世界大会王者:天沢薫爆誕
「決まった〜〜!!優勝者は天沢薫ゥゥ!!」
試合終了の合図がけたたましく鳴った。
今俺がいるのはアメリカの大都市ニューヨーク。相当な頭脳戦に高度な運動能力が必要なVRMMOの世界大会の真っ最中だ。
まずこのVRMMOについて説明しよう。舞台は現代チックな雰囲気流れる異界の境地。主に剣や魔法が主流のRPG系MMOである。
そして1番の特徴は何と言っても現実の身体能力がそのままヘッドギアを通して仮想世界へと反映されることだ。
どれだけゲームをやり込もうと、現実での鍛錬こそが強者への近道となっている特殊なゲームである。
「それでは優勝者へインタビューをしたいと思います!!」
そして俺はこのVRMMOで今、対人レート戦世界一位となった。
同接プレイ人口約100万人の中、俺こそがその頂点に立っているのだ。
「日頃の練習の結果が発揮出来て良かったですね〜」
「なるほど。では、このVRMMOをプレイする点において最も苦労したことは何ですか?」
「・・・そうですねぇ。やはり筋力増強でしょうか。自分はヒョロヒョロだったので筋肉が本当に付きませんでしたよ」
その後も勝者へのインタビューが続いた。
そんな時だった。
「おい!!!MMOのサーバーシステムが暴走し始めたぞ!!」
このMMOゲーム作成会社の1人が大きな声で言い放った。だが、暴走やらそんなものはメンテナンスでどうにかなるだろう。ともかく俺の勝者インタビューを遮ってんじゃねぇ。
「何があった?」
「いえ、、、その、まだ全容を把握出来ていないのですが、今行われてる世界大会の観戦をゲーム内でも容認していたところ、多くのプレイヤーが集まりサーバーがクラッシュしたようです!このままでは、、、、多くの設定がバグり、ログアウト等が機能しません!!」
「な、何!?ログアウトが出来ないなど聞いたことがないぞ!となると……『現実世界に戻ることが出来ない』といくことになるな…」
「はい。それにMMO内設定、痛覚設定などの機能が暴走しており、、、この状況が続くと…」
俺はなんとなく事情を察した。おそらく一番の危険要因は…
「向こうは無法地帯だ。犯罪やら殺人が起きまくったら大変だな」
このMMOはリアルな現実を追求している。何より痛覚や味覚、五感が存在することが一番の特徴のゲームといっていいだろう。
ゆえにだ。ゆえに今ゲームにログインしている人たち100万人はゲーム内での人間的活動を余儀なくされる。
この今生きている現実からは遠く乖離、隔離されるのだ。
「とにかく、私たち開発者は少し対策を話し合ってくるよ。君たち出場者は少し待っていてくれないか」
制作会社の男は汗をかきながらも戻っていった。
「全く…こんなことになるとな…」
「ええ、全くね。」
背後から女の声が聞こえた。
「『プレイヤーネーム:サテラ』か。さっきはいい試合だったな」
女は唇を噛み締めこちらを見ている。よほど負けたのが悔しかったのだろうか、亜麻色のショートヘアーが小さく揺れ、若干涙目だ。しかし、ジャパニーズの制服を着込んでるところを見るとこいつも俺と同じ日本人なのか。
世界的有名ゲームで世界一位と二位が同じ国出身だとは。世間は狭いと言うやつだ。
「今年こそ私が貴方を倒して一位の座を奪取するつもりだったのに………でもいいわ、ここまでコテンパンにされるといっそ清々しいものね。ちなみにだけどあんた、不正行為なんてしてないでしょうね?」
「な訳ねぇだろ。俺は結果こそ大事だと思うが同時に過程も重視するタイプだ。それにこのゲームのチート対策昨日はお前が1番よく知っているはずだ」
「あらそう。それもそうね…とにかく、あそこまで私の攻撃を完全に読み切るなんて…」
サテラの目線が更に鋭くなる。やめて下さいそんな目で見られると新たな性癖に目覚めちゃいます。
「まぁ、とにかく勝ちは勝ちだ。単に俺の方がお前より優れていただけよ」
「……まぁいいけど。来年こそ、来年こそは絶対に負けないわ」
こちらに握手を求めてきたので素直に返してやった。なんというか俺自身が大学生なこともあり新鮮な体験だった。
そのまま駄弁っていると、件の男がこちらへとやってきた。
「……君達に折りいって相談がある。とても大事なことだ。」
男の目は真剣そのものだった。
「君達にMMO内で””治安維持””をして欲しいんだ。」
男はそう言って、少し気まずそうに目を背ける。それもそうだ、こいつが今言っていることはつまり。
「………私たち対人レート世界一位と世界二位にログアウト出来ない世界に飛んでその場を統治しろってことね?」
馬鹿げてるわ、と彼女は付け足す。
「……そうだ。だが我々がサービスを完全復旧するまでどれくらいかかるか正直分からない。下手すれば数年かかるかもしれないほどの大きなバグだ。それに今世界中でMMOにログインしている者は、現実世界ではいわゆる植物状態だ。意識が向こうに存在するためリアルワールドで誰かが面倒を見なければ生きていけないのだ。」
男は長台詞を言い切って、俺たちに膝を付き頭を垂れた。
「どうか!!頼む!!君たちのような未来ある若い子に頼むのは本当に申し訳ないと思う!!だが!!””最強である君達””にしか出来ないことなんだッッ!!!」
額を床に当てただひたすらに懇願している。もはや大人としての尊厳などないような形相で。
「お前はどうする?」
俺はサテラに問う。
「……正直嫌ね。戻れない仮想世界に飛び込むなんて自殺みたいなものだもの。」
「だよなぁ〜……でも、俺は別にいいかな、なんて思ってる」
「……あんた正気なの!?帰って来れないのよ!?親ゆ友人にも会えないし、それにシステム暴走なら敵のレベルがチートレベルになってるかもしれないのよ!?」
「だからだよ、サテラ。俺はこの世界に正直未練は、ねぇんだわ。さっき世界一位の称号も獲った。だから俺はそのさらなる先へ進もうと思う」
流石にサテラは驚嘆の色を隠せないようだった。ゲーム会社の男も俺が即断するとは思っていなかったらしく、同様の反応だ。
「あんた、そこまで、、、」
「おっさん、改めて言おう。」
俺は大会配信の時使っていたマイクを司会から奪い取り、配信カメラの前で大きく宣言した。
「俺はッッ!、世界一位、称号魔王:プレイヤーネーム:ザックは!!今からMMO内の王となる!!MMO内のやつら!!安心しろ!たとえゲームの中でも!!快適な生活をさせると保証するぜ!!」
俺の少々(大分)痛い宣言は配信を通して世界中、あまつさえゲームの中へも配信された。
多分ネットニュースは俺の名前で埋め尽くされることだろう。うわ一躍有名人じゃん俺。
「あんた、、、ちょっと待ちなさいよ、、、」
サテラが小さく呟く。
「ん?」
「わた…も……く」
「なんて?」
「あー!もう!私も行くって言ってるの!」
吹っ切れたような声音で声を荒げる。いや、涙目になるくらいなら別に無理しなくても良いと思うんだが…
「強制はしないが……まぁきてくれると嬉しいな、正直1人じゃ心細かったんだよな」
「勘違いしないで。私はあんたを倒すために付いていくだけだから」
いや、それなら来なくてもい…
「いや、それなら来なくてもい………なんでもないです」
ふう、危ない危ない。片目を失うところだった。
そんなこんなで俺たち最強世界ランカーの異世界統治紀が始まろうとしていた。
魔法に剣。今までの常識が360°変わった世界でどう彼らはどう生き抜くのか。
ここにその全てを記そう。彼らの冒険記を。