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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

バトルロワイヤル・イン・ザ・体育祭

作者: 夏月七葉

 何がどうしてこうなった。

 震える脚に力を入れて、僕はどうにかそこに立っていた。目の前には、屈強という言葉が相応しい体格の先輩が二人。心なしか、影が差した笑顔の双眼が不気味に光っているように見える。

 僕の背後から、幾つもの声援が飛んでくる。――いや、これは声援などではない。僕の逃げ道を塞ぐ為の圧である。自分以外の誰かを生贄にする、上辺だけの応援だ。

 絶望という言葉の意味をひしひしと感じながら、僕は乾いた喉を波立たせた。


 この学校の体育祭は、他と少し変わっている。

 普通は生徒が幾つかの組に分かれて競技を行い、点数を競う。しかしうちの学校では、チーム戦ではなく、個人戦になるのだ。

 まずは同じクラス内で競い合い、一名の勝者を決める。次に各学年でクラスのトップ同士が争い、学年トップを決め、最後に各学年の勝者が三人で決勝戦を行うのだ。

 この学校が変わった体育祭をしているということは、入学してから初めて知った。個人戦となるとチーム戦よりも大変なように思えるが、裏を返せば、クラス内での争いで早々に負けてしまえば、後は何もしなくて良いということである。運動も筋力もからっきしの僕にとっては、これほど良い条件はない。

 優勝に興味はない。クラスの中で最下位だとしても、別に構わない。

 よって、僕は最初からいつも以上にやる気のない態勢で体育祭に臨んだのだ。

 ――だというのに、僕は何故かあれよあれよと勝ち進み、今、訳も分からず、決勝の舞台に立っている。

 僕は早々に負けるはずだった。さっさと戦線離脱をして、悠々とこの祭りが終わるのを待つだけだったのだ。

 なのに、何故、どうして。

 半ば混乱する僕に「頑張れよ」と声をかけていったクラスメイトのニヤけた表情を見て、ようやく悟ったのだ。

 皆、考えることは同じだったのだ。自分達より体格の良い先輩達と戦う羽目になるのは嫌だから、一年生全員が僕以上に力を抜いていたのだ。

 ああ、いっそのこと、今日は休んでしまえば良かったなぁ。

 変なところで生真面目な自分自身を恨みながら、僕は決勝戦開始のゴングが鳴るのを遠くに聞いた。

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