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横居との関係

「伊達さん…」

玄関ドアを開けて中に入るなり、横居が後ろから抱きついてきて、耳たぶに唇をつけてきた。


「寝室まで待てねえのか、お前は」

敏雄は自分にまとわりついてくる横居の体を、肘で小突いて払いのけた。

「実を言うとねえ、店入ったときから、ずっと勃ってたんです」

払いのけられたことに気を悪くするわけでもなく、横居は早急な動きで靴を脱いだ。

それに続いて、敏雄も靴を脱ぐ。


「ベッド、行きましょうか」

横居が肩に手を置き、敏雄の体を抱き寄せて、そのまま唇を重ねようとしてきた。

「先に風呂に入りてえんだけど…」

敏雄はお互いの顔と顔の間に手をかざして、横居からのそれを妨げた。


たらふく酒を飲んだからか、相当に暖房が効いた居酒屋に長時間いたからか、冬場だというのに汗をかいたし、そのせいで体がベタついて気持ち悪い。

さすがに、こんな不衛生な状態のまま事に及ぶのは抵抗があった。


「オレは風呂入らないで欲しいんです」

横居は敏雄の貧相な肩に鼻を(うず)めると、すうーっと思い切り息を吸って、臭いをかいだ。

「臭うだろ」

「それがいいんじゃないですか」

顔を上げた横居が、楽しげに薄ら笑いを浮かべた。

「変態ヤローが!」

その様子を薄気味悪く思った敏雄は、悪態をついた。


付き合いはそこそこに長いが、こんな中年男の体臭に興奮する性癖しかり、バカみたいに苦い飲み物を平気で飲む味覚しかり、敏雄はこの男が理解できないでいた。



横居は現在32歳。

記者として働き出してから、もう10年になる。

敏雄が横居と初めて寝たのは、今から7年前のことだ。

そのときは酒の勢いを借りての、成り行き任せであった。


7年前の冬ごろ、居酒屋で2人して酒を飲み、泥酔したままホテルに向かって、そのまま関係を持ち、今に至る。


これだけ聞けば、よくある話だし、他人が聞けばあまりにもバカげた成り行きだったであろう。


しかし、お互い決まった相手もいなかったし、かといって「溜まるものは溜まるから」ということで、この関係はずっと続けられていた。




今回は結局、横居の若い勢いに負けて、風呂に入らずに寝室に向かった。


「んっ…」

寝室に入ると、すぐさまベッドに押し倒されて、唇を塞がれた。

唇はつけられたままで、横居が体中を(まさぐ)ってくる。

そうしているうち、着ているシャツを捲られて、指先で胸を撫でられた。

横居は、ここを(いじ)るのが大好きで、これを繰り返されているうち、少し触れられるだけでしっかり反応するようになった。


このことを本人に言ったところ、それはもう嬉しそうに「開発成功ですね」なとどニヤけてきて、大層気持ち悪かったことを覚えている。


今度は母親の乳房にすがりつく乳飲み子みたいに、あちこちに唇をつけはじめた。

「んんっ……」

「あー…これ、さいこー」

横居が犬のようにクンクン臭いを嗅ぎ始めた。

「ん、あっ…はあっ…お前は犬か!」

敏雄が喘ぎ混じりのため息を漏らす。

そんな敏雄の言葉など完全に無視して、横居は敏雄の胸や腹を、一心不乱に舐め回した。


──マジでしつけの悪い犬そのものだな


こうなってくると、横居は歯止めが効かない。

これでは何を言っても無駄だろうと感じた敏雄はすっかり諦めてしまって、好きにさせることにした。 


いつものことだ。

横居は基本的に自分本位に動くから、彼との情事は少しの快感も伴わないばかりか、多少の苦痛も伴う。

しかし、これを拒むのも面倒だ。

ここで機嫌を損ねて、仕事にまで支障をきたすのは得策ではない。

だから、嫌々ながらも受け入れる。


──さっさと終わらせろ、バーカ!


内心悪態をつきながら、敏雄は横居が満足するのを待った。

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