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閉園間際の恋人たち  作者: 有世けい
隠しきれなかった隠し事
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季節が少し進み、秋も中盤を越えた頃、園では運動会が開催され、その翌日が振替休日となった。

この日は大和との約束で、FANDAK(ファンダック)に行くことになっていた。

秋の催しがはじまっているのはテレビでも特集されていたので、大和がずっと行きたがってたのだ。


蓮君は私達が出会った例のパレード以来パレードへの出演は慎重になっていたようだけど、秋からはレギュラーメンバーとして復帰しているらしい。

それを聞いた大和は、予想通り、『行きたい行きたい』と言い出した。

ハロウィンの時季ということもあり、モチーフは ”仮面舞踏会” だというから少し大人向けなのかと思いきや、子供用のプログラムも盛りだくさんなのできっと大和も楽しめるはずだと、蓮君もおすすめしてくれた。

こっそりと、『俺の仕事っぷりを見た琴子さんが、もっと俺を好きになってくれたらいいんですけどね…』と耳打ちされたのは、大和には秘密の話である。


確かに、あの日以来、私や大和が蓮君のダンスを見ることはなかった。

一度だけ一緒にFANDAK(ファンダック)に行ったけれど、蓮君もゲスト側だったし、それ以外にも彼のパフォーマンスに直に接する機会は訪れずで。

そう認識したとたん、私の心中ではダンサー北浦 蓮を見てみたいという願望がムクムクと膨らんでくる。


「じゃあ……今度の振替え休日の日に、行ってみようか?」


いかにも大和のおねだりに応えてという素振りで、だけど本心では私も前のめりになりながら、秋のイベントへの参加を決めたのだった。




平日ということもあり、土日に比べたらまだ混雑は緩和されている方だと蓮君は教えてくれたものの、この地域にはうちの園と同様、前日の運動会の振替え休日の幼稚園、小学校が複数あるようで、似たような家族連れが目立つ印象だった。


蓮君といえば、大和の運動会を応援しに来たかったようだが、それを話したときにはすでにシフトを組んでいたので、残念ながら今年は不参加となった。

大和も残念がってはいたものの、毎日朝と夜には蓮君とテレビ電話で話しているので、無理に来てほしいと駄々をこねることはなかった。

その代わり、今日のパレードで自分を見つけたら合図してほしいと頼んでいた。

そんなお仕事の邪魔になるようなことはお願いしちゃだめよと私が窘めると、意外なことに蓮君からは二つ返事で了承が返ってきたのだ。


『それじゃ、フリーの振り付けのときに大和君を見つけたら、大和君を指差すよ。でも大和君こそ、僕がわかるかな?ダンサーは目元を隠す仮面(マスク)をつけてるからね』


数日前にクイズの本を読み終えたばかりだった大和は、まるで蓮君から大きなクイズを出されたかのように大喜びでその挑戦状を受け取った。


そうして、穏やかに晴れ渡った今朝を迎えたのである。





「琴ちゃん、はやくはやく!」


もう楽しみで楽しみで仕方ないと全身から歓喜を爆発させている大和。

私はその手をぐいっと引き、前屈みになって告げた。


「走っちゃだめよ。それから、今日のお約束は覚えてる?」

「うん!ぼく、おぼえてるよ!」


今日を迎えるにあたって、私は大和にいくつかの注意事項を伝えていた。

まず、走ったりふらふらよそ見しないこと、私から離れないことなど、お出かけ時の基本的な注意点。

そして今日に限っての特別なものとして、蓮君を見かけても蓮君と仲良しだと周りの人にわかるようなことは言わない、という約束をさせたのだ。

最初は不思議がってた大和も、蓮君はすごく人気だから大和が蓮君と仲良しだと知ったら他の人がやきもち焼いちゃうかもしれない、と説明すると理解してくれた様子だった。


とにもかくにも、前回のパレードのようなハプニングだけは回避したかったのだ。

その危険性が完全になくなったわけではないので、今日に至るまでの間、私の中で若干の葛藤は続いていた。

あのとき怪我をしたのは私だけだったけれど、もし、また何かあって、今度は大和が怪我をしてしまったら?

私と大和は無事でも、他のお客さんや、何より蓮君に迷惑がかかるようなことが起こったら?

そんな気がかりが電話越しでも伝わってしまったのだろう、蓮君からは、『会社側も色々安全対策をとっているので、この前のようなことはありませんよ。安心して大和君を連れて来てください』と先回りされてしまった。

蓮君がそう言う以上、私が心配しても仕方ない。

私は恋人と恋人の勤め先を信用して、今日は大和と楽しむつもりだった。





「琴ちゃん、カボチャおばけがたくさんだね!」


見渡す限りどこもかしこもハロウィン仕様で、大小さまざまなカボチャの装飾が広がっている。

幼稚園でも壁面飾りにカボチャを取り入れてるので、大和にも馴染みのあるものだった。


「そうだね。飾りだけじゃなくて、カボチャのおやつもあるみたいだから、パレードの前に食べてみる?」


蓮君出演予定のパレードは午後からなので、私達は午前のうちに昼食をとっていたのだが、歩き回っていると小腹が空いてくる。

パンフレットの写真を見せると予想通り大和は目をキラキラさせた。


「ほんとだあ、カボチャおばけのおかしがいっぱいだ!」


その中から大和が特に食べてみたいと言ったのはパンプキンパイだった。

私達はそれを販売してるワゴンに立ち寄ってから、今日一番のメインイベントであるパレードに向かうことにした。


私達は入場チケット以外にも、全施設を優先的に案内してもらえるフリーパスチケットをFANDAK(ファンダック)側からいただいており、それはパレードにおいても特別なエリアで観賞できるそうだ。

もちろん場所取りの必要などもないので、他のお客様に比べてのんびりとしていた。

といっても近付いてくるパレード開始の時刻に、園内は全体的にソワソワしはじめていて。

いくら優先的に入れてもらえるとはいえ、そこに辿り着くまでに混雑に巻き込まれては元も子もないだろうと、私はパイを購入だけして、先に特別観賞エリアに移動することにした。



すると、ワゴンの前で並んでいたあたりから、妙な視線を感じるようになったのである。










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