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暗黒竜の秘宝

 

 チープなテーマ音楽とともに、タイトル画面が表示される。

 黒い背景に、銀色の文字で、『暗黒竜の秘宝』。

 今どき、全部がドット絵で表現されている。

 いわゆるレトロゲーっぽいのだが、つい先日配信されたのだから本当に古いゲームというわけでもないのだろう。

 レトロ風ゲームは、最近の流行りの一つだとも聞いたことがある。

 グラフィックや音楽は昔風だが、それはユーザーの触れる外側だけのことで、使われているシステムは最新という感じの新作ゲームのことだ。

 そういうやつか、そうでなければ、マイナーゲームの復刻版とかなのだろうか。

 ただ、もともとそんなにゲームに興味があるわけでもないカズマにとっては、そんなことは重要ではなかった。

 大事なことは、面白いか面白くないか。それだけだ。

 別に、絵がきれいでなくても音楽がしょぼくてもいい。最後の最後に、使った時間を返せと言いたくなるようなストーリーでも構わない。

 ゲームをプレイしているときは、ちゃんとゲームに集中できること。やることがなくなって手持ち無沙汰になってしまうようなゲームではないこと。

 それが、カズマの考える「面白いゲーム」だった。


 もうこのゲームをプレイし始めて一週間になるだろうか。

 タイトル画面に、ぼうっと「続きから」と「最初から」の選択肢が浮かび上がる。

 こんな演出も本当のレトロゲームではできないのかもしれないから、やはりレトロの皮をかぶった新作ゲームなのかもしれない。

 カズマは迷うことなく「続きから」を選んで、セーブしていた地点からゲームを再開した。

「暗黒竜の秘宝」は、いわゆるアクションRPGというジャンルのゲームだった。

 上からの見下ろし型の画面で、現れるモンスターを倒しつつ、画面のそこかしこに散りばめられた仕掛けを解いて武器やアイテムを集め、先へと進んでいく。

 主人公の勇士は、最初はナイフ一本しか持っていないが、冒険の途中で様々な武器を手に入れる。

 長剣、槍、斧、弓といったオーソドックスなものから、トゲ付きこん棒や鎖鉄球などの変わり種まで。

 カズマがまだ手に入れていない武器もあるが、メニューのアイテム欄に未入手武器はシルエットで表示されるので、大体の見当はつくのだ。

 主人公は、どの武器も全て器用に操った。

 カズマもプレイしていくうちにこのゲームに合った戦法を確立していた。

 普段は一番使い勝手のいい長剣を装備しておいて、近寄られたら厄介な敵には槍で、防御力の高い「硬い」敵には斧で、川や木の向こうにいる敵には弓で、という風に武器を使い分ける。

 ボタン一つで武器を切り替えられるので、その辺りのストレスはなかった。

 きちんと計算して設計されているらしきシステムと比べ、ストーリーのほうはごく単純なものだ。

 スタート地点の村で出会う長老らしき老人から、

「暗黒竜の復活が迫っている。暗黒竜が復活すれば、この世は闇に覆われてしまう。それを阻止するためには、かつて暗黒竜が世界中に隠した秘宝を全て集めなければならない」

 というような説明を受ける。

 大まかに言えば、ストーリーはこれが全てだ。

 その後は、「最初の秘宝は東の山を越えたところに隠されているそうだ」などという情報を頼りに旅をし、秘宝を集めていくだけだ。

 勇士が何者なのか、とか、暗黒竜というものがどういう存在で何のために秘宝を隠したのか、というようなことはゲーム中では全く説明されない。

 少なくとも、カズマが進めてきた段階では何もなかった。

 その程度の曖昧なストーリーでも、カズマは別に気にならなかった。

 物語を追いかけるようなゲームが好きなわけではないからだ。

 ストーリーがあったって構わないが、なくたっていい。こっちのアクションをいちいち中断してごちゃごちゃとキャラクターがお芝居し始めるようなものは苦手だ。

 そういう意味では、これはカズマにぴったりのゲームだった。

 アクションの出来がいい。バランスがよく練られている。

 簡単すぎず、難しすぎず。

 だらだらと惰性でやっていたのでは、決してクリアできない。どこのダンジョンにも必ず「おっ」と居住まいをただすような仕掛けがある。

 もしもカズマに、ほかにやることがいくらでもあれば。

 たとえば、最新ゲーム機での通信対戦を友達とやれたりしていれば。

 いくら出来が良かったとしてもカズマはこんな古臭いゲーム、すぐに投げ出したことだろう。

 だがほかにやることがない、という環境が、カズマをよりこのゲームにのめり込ませた。

 プレイすればするほど上達し、コツも身に付けていった。

 そうか。まず最初に、画面の上のほうにいる敵を矢で片付けておけばいいのか。そうすればその後に左からデカい敵が来たときに、そっち側に逃げられるんだ。

 ダンジョンにもぐる前には、あの赤い敵を倒して矢を補充しておかないといけないんだな。肝心なところで矢が尽きたら最悪だ。

 プレイごとにそんな気付きがあり、自分の力で先に進んでいくことが楽しかった。

 だが、やはりそれでも詰まるときが来た。

 三つ目の秘宝の隠し場所であるレヲ・テミオの洞窟。

 秘宝を手に入れるには、その洞窟の奥にある扉から異界に行く必要があるのだという。

 だが、洞窟の最深部には到達できたものの、異界への扉を守るボスモンスター「レヲ・テミオ」にどうしても勝てない。

 固い甲羅を持つ亀と鰐のあいの子のような姿のこのモンスターには、主人公の勇士の持つどの武器も効かなかった。

 攻めあぐねているうちに、口から吐く爆裂弾のようなものにHPを削られ、やられてしまう。

 おかしいな。

 カズマは考える。

 そこにたどり着くまでのザコ敵との戦いから考えても、主人公のレベルが足りないということはなさそうだ。

 どこかで重要なアイテムを取り逃したんだろうか。

 それっぽいヒントは目にしていない気がするけど。

 そう考えると、途端に面倒になって投げ出してしまいたくなった。

 だが、結局はこのゲームに戻ってくる。

 疲れた母の愚痴は、日に日に長くなっていた。

 それを辛抱強く聞いているとき、このゲームのほかには、カズマに寄り添ってくれるものがなかったから。



 その日、カズマは普段行かない遠くの公園に自転車で向かっていた。

 気まぐれに来てはみたものの、学区外の公園にいたのはやはり見知らぬ子供ばかりだった。

 以前ここでサッカークラブで一緒だった子に会ったことがあるので、少し期待していたのだが、今日はいなかった。

 面白くねえな。

 自転車に跨ったまま、公園をぐるりと見回して、次の公園に向かう。

 そうやって、いくつかの公園を巡り、そろそろ暗くなってきたころだった。

 遊具もない小さな公園で、カズマはようやく知り合いを見付けた。

 だが、期待したタイプの子ではなかった。

 それは、同じクラスのヒロナリだったからだ。

 なんだ、ガリ勉かよ。

 ベンチに座っているヒロナリの傍らには、成績のいい子たちの通う塾のカバンが置かれていた。

 そうか。あいつの塾、この辺なんだな。

 ヒロナリはカズマに気付く様子もなく、ゲームに夢中になっていた。

 ガリ勉もゲームなんかやるのか。

 意外に思って、カズマは口元を緩めた。

 普段、教室ではゲームになんて何の興味もありませんって顔してるくせに。

 だがすぐに、そんなことよりももっと大事なことに気付く。

 ヒロナリが両手で抱え込むように持っているそのゲーム機が、ほかの子が持っているところなど見たこともない、けれどカズマにとってはよく見慣れた、あのゲーム機だったのだ。


 ヘリオス・ネオ。


 こいつも、こんな古いゲームやってるのか。

 途端に嬉しくなって、カズマは自転車を下りた。




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