任せて。ヒロ、ここ離れるから気を付けて」

「うん。カズマ君、そこの足場崩れるよ」

「うおっ」

「カズ、回復するからこっちに来て」

 そんな風に声をかけ合いながら進めていくと、何だか一つのチームのような感覚があった。

 ふへへ、と急にカズマが笑った。

「やばいな。これ、面白え。俺、今すげえ楽しい」

「うん。私も」

 リンも画面から目を離すことなく同意する。

「ね。ヒロも」

「うん。僕も楽しいよ」

 ヒロナリもそれは認めざるを得なかった。一人よりも二人の方が、二人よりも三人の方が楽しくなるように、きっとこのゲームは作られている。

 だが、楽しい時間は長くは続かなかった。

「あ、もうこんな時間だ」

 不意にヒロナリが声を上げた。

 公園の時計は四時五十五分を指していた。

「もう行かないと」

「そうだね」

 リンも頷く。

「えー、せっかく面白くなってきたのによ」

 カズマは不満だったが、二人が電源を切ってしまうとどうしようもなかった。

「じゃあまたやろうぜ」

 カズマは言った。

「次こそ三人でミダスフの砦に行こうぜ。ヒロ、もう少しレベル上げとけよ」

「うん」

 このゲームを警戒していたヒロナリも、つい頷いてしまう。それほどこの三人でのプレイは楽しかった。

「いいね。じゃあ、約束ね」

 リンも言った。

「おう」

 カズマは、塾のバッグを背負い直した二人に手を振る。

「じゃあな」

「うん、また」

「またねー」

 二人を見送った後、カズマも自転車に跨って漕ぎだそうとしたが、ふと今日のヒロナリとの会話を思い出して足を止めた。彼らしくもなく、腕組みをして考え込む。

「……羨ましい、か」




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― 新着の感想 ―
[一言] 今更ながらに苗字に漢数字があるトリオなんだなと気がつきました。 四条君?さん?と五十嵐君?さん?も加わるのかしら。
2023/10/07 10:13 退会済み
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