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恋に浮き沈みはつきもの(物理)  作者: 人妻なのにギャルゲー作家志望
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1章ー1 学年1の美少女のケース



恋愛には浮き沈みがつきもの。

だとしてもあんまりじゃないか。

俺は地べたに叩きつけられながら、美少女の前にひれ伏している。

「えっと…なにやってるの。」

そんなの俺が聞きたいぐらいだ。

頼むからそんなゴミを見るような目で見ないでくれ。

まぁ確かにいきなり学校の廊下で自分の目の前でベタンと大の男が地面に[沈んだら]驚くに決まってるだろう。


何度となくこの危機を俺を救ったセリフを美少女に言った。

「…えっと、転んでしまいまして。」


読者が置いてきぼりになる前に自己紹介といこう。

俺の名前は上石はかる。ジョウイシではない、ウエイシと読む。

ちょっと聞き慣れない名前以外は、ある一点を除いて何の変哲もない男子高校生である。


俺は奇病を患っている。

人間誰しも気分が落ち込んだり沈むと多かれ少なかれ体調に影響する。

それは頭痛だったり胃痛だったり様々だが、俺の場合それが体全体に及ぼされる。

早い話、気分が沈むと体が沈む。

物理かよ。なんで物理的になっちゃうんだよ、俺の体おかしいだろ。

というやり取りはもう病院と家で1万回やったのでスキップしてほしい。

もうそういうもんだとしか言いようがない。

しかしも沈むばっかりじゃない。浮くこともできるおまけ付き。これは正直ちょっと楽しい。楽しいこと考えてる時に実際にちょっと浮くのは周りの目がなければ地面から浮いちゃうなんて俺超能力なんじゃねって気分になるね。

-そう、周りの目がなければ。


俺の奇病は残念ながら条件つきなのだ。

それは[恋]に関して浮き沈みがあった時のみ発動する。

つまり、確実に周りの目…しか俺好みの可愛い子の目の前で先程のように地面に沈まされたり、いきなり浮いたりするのだ。

目の前でそんなイリュージョンが起きたら戸惑う気持ちもわからんでもない。なるべくなら俺もそんな醜態を晒したくはないのだが、いかんせん女子に対して免疫がない。

そこ、童貞とか言わない。否定はしないがな、否定は。

なので、残念ながら恋というか可愛い女の子全体が発動条件になってしまうのだ。

はぁ、なにそれ本当ありえない、きもーい。と俺の中の女子高生が言いそうになるがグッと抑えてほしい。なにしろ自分ではどうしようもないのだ。だいたい、きもーいは余計だろ、俺の中の女子高生(仮)!




「ねぇ、上石くん。大丈夫?」

美少女はあろうことか髪をかき揚げながら沈む俺に目線を合わせようとしゃがんでくれた。

優しい!可愛い!女神!

だけどやめてくれ。せっかく脳内説明により平常に戻しかけた沈みの重力から…あっ、ほら浮いてきちゃってる。

いやこれはうまくバランスをとって立ち上がるんだ、俺。

がんばれ、俺。がんばれ俺のバランス感覚ならぬ浮き沈み感覚っ


「だっ大丈夫。ちょっと転んだだけだから。」

「本当?怪我してない?」

小首を傾げるな!かわいいだろ。

必死に浮きそうになるのを両足に力を込め重心を下に意識する。

唸れ、俺の筋肉。負けるな奇病。


「無理してない?一緒に保健室行こうか?」

ここに美少女からのお誘い攻撃

しかし窓枠の淵に手をかけることで回避。

「心配してくれてありがとうな。本当大丈夫だから」

「そう?ならいいけど。」

くるりとスカートを翻して美少女は去っていった。


…助かった。思わず息を吐く。

上へ上へと向かっていた体の周りが落ち着き俺は足の力をようやく抜いた。

それと同時に冷静になった頭が問いかける。

助かったってなんだよ。人の親切も素直に受け取れない。可愛い女の子と保健室へGOの恋愛イベントもできない。

不甲斐なさにまた気持ちが落ち込みそうになるのを必死で食い止め、去っていった背中を見守る。


美少女、美少女と呼んでいたが名前を知らないわけではない。

同じクラスで学年一の美少女ー鈴白てまり、彼女はまさに絵に描いたような美少女で丸く大きな目、艶やかな長い黒髪、胸は大きくはないが手に収まりそうな美乳、黒いストッキングに覆われていてもなお分かる健康的な足…ってなんだか後半フェチっぽくなってきたな。なんにしても美少女オブ美少女なのだ。

そんでもって性格よし、勉学もよし、運動神経もよし、部活には所属してないが助っ人に引っ張りだこで人徳もよし。

ここまで完璧だと人間なのか疑わしくなってくるが俺の厄介体質の方がファンタジーなので、まぁそういうもんなのだろう。


そうこうしてるうちに予鈴が鳴った。

教室に戻ったらこっちのもんだ。

幸いエロい胸元が開いた巨乳の教師なんてのはこの学校にはいない。まぁこの学校にはいないだけだが、その話は追々。

余り席なので右隣は窓、左手隣は空席なので危険なし。

授業は特に美少女鈴白との接触もなく問題なく進む。

浮いたり沈んだり周りの重力に引っ張られず座れるという安心感最高。

などと共感者0人のことを思いながら、形だけでもノートを取る。

間違っても右隣の窓を見てはいけない。

なぜならもしかするとおっぱいを揺らしながら走る他学年の生徒がいるかもしれないからだっ!

妄想もよくない。俺はシャーペンを強く握りながら、習った単語を繰り返した。

墾田永年私財法、墾田永年私財法、墾田永年私財法。

…リズムカル!

そうこうしているうちに授業は終わった。


放課後のチャイムがなる。

終わったぁと伸びをするもの、これから部活に行く人、長い授業から解放され、教室が賑やかになる。

その中ですっと教室を抜ける鈴川の姿を見送った。

鈴川には悪いが、これで下駄箱で鉢合わせしてまたイベントとはならないのでありがたいが、毎度毎度教室を出る早さは目を見張るものがある。

なにをそんなに急いでるのか気になるが、まぁ俺には関係ない。自分の安心と安全が1番。会わないに越したことはない。



正直、こんな体質になってしまっては何をするにも億劫になりそうと思われるがノープログレム。俺にも癒しが存在する。

それは人々を魅了してやまない実に愛らしい存在!

しかしも対人ではないので浮かない保障つき。

古来から気ままで自由な象徴として可愛がられてきた

ーその名もずはり、猫である。

犬派か猫派で言えば断然猫派の俺は近頃ある1匹の猫様にメロメロなのである。


人に合わないルートを探していたところ裏山に大層可愛い白黒の猫様を発見し、その日から俺は放課後裏山を通って帰宅しているというわけだ。

少し面倒な道であるゆえ人も少ないので、体質や人目を気にしなくていい。

まさに心のオアシス。

あぁ、猫様。今会いに行きます。


ーなどと、言って時間を遅らせて教室を出たのに。

見事にフラグ回収。


「上石くん、どうして…」

それはまんまこっちのセリフなんだが。

驚く鈴白の頭には猫耳。これだけでも充分びっくり案件なのだが、後ろには空飛ぶ骸骨。

先に言っておくが、ここは理科室でした。みたいなオチではない。なんの変哲もない裏山だ。

骸骨だ。二頭身ぐらいの骸骨が浮いてる。例えるなら幼女アニメで主人公達をみちびくちびキャラ。CM中にぬいぐるみになって喋って抱きしめてね、みたいなサイズ感。ただし相手は骸骨なんだが。

まさかこの骸骨、喋るのか。

まじまじと空飛ぶ骸骨を観察してたら居心地が悪くなったのか目をそらされた。

言っておいてなんだが、骸骨が居心地が悪いってなんだよ。骨と目と小さな羽だけの無機質なくせに一丁前に目を逸らしやがって。


「はぁ〜だから、お家帰ってからにしようって言ったじゃろ。」

まさかの萌え声!じいさん口調!

やはり喋るのかという気持ちより先に意外と声かわいいな。

まさかの幼女ボイスとは、見た目もっとおどろおどろしい感じのイメージなのだが、ポジションはちびキャラ枠らしい。

「だって今日調べた方がいいと思って…」

学校では鈴白の慌てる姿も猫耳姿も見れないから新鮮だな。というか何故に猫耳。

俺の疑問に答える気などないように鈴白の上でぴょこぴょこと耳が動く。


「まったく爪が甘いのぉ。仕方ない消すか。」

…ん?今可愛らしいお声でなにやら物騒なことを言われましたか、この骸骨さん。

思わず心の声も敬語になりかけたが、ぐっと飲み込み鈴白の方を見る。

鈴白てまりは骸骨を見た後こちらを見た。

まるい大きな瞳に視線がぶつかる。

何故だか知らないが昼間とは違う瞳に感じた。なんだかもっと綺麗で尊く感じたのだ。

美しい黒曜石のような瞳がこちらを見て、俺のために揺らいでいる。

こんな場面でもなければ心身共に羽の生えたように浮いて喜んだだろうが、ナニを消すかは知らないが生存権か記憶の有無か…なんだかわからないが彼女に委ねられてると思うと、とてもじゃないが喜ぶ気にはなれそうにない。

パチリと見つめ合ってどのくらい経ったか分からない。ピンと張り詰めた空気はどちらかか分からない吐息によって崩壊した。

「…そうね。」

学年一の美少女は決心したようだ。

どう決心したか分からないが、直感がこう告げている。

ー逃げろ、と。

俺は彼女が次の言葉のため息すった瞬間、脱兎の如く走りだした。

唸れ、俺の筋肉。負けるな人生。


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