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ミダスフ

 気のせいだ。

 ヒロナリはそう思うことにした。

 開閉する扉の前に、暗黒竜の紋章。

 確かに似ていると言えば似ているが、自動開閉するドアなんてよくある仕掛けだと思う。

 朝、そういうニュースを見たから、少しでも似たものを見たらそれに関連付けて考えてしまう。

 きっとそういうことだ。

 頭の片隅でそんなことを考えて自分を納得させながら、そのときにはヒロナリの頭は猛然と回転を始めていた。

 近付くと閉じてしまう扉。近付かなければ、一定の間隔で開閉を繰り返している。

 何か僕の魔法で使えるものはないか。

 真っ先に思いついたのは、氷の魔法だ。

 敵を凍らせて氷の塊にするこの魔法で、凍らせた敵を扉の前に置いて、閉まるのを防ぐというのはどうか。

 だが、それは無理だとすぐに分かる。

 扉の近くには、敵が全然いないのだ。氷の魔法で凍らされた敵は、一定の時間が過ぎると元に戻ってしまう。扉まではとても間に合わない。

 氷の魔法を利用するアイディアは無しだな。ヒロナリは発想を転換する。

 第三の秘宝を守っていたボスモンスター、レヲ・テミオを倒すには戦士と魔法使いの二人の力が必要だった。

 戦士だけでも魔法使いだけでも倒せなかった。だから二人ともゲームに詰まっていたのだ。

 つまり、もともとこのゲームはソロプレイではクリアできないようになっている。

 ということは。

 ヒロナリは隣に座るリンの顔をちらりと見た。

 リンは真剣な顔で画面を見つめている。

 ヒロナリとカズマ、二人だけでもクリアできないようになっているのではないか。

 きっと、ここを通るにはリンの力が必要なのだ。

 二人目の仲間を集められなかったプレイヤーがレヲ・テミオに淘汰されたように、三人目の仲間を集められないプレイヤーは、ここで淘汰されるのではないだろうか。

「ねえ、三条さん」

 ヒロナリは言った。

「三条さんのキャラが使える魔法って、どんなのがあったっけ」

「え、私?」

 リンはきょとんとしたが、すぐにステータスを開く。

「回復と炎、氷と稲妻。ヒロの魔法使いほどじゃないけど、一通り使えるよ」

「見せて」

 ヒロナリはリンの画面を覗き込む。

 この中に、ヒロナリの魔法使いが使えない魔法がないだろうか。あるとすれば、きっとそれが。

「……あった」

 ヒロナリは顔を上げて、リンを見た。きっと、これだ。

「三条さん、この“石の魔法”って何?」

「ああ、それ」

 リンはわずかに首をかしげる。

「敵を石にする魔法なんだけど。氷の魔法と違って、石にした後で攻撃しても効かないし、押しても動かないし、すごく不便なの」

「僕の魔法使いは、こんな魔法は使えない」

「え?」

「使ってみよう」

 最初、扉に向かって石の魔法を撃ち込んでみたが、何も起きなかった。

「やっぱり敵に撃つんだ」

「うーん。でも、敵を石にするとねえ」

 気乗りしなさそうな様子のリンは、それでも扉から離れたところにいる敵に魔法を撃って、石にした。

「ほら、倒せなくなる」

 リンの魔法戦士が石化した敵に向かって剣を振る。確かに、キンキン、という硬い音がするだけだ。

 石は、押しても動かなかった。

「お前ら何やってんの」

 黙って二人の行動を見ていたカズマが、自分の戦士を近付けてきた。

「硬い敵なら、剣じゃなくて斧だろ」

 そう言って、灰色の戦士が無造作に斧を振るうと、石は粉々に砕け散った。

「あっ!」

「壊れた!」

 二人が同時に声を上げると、カズマは驚いたように目を瞬かせる。

「な、なんだよ」

「そうか。私の魔法戦士は、斧を装備できないから」

「もしかして、カズマ君の戦士なら石を押せるのかな」

「試してみよう」

 二人に促されて、カズマはリンが石にした敵を押してみる。

 石は、するすると動いた。

「やった!」

「これを扉まで運ぼう!」

「ええ?」

 何だかよく分からないまま、カズマは二人の言う通りに石を扉まで運ぶ。

 途中の通路で、石を壁際に押し込んでしまってそれ以上動かせなくなってやり直すことが二回あったが(石は押せても引けないのだ)、三度目の挑戦でカズマの戦士は石を扉の前まで持ってくることに成功した。

「そのまま、扉に近付いてみて」

「ああ」

 戦士が石を押しながら近付いていくと、扉は直前で閉まろうとしたが、石につっかえてしまう。

「よし、そのまま石ごと通り抜けて。三条さん、僕らもカズマ君の後ろにぴったりついていこう」

「分かった。カズ、そのまま待ってて」

「おう」

 石を先頭に、三人のキャラは縦隊を組んで扉を通過する。

 最後尾のリンが通過し終えると、また扉はばたんと閉まった。

「通れた!」

 リンが歓声を上げ、左手を突き出す。

「二人とも、すごい」

「まあな」

 カズマが得意そうに手を合わせ、ヒロナリもぎこちなくそれを真似る。

「よし、このままボスのところまで行こうぜ」

 その後も、三人のキャラは力を合わせて進んでいった。

 やがて、五階の階段を上ったところで、BGMが変わった。

「ボスだ」

 カズマが呟く。

 ボスモンスター、ミダスフ。

 砦を支配しているだけあって、現れたその姿は中世の騎士のようだった。

 だが全身を覆う甲冑のところどころからは触手のようなものが覗いていて、普通の騎士ではないことが分かる。

「硬そうだな」

 カズマは言った。

「よし、俺は斧でいく」

「金属の鎧っぽいし、僕は稲妻を撃つよ」

「じゃあ私は弓矢で。それがダメなら魔法に切り替えるわ」

 三人がそれぞれに作戦を決めて散開する。

 戦いは激しいものとなった。

 カズマの戦士は果敢に近付いて斧を振るったが、ダメージを与えているようには見えなかった。

 ミダスフは槍を構えての突撃のほかに、身体から突然飛び出す触手での攻撃方法を持っていた。

 いきなりすごい速さで飛び出してくる触手に、カズマの戦士はたちまち瀕死に追い込まれてしまう。

「くそ、こいつ強えな」

「カズ、下がって。回復する」

「おう」

 弓も、稲妻や炎の魔法も効かなかった。

「何か弱点があると思うんだけどな」

 とヒロナリ。

「前回みたいな組合せかな」

「あの触手にはダメージ与えられるんだけどな」

 カズマが言う。

「いくら斬っても、本体には効いてない感じがする」

「鎧が本体だもんね」

 リンが言う。

「鎧の中まで通すような攻撃かあ……」

「槍かな」

 HPを回復してもらったカズマが、装備を槍に換えて果敢に攻め込んでいく。

「鎧の中まで……」

 ヒロナリは、リンの言葉にぴんとくるものがあった。

「三条さん、石の魔法」

「え、また?」

 リンの魔法戦士が飛ばした石の魔法は、ミダスフに当たったが何の効果も現さなかった。

「やっぱり、だめ」

「違う」

 ヒロナリは言った。

「鎧じゃなくて、飛び出してくる触手に撃って」

「触手に?」

 素早い触手に魔法を当てるのは難しかったが、運動神経のいいリンだけあって、何回か失敗した後で当ててみせた。

 触手が石に変わる。

「カズマ君、この石を」

「斧か?」

「いや、斧だと壊れちゃうから」

 ヒロナリがそう言いかけたときには、カズマの戦士が石を剣で叩いていた。

 リンの魔法戦士が剣を振るってもびくともしなかった石は、戦士の怪力で真っ直ぐに飛んでいき、ミダスフ本体に当たった。

 ミダスフの身体が点滅して、その動きが止まる。

「効いた!」

「今だ!」

 三人がここぞとばかりに攻撃すると、ざくざくというダメージを与えている音がした。

「よっしゃ」

 カズマが歓声を上げる。

 ミダスフが再び動き始めたが、もう攻略方法は分かった。

「リン、どんどん石にしろ。俺がぶつける」

「分かった」

 石を三度ぶつけられると、鎧に割れ目ができた。そこにヒロナリの炎の魔法を撃ち込むと、ミダスフはついに爆発四散した。

「やった!」

 誰からともなく、三人はハイタッチする。

「ヒロ、すごい」

 リンが紅潮した顔で言った。

「どうして分かったの?」

「いや、分かったっていうか、前に何かの本で読んだことがあったから。全身鎧の騎士を相手にするときは、刃物じゃなくてメイスっていう棍棒みたいな打撃武器で叩いて、中の人間に脳震盪を起こさせるのが有効だって」

「本ってそんなことも書いてあるのか」

 カズマが目を丸くする。

「っていうかどんな本だよ、それ」

 そのとき、三人の画面に『異界への扉が開きました。』というメッセージが表示された。

 あ、これは。

 ヒロナリがそう思ったときには、周囲の風景は一変していた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 四人目いるんでしょうか!?
2023/10/10 23:32 退会済み
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