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先輩らしい

作者: 跳羊

雲一つない晴れ空。太陽みたいに明るい先輩の卒業を祝うには絶好の天気だ。そんな中で行われている卒業式に僕は出席せず、屋上で暇をつぶしていた。ふと、先輩と過ごした2年間を思い返してみる。

何もかも思い通りにはいかなかった2年間だった。人づきあいがお世辞にもうまいとは言えない僕は、部員が一人しかいないからという理由で文芸部に入部した。ただ、そのたった一人の部員である先輩は自分が最も苦手とする人種だった。やたら話しかけてくるし、やりたくもない仕事をやらせてくるし、文化祭のたびに書きたくもない詩を書かせてきた。休日のたびにいろいろな場所に連れ出されたりもした。一人で出来ることを何でも僕とやろうとしていた。それに僕が文句を言うたびに先輩はいつもの飛び切りの笑顔で、

「君とじゃなきゃ面白くないじゃん!」

 なんて言ってくるから、なんだかんだで毎回付き合ってしまっていた。そんな先輩はうっとおしくて、それを上回るほどの魅力を持った人だった。

 そんな回想は屋上のドアが開く音で現実に戻された。後ろを振り返ると、そこには先輩が立っていた。僕が口を開くよりも先に先輩は、

「ここにいると思った。」

と、あの笑顔を向けてきた。腕時計を見ると卒業式はとうに終わっていて3年生を送る会が始まっているような時間だった。

「何してるんですか・・・。まだ体育館でなんかやってるでしょ。」

「君がいないから探しに出てきちゃった。」

平気な顔をして先輩はこんなことを言ってしまう。せっかく諦めがついていた思いがこみ上げてくるのを感じた。

「そんな理由で・・・。ほんと先輩らしいですね。」

 君がいなきゃ面白くないじゃん、といつものように言いながら僕の横に歩いてくる。何度かこうして屋上に来たこともあったな、なんて思い出がよみがえる。先輩は屋上の手すりに手を突きながら話し始めた。

「こうして君と話せるのも今日で最後なのかもね。」

「そうですね。」

 先輩から分かり切っている事実を示された僕は一言返すことしかできない。

「まあ、ここ何か月かは私が忙しくて会えてなかったけどね。受験とかいろいろあったから。」

先輩はあっけらかんとして話を続ける。

「彼氏さんともうまくいってるみたいですしね。」

 僕の返しは予想してなかったのか、先輩は驚いた表情をした後、顔を赤くする。

「あはは・・。おかげさまで・・・。」

ひとしきり照れた後、先輩はこちらを向くとにやにやしながら、

「君も彼女に一人くらい作ればいいのに。」

なんて言ってくる。

「・・・友達も少ないのに出来るわけないじゃないですか。」

僕の返しを聞いた先輩は求めていた答えが返ってきたことが嬉しいのかケラケラと笑う。しばらく笑った先輩はくるっとこちらに体を向けると、

「それじゃあ、今ここでお願いしてみれば?」

と真面目な顔をして言ってきた。

「いやですよ。恥ずかしい。」

そう返す僕を横目に先輩は真面目な顔をして続ける。

「この学校にはね、卒業式の日に屋上で願い事をするとその願いが叶うっていう伝説があるんだよ。だからさ、願ってみようよ。」

まっすぐこちらを見据えてくる先輩の視線を切りながらため息交じりに返す。

「・・・どうせ先輩が今作ったやつでしょ。」

「えー・・・。なんでばれたのー・・・。」

先輩は分かりやすく肩を落とした。こんな嘘、2年間も一緒に過ごしていればわかる。そんな事実さえも僕を傷付けるには十分な代物だった。

「じゃあさ、私が願ってあげるよ。君に彼女が出来るように。」

しばらく空を見上げていた先輩はこちらに顔を向けないままこんなことを言ってきた。

 「それで君が彼女作ってさ、本当に伝説にしちゃおうよ!」

これがこの人の優しさなのか、いつものおふざけなのか、僕にはわからない。

「・・・じゃあ、僕は先輩のお願いが叶わないように願いますね。」

先輩はきょとんとした顔をしてこちらを向く。

 「そうすれば、僕に彼女が出来ても出来なくても伝説は本当になりますよ。」

 僕の返答を聞いた先輩は、一瞬驚いた顔をしつつもふっと笑った。

 「君らしいね。君のそういう考え方好きだよ。」

 そうして先輩は空へ視線を戻した。

 そこからは会話は無く、ただ並んで空を見上げるだけの時間が続いた。先輩と過ごしていてこんなに無言だったことはないかもしれない。だが、こんな時間がもう少しでも続けばいいと柄にもなく思ってしまう。それ以上のことができない自分にも嫌気がさしてくる。


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