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閉園間際の恋人たち  作者: 有世けい
おとぎ話の住人にはなれない
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医師の診立てでは、骨には異常がなさそだった。

だが念の為、レントゲンを撮る為に近くの総合病院への搬送を提案されてしまった。

だが本当にもう痛みは感じなくなっていて、医務室に着いた際は普通に立って歩けるようになっていたのだ。

それに、今日はこの後、大和の大好きなファンディーに会いにいく約束もあるし、夕食には大和の誕生日祝いでキャラクターがショーをしてくれるレストランの予約もしてあるのだから。


そうと告げると、スーツ姿の上層部の方々…いわゆるお偉いさん(・・・・・)方と医師が顔を見合わせた。

医務室内には彼らの他にも、すっかり大和に懐かれてしまった騎士のダンサーがいて、彼は長椅子に座る大和の相手をしてくれている。

その大和も医師の診察を受けたが、どこにも怪我はなかった。


「そうか、大和君は今日がお誕生日なんだね。おめでとう。何歳になるのかな?」

「6歳だよ。お兄さんは?何歳?」


大和が自分の誕生日の話よりも相手のことを尋ねるなんて、よほど彼を気に入ったらしい。


「29歳だよ」

「お兄さんはさっきフラッフィーと一緒にいたけど、なかよしなの?」

「そうだよ。ファンダックの仲間だからね」

「じゃあ、ファンディーは?ファンディーともなかよし?」


大和の目がよりいっそう輝くのがわかった。


「そうだね、仲良しだよ」


そうと聞いた大和の好奇心はもう止まらない。

ほぼ一方的にファンディーに関する質問を投げかけはじめた。

彼は微塵も面倒そうにはせず、小さなインタビュアーに誠実に応対していく。

私は、お偉いさん方々との話し合いに加わりながらも、大和の様子も気になってしまい、話と話の僅かな隙間にくるりと振り向いた。


「大和、お兄さんにあまりたくさん質問しちゃだめよ。お兄さんだって、もしかしたら答えちゃだめなこともあるかもしれないでしょう?優しくしてもらったお兄さんを困らせちゃだめよ」

「はーい。お兄さん、ごめんなさい」

「いいんだよ。あの、その辺は、僕は大丈夫ですよ?」


彼は私にも柔らかい笑顔をくれた。

確かにこのルックスでは、観客のあの熱狂ぶりも納得できるかもしれない。

彼を特に意識していない私でさえ、うっかり見惚れてしまいそうになるほどの、とても整った容姿なのだから。

今は騎士の格好だけど、間近で見た彼は、女の子が幼い頃に一度は夢見るであろう絵本の中の王子様のようだった。

そんな彼に目と目を合わされた私は、いい歳してドキリとしてしまう。

だがそれは、大和の「あっ!!」という叫び声にかき消されたのである。



「琴ちゃん!ファンディーに会いにいく約束は何時なの?」


医務室にいる全員が、大和に顔を向ける。

大和にとってはこれが何よりも重要なのだからしょうがない。

私は壁に掛かっていた時計を見上げ、


「あと15分後くらいかな」

「間に合うの?だいじょうぶなの?」

「うーん……」


返事に詰まりながらお偉いさん方に視線を流すと、彼らはようやく、折れる道筋を探す気になってくれたようだった。


やがて迅速な話し合いの結果、ここの医師と責任者の名刺を渡され、少しでも具合が悪くなれば連絡をと念押され、病院への搬送はどうにか回避できたのだった。

ただ、事故は事故として届け出る必要があるので、もしかしたら今後警察も介入して事情を尋ねることがあるかもしれないとは説明された。

私はそれに了承し、連絡先を提示した。



これで一件落着ではあるが、15分後に迫っていたファンディーとの約束は間に合いそうにないとのことで、全施設において優先的に案内されるフリーパスもいただいた。

これは一年間何度も利用可能らしく、今日が無理でも後日いらしてくださいと、一年間通える入場チケットもあわせていただいた。

あまりもの厚遇に恐縮してしまい、辞退を申し出てみたけれど、それは受け入れてもらえなかった。

一年間何度でもファンディーに会えると聞いた大和は大喜びのあまり飛び跳ねていて、さすがにそれを取り上げるのも気が引けて。

申し訳なく思いながらも、私は施設側の申し出をありがたく頂戴したのだった。


そして年間チケットに必要な氏名や住所等の記入を済ませ、医務室を後にする。

お偉いさんの方々とは医務室を出たところで別れ、スーツの女性スタッフが園内までエスコートしてくれるとのことだったが、騎士のダンサーも通用口まで見送ってくれた。


「じゃあね、大和君」


彼は大和に笑顔で手を振ってから、私には深く深く頭を下げてきた。


「繰り返しになりますが、このたびは申し訳ありませんでした。今後はこのような事が起こらないように努めてまいりますので、どうぞまたお越しくださいませ」

「あ……、もちろんです。もちろんまた来ます。それより、私達のせいであなたにも迷惑をおかけしてしまって、こちらこそ申し訳ありませんでした」


私が怪我をして大和が泣き出したせいで、彼はパレードを途中退場せざるを得なかったのだから。

ところが、これに答えてくれたのは女性スタッフだった。


「それは気になさらないでください。彼の人気は園内一でして、実はパレードやショーに熱心な彼のファンが集まることは報告があがっていたんです。それにしっかりした対処が為されなかったことが今日の一因にありますので。それにもかかわらず、こうして秋山様のお心を騒がせてしまい、誠に申し訳ございません。今日のことを踏まえて、今後のショーの構成も改善してまいります」

「そうですか……。あの、でも彼がペナルティーを受けることはありませんよね?」


余計なお世話かもしれないが、心配になってしまう。

すると女性スタッフは「もちろんです」とにっこり微笑んだ。










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