喫茶店午後のヒトトキ,朝から営業中です
ホットコーヒーは、何も入れずに楽しみたい派です
皆さんはどうですか?
個人経営のカフェを巡るのは楽しいですよね
部屋に湿った空気が流れ込んで来る。
動かしている手を止め、空気の重みを感じる。
開店準備で忙しいはずだが、季節の変わり目を肌で感じることなんて、齡31歳だがはじめてのことだった。
窓から入ってくる風が酷く不快な心地にさせる。
「......まさか、ですね。自分が変わり目を体感することになってしまうとは」
外はまだ暗く、時間で言えば4時をまわったことだろうか。
本来なら、もうしばらく日の出にはならないはずではあるが、季節が変わったということは日の出が早まるのだろう。
そう考えた俺は、今日の開店準備の内容を変更させる。
ゆったりと進んでいた時間は、慌ただしく朝に向け動いて行く。
汗ばんで来た身体は、やはり不快だと感じさせられた。
□□□□□
「いらっしゃい」
’カランカラン’という音と共に店のドアが開く。
彼は今日もやって来たらしい、時間がないのに毎日寄ってくれる子だ。
「おっちゃん! いつものちょうだい!」
「はいはい、それより先に手を拭いてね」
彼に布巾をわたす。いつも以上に彼は汗をかいていた。
急いで来てくれているからだろう。
「うん、ありがと!......じゃなくて、夏が来たんだよ!夏が!」
「気づいているよ、夏は暑いよねぇ」
「そうじゃなくて、いやそうなんだけどさあ~、というか変わり目なのに落ち着きすぎじゃない?もう少しあたふたしてもいいと思うけど......」
「まぁ、こう何十年も経験してるとね。変わり目じたい一年に4回もあるんだし」
「そんなものかぁ~。確かに父さんも母さんも、驚きはしてもすぐいつも通りだもんな~」
「そうなっちゃうんだよね」
「あっ、でもお父さんもお母さんもすごくバタバタしてたよ!毎回大変そうだけど今回は特に」
「今回は例年よりも大分早かったからね、お父さんたちも大変だったと思うよ」
「ふーん、そうなんだ」
まだまだ子供なのか、変わり目にここまで反応できることは羨ましいと思う。
このようなみずみずしい心、成長と共に失ってしまうんだとまじまじと感じさせられる。
彼から布巾をもらう。いつも通り、メニューをわたす。
何を頼むかはだいたい分かているが、変わり目と言うことでメニューの変化に気づくかもしれない。
「おっちゃんいつものね!」
結局のところメニューに目さえ通されなかった。
苦笑いをしながらも、手つき自体は手馴れたもので、一瞬の迷いもなく作業は進んでいく。
「でもさぁ〜、やっぱり落ち着いてるよねぇー」
「お店だからね」
「そんなものか……」
「そんなものだよ」
誤魔化すかのようなってしまうのだが、朝早くの時間帯でもゆっくりと仕事ができるのは、昨夜に変わり目を感じたおかげというか、せいというかである。
最も、朝まで夏仕様にするために四苦八苦していだが……。
「はい、どうぞ。相変わらずミロが好きなんだね。」
「まってました! おっ、冷たくなってる。やったー」
暑いのでサービスである。
夏になって熱々のミロはやめた方がいいだろう。
彼がニコニコしている光景が目のはしに映りつつ、店の開店準備を再開する。
店を閉めている状態でも臆すことなく入ってくることも、いつの間にか日常となり、この店の風物詩になっている。
その影響もあってかこの店の開店時間が早まっていることはいい誤算である。
「おっちゃん!美味しかったよ~。また来るね」
「いってらっしゃい。道路には気を付けてね、あと学校遅れないように。おくれたら」
「分かってるって。行ってきます!」
’カランカラン’と鈴の音がなり、元気にかけていく。
いつも通り学校が終わると、また遊びに来るのだろう。
黙々と作業をし、準備が終わる。
入り口の札を「OPEN」に変え、店を開く。
もうすでに1人目のお客さんは来てしまっているが、変わり目初日の店開きである。
喫茶店「午後のヒトトキ」、開店だ。
’カランカラン’と戸の鈴の音が聞こえてきた。
□□□□□
’カランカラン’と鈴の音がする。
「いらっしゃい」
小麦色をした体格のいい男が来店する。
「おう、マスター、相変わらず早いねー。'変わり目'初日にこの開店時間とは、予知でもしてたんじゃないかと思っちまうぜ」
朝から元気の有り余ってる客しかこないのか、店内に笑い声が響き渡る。
彼は、冗談だよと楽しそうにこぼすと、コーヒーを注文する。
常連客が多いということは嬉しい限りではあるが、昨夜の頑張りを見てもらいたい。
予知ではなくただの頑張りだ。
「タカさんの方も、初日だって言うのに早い来店ですね。今日はもうしばらくはお客さんは来ないと考えていたんですけど」
「開いてて良かったよ、仕事まで時間あるからな。」
「変わり目の準備はいいんですか?仕事大変でしょう」
「だからだよ、早めにいったら仕事増えちまう。めんどいのは周りに任せるに限るね。サービスなんてやってられんよ」
「まったくあなたは」
豆を挽きつつ談笑する。
「そういえばこの前、面白いネタをいくつか仕入れたんだよ」
ふと、思い出したようにつぶやく。
作業をしている手が止まる。
「それは興味深いですね。どんなものを手にいれたんですか、タカさん」
「いやな、第43星雲のミラフール系にあるコロニー分かるか?」
「はい、4つほどありますよね。ランコ星付近にある」
「そうそれだ。そのうちのランコ星第3コロニーの話だ」
コーヒーを作りつつ概要を聞く。
「なるほど、そんなことになってたんですね。第2コロニーでの話は少しばかり聞いていたのですが、第3コロニーの方は......。さすがに驚きです」
「いやぁ、やっぱり知らないだろうなとは思っても、
本当に知らないと嬉しいものがあるな」
「いえいえ、タカさんからはいつも面白いネタを聞けるので、ありがたいです」
「よせよ、ここから色々細かく調べてくれるんだろ?残りの話はこれだ」
概要というだけあってコンパクトにまとめられた紙の束が差し出される。パラパラと軽く目を通すが、それだけで主だった話の流れは理解できる。
「おおう、ありがとうございます。流石というべきか、ジャーナリストなだけあって分かりやすいし読みやすいですね。でもいいんですか?胸の内に秘めていた方が......」
「いいんだよ、お前の話は面白いし、お前が調べた情報がある方が後々な」
「そうですか、ではありがたくいただきます」
タカさんにお礼を言い、コーヒーと軽い軽食をだす。
「こんなん頼んでないぞ?」
「面白い話を聞けたので、サービスです」
「ならありがたくもらうわ。まぁ、サービスというならあっちを期待していたんだがな」
タカさんはニヤニヤしながらこちらをみる。
この店には他の喫茶店にはない、ひとつの大きな特徴がある。
「では、お耳汚しに最近仕入れた話をひとつ」
この店には人数は多く入らない作りになっており、お客さんは多くても1度に2,3組しか入らないようになっている。
それでも、しっかりと利益は得られる様、常に質の高いものをご提供出来るように心掛けている。
しかし、最大の特徴は、おそらくこれになるのだと思う。
「お前の話が耳汚しなら、俺はもう誰の話も聞けないな」
マスターの一人語り。
「先ほどコロニーの話があったので同じ宇宙の話で、この間ニュースになったロンダ星間ステーションでの事件のお話をいたしょう。ニュースでは語られていなかった一人の少年の物語です」
読んでいただきありがとうです。