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結婚パーティーは、新郎新婦の友人が経営するレストランで、人前式の形で執り行われた。
ニューヨークという場所柄もあって、私は蓮君と時生君以外は知り合いがいなかったけれど、アットホームな雰囲気のパーティーはとても楽しかった。
それは大和も同じだったようで、頑張って勉強中の英語でしきりに周りの人に話しかけたりしていた。
明莉さんは言うまでもなく、とても綺麗だった。
大切な人と結婚できて幸せでしょうがない、そんな感情が溢れかえっていて、そばにいる私達までもが幸福感に包み込まれるようだった。
明莉さんがニューヨーク留学に旅立ってからは一度も会う機会がなかったけれど、ダンスと真摯に向き合い頑張っていることは蓮君から時折聞いていた。
二人は同じ街に暮らしている友人として、たまに食事をしたりしていたのだ。
そういう時は決まって蓮君、明莉さんの両方から ”今日食事をする” という旨のメッセージを送られていたので、私も変に誤解したりはしなかった。
それに私だって、日本で笹森さんや和倉さんと食事することもあるし、場合によっては和倉さんのお部屋に伺うこともあったのだから。
だけど時々、思ってしまう。
今、もし蓮君が日本にいたら、きっと一緒に笹森さんや和倉さんと会っていたんだろうな………
今、もし私がニューヨークにいたら、きっと一緒に明莉さんと会っていたんだろうな………
日本――ニューヨークの距離を、やたらと遠くに感じてしまう瞬間だった。
ワ――――ッ!!
ひと際大きな騒ぎが聞こえて、私はハッと我に返った。
ちょうど蓮君と時生君、それに明莉さんが揃って扉から入場してきたところで、大音量の音楽が流れはじめる。
みんな席から立ち上がり、思い思いに手を叩いたり口笛を鳴らしたりしていて、私の隣では大和がぴょんぴょん飛び跳ねていた。
やがて、三人はぴったり息の合ったパフォーマンスを披露して、途中からは明莉さんのお相手の新郎も参加し、日本人、アメリカ人、国籍、人種関係なく、みんなが楽しげで、幸せそうで、まるでミュージカルのワンシーンのような光景が広がっていった。
私も久しぶりに見る蓮君のパフォーマンスに、胸が締め付けられるくらいかっこいいと思った。
それだけでなく、彼のことが本当に好きだと、何度も何度も再実感していた。
ああ、この人が私の恋人なんだと、すごく誇らしかった。
3人プラス特別参加1人のプロ級のダンスは大歓声の中終了し、そのあとは、花嫁によるブーケトスがアナウンスされた。
蓮君と時生君は一旦控室にさがるようで、私は大和と食事の続きに戻った。
次の花嫁を占うというブーケトス、一応私も独身なので、興味がないわけではなかったけれど、大和を一人にしてまで参加したいとは思っていなかったのだ。
ところが、女性男性に関わらず独身の方は前にどうぞ、と司会者が日本語と英語で告げた直後、明莉さんがすすすっと私達のテーブルまでやって来て、こそっと私に耳打ちしたのである。
「琴子さんは、参加させないでほしいって」
「え?」
「蓮が今日ダンスを披露する代わりに出してきた交換条件ですよ」
「……どういう意味?」
「蓮は琴子さんにブーケを受け取ってほしくないみたい。でも自分がそんな交換条件出したのは絶対に琴子さんには言うなって。琴子さんに知られたら都合悪いことでもあるんでしょうかね」
「私には、都合悪い………?」
「でもまあ、私は琴子さんの味方なので、こうやって秘密をばらしちゃいましたけど」
明莉さんは含み笑いで言いたいことだけを言うと、「それじゃ、食事を楽しんでくださいね。大和君も」と、大和に手を振り、ブーケトスの準備で賑わう輪の中に戻っていった。
蓮君が、私にブーケトスに参加してほしくない………?
「ねえ琴ちゃん、”ブーケトス” ってなに?」
「ああ……、花嫁さんの持ってるブーケを投げて、受け取った人が次の花嫁さんになれるっていう占いみたいなものよ」
「そうなの?じゃあなんで琴ちゃんは前に行かないの?琴ちゃんはブーケもらわなくていいの?」
「………そうだね………、私は、次の花嫁さんにはなれないみたいだね………」
大和に向かって笑ってはみたものの、どうしても胸がピシリと軋んでしまうのだった。




