膝の上で寝ている幼なじみの寝言がうるさい
「……ん、ん」
某有名RPGのBGMが流れる部屋の中にひとつの寝言が響き渡る。
その発声主は俺の膝の上で寝ている幼なじみ、林凛だ。
凛とは家が隣同士で昔から一緒におり、その上ゲームやアニメなど趣味も合うことから学校や今まさに
しているように学校終わりの放課後に一緒に遊ぶのが日常となるぐらいには一緒にいる。
そんな凛だが、実は最近大変困ったことがあるのだ。
それはと言うと、
「……け、いた……んー」
凛には寝ている時に抱きつき癖があるのだ。
凛の見た目は学校で一番とまではいかないもののかなり上位に入るのだろう。
整った顔立ちに、肩より少し長めに揃えられたサラサラな黒髪、発育良くすらっとした体。
前に学校の男子だけで学年の可愛い子ランキングなるものがあったのだが(俺は投票していない)、それにおいて凛は上から片手で数えられるぐらいの順位にはいたはずだ。
そんな凛に寝ている時に抱きつかれるというのは男としてはかなりやばいということなのはわかるだろう。
それに凛はどことは言わないがそこそこ大きい方なのだ。
そんなのが当たっているのは1男として色々と思うことがある。
とはいえ俺たちは小さい頃から一緒にいる幼なじみ、あの頃と比べ凛は比べ物にならないぐらいに可愛くなったが、小さい頃何回か一緒に寝たことがあるためこの癖のことは知っていた。
一緒にお風呂に入ったこともある程の仲だ。
これぐらいならまぁ何とかギリ大丈夫なのだ。
しかし本当にやばいのはこれからだ。
「……えへへ……大好き」
そうこれだ。
凛は俺に抱きつきながらその上でこういう感じの寝言を言ってくるのだ。
これにはさすがの俺でも否応なしに凛のことを意識せざるを得ないだろう。
こんなことが始まったのは約1週間前のあるゲームが発売されたのが原因だ。
そのゲームというのは超大人気ゲーム''クリーチャーハンターV"略してクリハンVというゲームだ。
このゲームはシリーズ物で今までに何作かシリーズ物を出しているのだが今回でたクリハンVは最高傑作との呼び声が高く、現に凛が徹夜をするぐらいにハマってしまったのだ。
そのせいで俺の部屋に来ては俺の膝の上で寝落ちしてしまうということが続いているのだ。
だったらそもそもなんで凛を膝の上で寝かせているんだということになるかもしれないが、凛は昔から俺に膝枕をされながらゲームするということが当たり前で前に辞めるように言ったところ「ここは私の特等席なの!」と訳の分からない言い訳をされて以降、俺の部屋に来ては俺の膝の上でゲームをすることが日課になっていたのだ。
とはいえこの状態がずっと続くというのもかなりしんどいものである。
凛のことは今までどちらかと言うと男友達のように思っていた。
だからこの状態は凛のことを女の子だと意識するには十分のことで、最近凛と喋る時にまっすぐ目を見れないことがよくある。
このままじゃ色々まずいので起きたらなんか言ってやろう。
そう心に決め、その間俺は心を無にしてゲームに集中していた。
「……んん、圭太?」
「やっと起きたか」
あれから約2時間後、やっと起きた凛はふわぁと大きな欠伸とともに起き上がった。
「なぁ、凛。お前膝の上で寝るのはいいとして寝相と寝言をどうにかできないか?」
「……寝言?私どんな寝言言ってた?」
抱きつき癖と寝言に対しての文句を言うと、凛からまさか1番聞かれたくないことを聞かれてしまった。
このまま正直に言うなんてことは俺のためにも凛のためにも言いたくはない。
どう答えるべきか……
「えぇと、クリハンVのこととか?」
「それだけ?ならよかった。本当は違う夢見てたからどんなこと言ってたのか気になって」
「そうか……」
その夢ってのは……、いや考えるのはやめよう。
「ってもうこんな時間!私もう帰るね」
そう言って荷物を持って部屋を出ていってしまう。
窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。
一時はどうなることかと思ったが何とか騙せて良かった。
流石にあんなこと凛には言えないしな。
でも結局凛に注意はできなかった。
まぁそれはまた明日にでもいえばいいか。
それより
「凛はもしかして……俺の事、好きなのか?」
「なんで?」
この部屋にあるはずのない声が響く。
「なんで私が圭太のこと……その……好き、だと思うの?」
声のする方に顔を向けるとそこにはさっき帰ったはずの凛が驚いた顔をして立っていた。
「、なんで?……帰ったはずじゃ」
「いや、スマホ忘れちゃって」
当たりを見渡すとゲームのキャラクターのケースをしている凛のスマホがベッドの上にあった。
俺は周りが見えなくなるほど凛のことを考えていたようだ。
「ねぇ、なんで?」
再び凛の質問が繰り返される。
今度こそ絶体絶命である。
この場を乗り切る手段が思いつかず、うーんと悩んでいると、
「やっぱり、寝言って圭太の事だった?」
と、何かを悟ったような凛が言う。
これはもうどうしようもない。
「うん」
「そっか」
そう諦めたように凛は言う。
「出来ればねこんな時に言いたくなんてなかった。もっとここだって場所でここだって言う時に言いたかったんだけど……もう遅いよね。そうだよ。私、圭太が好きなの」
二人の間に沈黙が流れる。
凛とはずっと一緒でまるで兄妹のように思っていたし、それは凛もだと思い込んでいた。
だからもしかしたら俺の勘違いだとか、実は違う人と勘違いしていたなんて自分に言い聞かせて凛の気持ちと向き合うことから逃げていたのだ。
しかしそれもここまで、凛の告白によって俺は凛の気持ちと否が応でも向き合わなければならない。
正直に言うなら今まで凛とそういう関係になるということを考えなかった訳では無い。
しかし今の関係の心地良さに満足して……いや違う、今の関係がなくなってしまうことが怖くて俺は凛に対する気持ちを無自覚のうちに無意識の中に置いていたのだろう。
しかし今はそれを取り出すときである。
今まで凛とのことを思い出す、これからの凛との事を思い描く。
そうすれば俺の答えは1つだった
「俺も好きだ、凛」
そうして今も尚ドアの前で立っている凛の元に行き抱きしめる。
最初はびっくりしてあたふたしていた凛もすぐに抱き締め返してくる。
こうして俺と凛は付き合うこととなった……のだが正直凛の寝言がきっかけで凛から告白なんて男としてどうかとも思う。
できることならきっかけも告白も偶然ではなく自分の意志によって決めたかった。
しかしそれはもうできない。
だから凛とのこれからのことはこんな偶然ではなく自分の意思で自分から行動していきたいと思う。