3.色のない世界
いつものように、灰色がかった空の下、ぼくは学校へ通う。
灰色の空に向かってそびえ立つ鉄塔の校舎が、見えてくる。
もうすぐ、この地上の校舎とはお別れだ。
ぼくは今、小等部の六年目。あの校舎のいちばん高い教室にはじめて入ってから、六年が経つんだ……あのときぼくは、見わたすばかりの灰色の世界に何を思っていただろう。何も思わなかったかもしれない。ぼくはまだおじいちゃんや、おじいちゃんの本と出会っていなかったし、とてもぼんやりと世界をながめていた気がするんだ。
仮面のように表情のない守衛の立つ校門をくぐり、かたいコンクリに細かな砂のまばらにしかれたグランドを通りぬけ、げた箱に傷んだくつを入れる。
六年目の教室は鉄塔校舎の一階。あと半年もすれば、この鉄塔の下に広がる地下寮に入る。そして中等部・高等部の六年間は、地上に出てこれないことになる。成績次第では、一生出られないことだってあるという。
もうすぐその地下寮へ入る。その日が近づいてきているという実感がいよいよ増してきて、急に勉強に身を入れだす友達も多い。
一限目の算数の時間、教室はしんとしている。
ぼくはもともと、勉強はきらいじゃなかった。けど最近はいつも、授業中ぼんやりしてしまう。計算、コンピュータ、化学式、この国の決まりや成り立ち……色のない学問。ぼくらは、この国の外のこと、ぼくら以外にもっとたくさんの生きものがいたってこと、それに何よりぼくら自身について、何も教わらない。おじいちゃんの何冊かの本で学んだこと以外にも、もっとぼくの知らないことがあるはずなんだ。こんなことは、口にできないことだけど。
ときどき、窓の外をながめる。やっぱり灰色の空。たまに見えるのは、いやあらしい黒い鳥の影。
そうしているといつの間にか昼休みが来て、カケラと屋上へのぼる。
灰色の空。それでも、ぼくはここへ来る。
寒い世界が、ほんの少しだけ、あたたくなっている。
今は、最後の夏休みの前だ。