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閉園間際の恋人たち  作者: 有世けい
おとぎ話の世界で見つけた人 ー 蓮 side ー
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30歳までにブロードウェイの舞台に立てなかったら、ダンスからは足を洗い家の仕事を手伝うこと――――



それが、大学を卒業する時に両親と交わした約束だった。


俺の実家は国内ではわりと有名なアパレルメーカーを経営していて、取締役社長は父だ。

おかげで俺は子供の頃から裕福な暮らしをさせてもらい、小学校から大学まで系列の私学に通って、何不自由なく好きなことに没頭できる環境だった。

家の仕事は長男の兄が継ぐと思っていたから、次男の俺は気楽に暢気に将来の道を模索していった。

ずっとファッションが身近にある生活だったから、もちろんそっち方面にも興味はあったが、中学で出会ったダンスはさらにその上を行く存在だった。

大学でダンスサークルに入って活動している最中、いくつかの賞を取りスカウトを受けた俺は、職業としてはじめてダンサーという将来を意識した。

まずは手始めにアルバイトで小さなショーに出演し、舞台に立つということに心が震えた。

自分の道はここしかない。

そう決断するのは早かった。

だが、実際に進路を決める段階になってから、思いもよらない妨害が生じてしまったのである。


それまで父の跡を継いで経営に参加すると思っていた兄が、デザインの方に加わることになったのだ。

てっきり経営と両立するのかと思いきや、父はそれを拒み、兄もデザインに専念したいと言い出す始末。

そうなると自然と父の椅子が俺にまわってくるわけで、ダンサーになると決めていた俺の人生は足場を失ってしまう。


当然、親とは大揉めに揉めた。

それまでは俺のダンサーになるという夢には口出ししてなかったくせに、とたんに父も母もあれこれ言い出したりして。

まだ若かった俺は乱暴な言葉で親に食ってかかった。

ただ、不毛な言い争いはしばらく続くように思えたものの、両親にも急に方向転換してしまったという自覚はあったらしく、俺に譲歩案を提示してきたのだった。



父から出された譲歩案は、30歳までにダンサーとしてある一定の地位を確立していればその後も家の仕事を手伝う必要はないが、逆に30までに結果を出せなかった場合は実家に戻って後継者の勉強をはじめる、というものだった。

ともすると成人した子供の人生に口出ししてくる厄介な親にも思えるが、俺は常々、自身の恵まれた環境、さらにはそれを整えてくれていた両親には感謝していたので、心のどこかでは家を継げないことに申し訳なさも持っていたのだ。

それゆえ、一方的にも聞こえる父からの条件にも、異論を返すことはしなかった。

むしろ当時の俺はダンスに関してはかなりの自惚れがあったものだから、さすがに30歳までには何らかの結果を出しているに違いないと高をくくっていたのだ。


そして父親にお前が一番の目標に掲げている事は何かと問われたその当時俺は、舞台に立つ快感を覚えたてだったこともあり、舞台の最高峰でもあるブロードウェイを持ち出してしまったのだった。



言い訳するつもりはないが、実際のところ、その夢はまるきりの無謀というわけでもなかったのだ。

大学卒業した二年後にニューヨークにダンス留学し、ワークショップで知り合ったコリオグラファー(振付師)との縁で、オフ・ブロードウェイ作品のリハーサルに参加させてもらえたのである。

さらにはたまたま居合わせたエージェントのオーディションを受けさせてもらい、いい反応をもらえた。

だがエージェントと契約したからといってすぐに舞台に立てるわけではなく、そこからまたオーディションの連続だ。

だから、とにかくダンススキルを磨き、語学力も上げる必要があると判断した俺は、留学先のスクールを卒業後、改めてオーディションを受けることにした。

ビザの関係もあったし、留学先のスクールのレッスン内容が充実していたせいもある。

今から思えばこの時の俺は、とんとん拍子にいってるダンス生活に、調子に乗っていたのだろう。



スクール卒業後、以前ダンスの仕事でお世話になった人物の依頼を受ける為、一旦は帰国することになった。

エージェントが紹介してくれた弁護士とも相談の上、帰国するならちょうどビザの切替申請も済ませたらいい、その程度の短い日本滞在になるはずだった。


ところが、帰国中に受けた仕事がとあるプロデューサーの目に留まり、日本での仕事のオファーを受けたのだ。

それが、ファンダック内に新しくオープンするシアターのこけら落とし公演の主演だった。


まだエージェントと正式契約前だった俺は、その公演を務めあげてから渡米しても遅くないのではと考えた。

何だったら、ダンサーとしての実績に数えられるだろうという、下心的な感覚もあった。

弁護士も、俺のやりたいと思ったことをやったらいいと言ってくれて、その言葉に後押しもされて、俺はファンダックの演者、パフォーマーになる選択をしたのである。



かくして俺の初主演舞台は幕を上げたわけだが、その評判は俺自身や関係者が予想していた以上のものだった。

評判は評判を呼び、半年だった公演期間はロングランされ、俺への評価も著しく、みるみると上昇していった。

ほぼ無名に近かったダンサーが、全国ネットの情報番組で取り上げられるほどにはランクアップしたのである。

だがこれは、俺にとっては嬉しい驚きであると同時に、厄介な足枷にもなってしまった。


ファンダック側としては、観客数を見込める俺との正規雇用を求めてきた。

それは言うまでもなく、期間を定めない雇用契約だ。

すでに当初の予定を大幅に延長していた俺としては悩みに悩んだが、固定ファンも大勢いて、その中には親戚の小さな子供達もいたりして、俺の後ろ髪を引っ張る要素は数えきれないほどだったのだ。











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