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ボッタクル商店ダンジョン内営業所配達記録  作者: 仁渓
エピソード2 バージンロード

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石女

               3


 あたしは車椅子のゴーレムを操作し、カウンターの陰から店内の陳列スペースに出ると、暴れるお客さんたちに近づいた。


 あたしの両足は、膝のすぐ上付近まで、完全に黒い石になっている。


 探索者引退前の最後の探索で、受けた被害だ。引退の理由でもある。


 石化は、今でも進行を続けており、徐々に足を上ってきていた。


 もともとは足首までの石化だ。進行が進み、もう膝は曲げたまま動かせなくなっていた。


 スカートのため、膝は見えていないが、靴を履いていない足首が石化している様子は、一目でわかる。


 車椅子の車輪が、床にこぼれた液体に線を引き、踏んだガラスが、パキリと割れた。車輪も木製だ。


 あたしは、坊やたちの顔を見上げた。


 車椅子に座っているため、どうしても、相手の顔の高さは自分より上になる。


「お客様、何か不都合がございましたか?」


 大手商店による嫌がらせに違いないとは思っていたが、怒りを押し殺して、あえて確認する。


「不都合どころじゃねえよ。この店では腐ったポーションを売ってるのか!」


「御冗談」


 あたしは、車椅子に座ったまま前かがみになると床に手を伸ばし、床にこぼれたポーションを指につけて、ぺろりと舐めた。


「問題ないわね。昨晩煮て、今朝、瓶に詰めたばかりの新鮮なポーションよ」


 物言いが伝法になったとしたら、ごめんあそばせ。


 はたして、二人は、あたしに、どのようなリアクションを期待していたのだろう?


 (すご)めば、ぺこぺこ謝るとでも思っていたのか。


 あたしの態度に、坊やたちの顔が、怒りで赤く染まった。


 二人がかりで、あたしにのしかからんばかりに、ずいと詰め寄る。


 ほぼ真上からの威圧だ。


 坊やたちが、その気になれば、あたしなど車椅子ごと簡単に突き倒せるだろう。


 あら、もしかして、貞操の危機かしら?


「客に対して、なんだその態度は! 腐ったポーションを売りつけようとするばかりか、口の利き方もなっていない。そんな商売しかできないんだったら、こんな店、さっさとたたんじまえ!」


 やはり、それが本音か。


「そんなに腐っていると言い張るなら、その腐ったポーションでもいいから飲ましてくれという目に合わせてやりましょうか? 効くか効かないか、あんたらの体で試してみましょう」


 二人は、一瞬ひるんだようだが、あたしの足が石で、しかも、車椅子に座っているため、高を括ったのだろう。


「そんな足で何ができるってんだ?」


 言うなり、また、別の棚をひっくり返した。


「誰かが、間違って買っちまったら大変だからな」


 もう一方も、口を開く。


「そういやぁ、聞いたぜ。ボッタクリ商店の女店主は、石女(うまずめ)なんだってよ」


 石女。妊娠できない女性に対する、ひどい蔑称だ。


 あたしら夫婦に子供がいない事実と、あたしの足の石化を掛けているのだ。


 だが、『できない』の意味が違う。


 こちとら、足がこんなで、夫には、いつも我慢を強いていると、常々申し訳なく思っているのだ。


 許すまじ。


 その瞬間、規則的に店内を飛んでいた三体の光の精霊(ウィスプ)たちが、明滅しながら、狂ったように飛び交った。


 棚の奥や裏など、我先にあたしから離れた、見えない場所へと逃げ込んでいく。


 あたしの怒りを感受したのだ。契約しているので店を飛び出してまでは逃げられない。


「何でだろな? どこまで石になっているのか俺たちで、よく確かめてやろ……」


 下卑た顔で、あたしの足首から嘗めるように上へと視線を移動させてきた、もう一方の坊やと、あたしは目が合った。


 ひっ、と、坊やは恐怖に引き攣った声を上げた。


 人の顔を見て、怖がるだなんて、失礼ぶっこくわ。


 採光と通風のため、開け放っていたすべての窓と扉が、バタンと閉じた。


 店内は、狂ったように、赤青緑の光が明滅している。


 空気が冷えた。


 脱兎のごとく、坊や二人は、出口へ向かった。


 扉は閉じている。


 先に扉についた坊やが、ノブを握った。


「あちっ!」と、声を上げた。


 火だけではなく、冷たすぎる物をつかんだ時も、人は火傷する。


 ドアノブは、つかんだ手ごと、完全に凍り付いていた。


 空気が、どんどんと冷えていく。ドアノブを凍り付かせた、魔法のせいだ。

いけない。


 室内が冷えすぎると、トロピカルな植物が枯れてしまう。


 あたしは、空中に火の玉を出現させた。


 本来は魔物を焼き尽くす術である。


 先ほどまで、光の精霊(ウィスプ)が店内を巡回していたように、ゆっくりと火の玉を飛び回らせる。


 冷えた空気と暖かい空気が混ざり合った。


 これで植物は大丈夫だろう。


「手が、手が」と、腕を凍り付かせた坊やが叫んでいる。


 もう一方の坊やは、お仲間を引きはがそうと懸命だ。


「力づくで動かすと根本から折れるわよ」


 坊やたちは、動きを止めた。


 あたしは、ゴーレムに合図を送って車椅子を動かし、二人に近づいた。


 二人は、がくがく、ぶるぶると、あたしの顔を見つめながら震えている。


 まだ、そんなに寒いかしら?


 じょろじょろ、という音とともに、坊やたちの足元に液体が流れて湯気が立った。


 あたしは、液体を踏まないように、慌てて、車椅子ゴーレムを後退させた。


 まだ、坊やなんだから、オシメしとけっての!


 あたしは、にっこりと二人に微笑んだ。


「ちゃんと掃除はしてもらうわよ」


 二人は、こくこくと頷いた。


「それと弁償」


 はぁ、と、あたしは息を吐いた。


「あたしが優しくて良かったわね。うちの人がいたら、あんたたち、とっくに首が飛んでるわ(クリティカル)よ」


 そうなると、今頃、『なんで、店内で首をはねちゃうの!』って、叱ってたところね。


 逃げたあたしの、車椅子の手前まで、小便が流れてきた。


 嫌でも足首が目に入る。


 真っ黒く石化した、あたしの足首。


 あたしにとって最低で、最高だった、地下二十二階に降りた日のことが思い出された。

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