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閉園間際の恋人たち  作者: 有世けい
隠しきれなかった隠し事
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ごめんね………

それが何に対してのものなのか、そのときの私は特に深く考えていなかった。

未婚のまま子供を産んで育てることで、私にも心配や迷惑をたくさんかけるから、だから、ごめん………それ以外の意味を探しようがなかったからだ。



そのあと理恵は有言実行した。

誰にも妊娠のことを告げずに退職し、大和を出産した。

頑なに父親には知らせないという姿勢の理恵に、担当医師は何度も「出産は命がけになる場合もあるから考え直してはどうか」と諭したけれど、理恵の意志は揺れなかった。

幸い、出産後も母子ともに健康で、医師の懸念は杞憂に終わったわけだが、それ以降は私も理恵の周囲の人も、大和の父親についての話題を持ち出すことは減っていった。

最後にその人物について理恵が口にしたのは、大和の名前の由来を教えてくれたときだった。


はじめての子育てをしながらの転職、想像を絶する忙しさの中にもかかわらず泣き言一つ言わないで大和を溺愛する理恵を見て、私が何とはなしに「そんなに大和君のお父さんのことが好きだったの?」と訊いたのだ。

すると理恵は曖昧に笑ってはっきりとは答えてくれなかったけれど、「まあ、大和の名前に一文字もらうほどにはね……」と滑らせたのである。

私は思いがけず手に入れた情報に、”もっと” を求めたものの、理恵は断固としてそれ以上を明かしてはくれなかった。

こうと決めたらなかなか覆らない親友の性格は、痛いほどに承知していた。

だからこのときも、大和の父親に関してさらに探ろうなんて考えは、ほぼほぼ芽生えなかったと言っていい。



だが理恵の死後、色々な手続きのために遺品整理を兼ねた理恵の身辺調査に取りかかった際、私はあるメールを見つけてしまうのだった。

それは、理恵の自宅にあったプライベート用のパソコンの中、未送信フォルダに保存されていた。







お元気ですか?

あなたと会わなくなってしばらく経ちますが、風邪などひかれてませんか?


突然こんなメールをしてしまって、ごめんなさい。

だけど、どうしてもあなたに伝えたいことがあったので、最後のメールを送らせてもらいました。

私はもう、あなたと会うことはないでしょうから…


でも誤解しないでもらいたいのは、私がこれまであなたに伝えた言葉に嘘はなかったということです。

短かったけれどあなたと過ごした時間は何物にも代え難く、どれも幸せな思い出ばかりで、今も私の日々を支えてくれています。


私は、本当にあなたが好きでした。


だけど、私には、あなたよりも大切な存在があります。

そしてあなたにも、私よりも大切にしたい存在があるのではないですか?

優しいあなたのことだから、私が傷付くと思って言い出しにくかったのでしょうけど、私はそこまで鈍感ではありません。

あなたの心がどこにあるのかなんて、すぐにわかってしまいました。

あなただって、本当はとっくに勘付いているのでしょう?


互いにその存在の大きさに気付いた今、私はもうあなたと会うべきではないと思いました。

幸い、今ならまだ間に合います。

これ以上の時間を重ねる前に、答えを出しましょう。

確かに私はあなたに会えなくなって傷付くかもしれないけど、どうせこのままあなたにしがみ付いてたとしても、あなたはいつかきっと、私から離れていくでしょうから…

それほどに、あなたの心は透けて見えてました。

だから、その時が訪れて、もっとたくさん傷付くより、今のうちにさよならを選びます。


あなたも、あなたの大切なものを、夢を、大切にしてください。

どうか、幸せに。



さようなら。

心からの感謝を込めて。







宛先のアドレスは、私がよく知ってるものだった。

私が何年にも渡り眺め続けていた、笹森さんのプライベート用の携帯のアドレスだったのだから。


  










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― 新着の感想 ―
[一言] 何と、最初のメールは理恵さんから笹森さんへのものだったのですね。 益々、これからの展開が気になりますね。
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