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「でもそういう訳だから、琴子ちゃんと大和君も、このお店のことは誰にも言わないでくれるかな?もしファンの人達がここに来たら大変だからね」
「もちろんです。大和も、内緒にできる?幼稚園のお友達にも、今日みたいに話しちゃだめなんだよ?」
「ないしょ……、うん、わかった」
心なしか神妙な面持ちになった大和は、こくりと首を動かした。
けれどパッと閃いたように顔を上げる。
「ねえ、じゃあファンディーは?ファンディーの写真はないの?あのお兄さんは来るのに、ファンディーはこのお店には来ないの?」
無邪気に首を傾げてくる大和に、私と和倉さんは顔を見合わせた。
一応、あの時一緒に写真を撮ってくれた彼はダンサーというお仕事で、役として騎士の姿になっていた…というのは理解しているようだけど、大和の中ではファンディーは別格だったらしい。
……いや、もちろん、園の子供達の中には、ファンディーやフラッフィーといったキャラクターが実際に生きている、という感覚もあるわけで、大和の、ファンディーもこのお店に来るのかという質問も不思議はない。むしろ自然だろう。
けれど、例のダンサーの彼のことしか頭になかった私と和倉さんは、当意即妙にはその質問に応じられなかったのだ。
「そうね……、今ここにはファンディーの写真がないようだから、ファンディーは来たことがないのかもしれないわね」
「どうして?」
「それは私もわからないわ」
いい加減な返事を重ねるわけにもいかず、正直にわからないと答えると、大和はくるっと和倉さんに顔をまわした。
「わくらさんはあのお兄さんを知ってるから、ファンディーのことも知ってる?」
「あー…、そうだな…、ファンディーのことは……」
和倉さんは言葉を濁しながら視線を巡らせると、壁の写真に目を止めた。
「…僕は知らないけど、このお兄さんなら知ってるかもしれないな。ファンディーとも仲良しだと思うから」
言うまでもなく、和倉さんが指し示したのは騎士役だったあのダンサーである。
すると大和はいろんな意味で満面の笑顔になった。
「え?!このお兄さんは、ファンディーと仲良しなの?すごいや!」
「そうだよ?だからもし今度このお兄さんと会えたら、ファンディーがこのお店に来るかどうか訊いてみるといいよ」
「うん!そうする!」
大和は上機嫌になるが、私はその大和の後ろ側から、こそっと和倉さんに耳打ちした。
「いいんですか?この子、本気にしてそのダンサーさんに本当に訊きにいくかもしれませんよ?」
子供のまっすぐさは天下無敵なところがあるのだから。
だが和倉さんは気軽な感じで「大丈夫大丈夫」と受け流す。
「あいつはプロだから、もしいつか園内で大和君と偶然会って訊かれても、きちんとした返事を用意できるはずだ。それに、この後でちゃんと俺から今日のことをあいつに連絡しておくし。前以て小さな子供からそういうことを訊かれるかもしれないとわかっていれば、ベストな答えも準備できるだろう?」
「そう、ですか……?」
自信たっぷりに説く和倉さんには申し訳ないけれど、私はほんの少しの不安を残したまま、大和のお誕生日祝いという名目の食事会はスタートしたのだった。
そして、私の不安は思わぬ形で的中してしまうのである。




