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ファンタジーを現実に  作者: 王国民
アロガン王国編
62/207

奴隷制度

 本日2話目です。

 突然だがこの国には奴隷制度がある。このアロガン王国に到着した時に調べた通りだ。

 ナタリアの働いている喫茶店で、コーヒーを飲みながら道を眺めていたら、魔術が掛けられた人がいたので、調べると奴隷だった。


 前に住んでいたルーキス王国では奴隷制度はなかったし、この国の港町ラウトの周辺を治めている、コリンソン辺境伯の領地では見なかったから実際に見て驚いた。


 現代人としては眉をひそめたくなる制度だけど、必要な制度だと理解できるし、制度としても整っている。

 だから特に何かするつもりもない。そう思っていたけれど、目の前で見るとやっぱりむかつく。


「その娘たちの借金はオレが払う。身柄を引き渡してくれ」


 なかなか大きな屋敷の前で、女の子2人と男の子が泣いていた。

 家具やら金目の物やらを運び出され、女の子2人が連れて行かれそうだったので、つい口を出してしまう。

 弟らしき男の子が、必死に姉を守ろうとしていた姿も、口出しした理由だろう。


 ある意味セーフティーネットだと理解はしているんだが、やっぱり年下の女の子が泣きながら連れて行かれる姿を見るとな。


「なんだ? 小僧はお呼びじゃないぞ。子供に払える額じゃない。この2人は足りない分を奴隷として働いて返すんだ」


 屋敷とかを売って、足りない分のカタに連れて行かれるのか。

 屋敷ごと買い取っても仕方ないしな。2人の分だけでもオレが払うか。


「足りない分はオレが払うから、2人を奴隷にするのはやめて欲しい」


 冒険者証を見せながら交渉する。

 借金取りも女の子たちも、驚いて声が出ないようだ。


「……これは驚いたな。お前さんを敵に回すのは得策じゃなさそうだ。足りない分は1億3000万リラだが、払えるのか? いくら高ランク冒険者でも、おいそれと払えないだろう?」


 あぶく銭があってよかったな。余裕で払える額だ。


「そのくらい、この場で払える。奴隷にするのはやめてくれるな?」


「そりゃ、払えるってんなら、お前さんを敵に回してまで連れて行ったりしないって……だから睨まないでくれ」


 話の解る奴で助かった。最悪決闘を申し込んで2人を賭けようかと思ってた。

 受けないだろうけど、オレの本気度は判るはずだから、高ランク冒険者の力を知ってる人間なら考えるはずだ。



 3人の身柄を引き取り、ナタリアが働く喫茶店に連れて行く。

 好きな物を注文させて、3人が落ち着くのを待ってから話を聞く。


「落ち着いたようだし、まずは自己紹介をしようか。オレは想太。君たちは?」


 姉のほうは不安そうだが、妹のほうは怖い奴がいなくなって、安心している。姉妹で正反対の性格だな。

 弟は姉が連れて行かれなくなって気が抜けたのか、まだボーッとしている。


「あたしはシャーロットだよ! 12歳。お兄さん、助けてくれてありがとうございます!」


 妹のほうが口の周りをアイスクリームで汚したまま、元気に挨拶する。

 腰までの栗毛をツーサイドアップにしている。

 可愛らしいだけじゃなく、どことなく気品も感じる女の子だ。

 大きな目がオレを興味津々に見つめている。ちょっと小悪魔チックな目だ。


 そんな妹の口を拭く姉は、少し気弱そうな目でオレを見ながら、自己紹介をした。


「私はリーゼロッテです。15歳です。危ないところを助けて頂いて、ありがとうございました」


 屋敷は取られたけどな。

 どのみち、この娘たちには維持するのは無理だろうけど。


「僕はアレックスです。姉さんたちを助けてくださってありがとうございました」


 10歳前後に見えるけど、しっかりしてるな。跡取りだからかな。


「それでこれからのことだけど、この店で働いてみるか? この店の店主にはちょっと貸しがあるんだ。従業員を探してるそうだし、オレが頼んでみよう。他にやりたい仕事があるなら手を貸す。途中で放り出すのは無責任だからな」


 迷宮から出てきて、毎日この店に通っているうちに、ウェイトレスをしつこくナンパする集団を懲らしめた。

 それ以来、オレが毎日いるんで、誰もナンパできなくなった。

 女性店主だからか、ナンパ男の対処に悩んでいたから凄くよろこんで、オレはタダで飲める。


「ウェイトレスだとお兄さんに借金は返せないよ?」


「あれは借金じゃない。あげたんだ」


 あぶく銭だしな。家庭があるわけでもなし、使い切っても問題ない。

 貯め込んだところで、いずれ日本に帰るオレには関係ない。


「そんなことをして頂く理由がありません。借金はきちんとお返します。救って頂いたご恩もお返ししないと……」


 姉は真面目な性格らしい。

 妹のほうは楽しそうに笑っている。


「そうだよお姉ちゃん! お返しは絶対にしないと! ソータ様のお世話をするんだよ!」


 それで楽しそうに笑ってたのか。


「本音は?」


「くっついてたら安心だもん。働いて借金も返せるから一石二鳥だよ!」


 あんなことがあったから不安なんだな。元気に見えても。

 両親のことは聞く必要はないか。明らかに両親いないもんな。

 たぶん両親が死んでしまって、家が没落したとかだろう。


「オレは旅をするから、1つの所に(とど)まったりしないぞ?」


 この国にいるのは、情報収集が終わるまでの1~2ヵ月くらいだ。

 情報屋の調査しだいだけど、それくらいは捜して貰うつもりだ。

 10人雇えたから、今回は短い時間で終わる可能性もある。


「この国も1~2ヵ月しかいない。すぐに別の国に行くけど、いいのか?」


 確認すると、真っ先に答えたのはシャーロットだった。


「お姉ちゃん、付いて行こう! もうこの国じゃ暮らせないよ。あたしたち貧乏になったんだから」


 金持ちだった人間が貧乏になったら、知り合いには会いたくないだろうな。


「……そうよね。お金がなくなったんだから、またしつこく結婚を申し込まれるかも」


 なんでも、金持ちのボンボンから求愛されていたらしい。全部断ったらしいが、家が没落して力がなくなったから、また来るだろうな。

 今度は金を使った卑劣な方法でくる可能性だってある。


 男は金がなくなって家が没落したら、結婚相手としては考えないとダメだろうけど、女の子に金がなくても、金持ちの男からすれば手に入れるチャンスでしかない。

 妹や弟の学費を払ってやる、みたいな感じでアプローチしてくるかもしれん。


「僕も学校で貴族の子弟に嫌がらせをされるようになったので、もう通いたくありません」


 家の力がなくなるってのは、権力者や他の金持ちの餌食になるってことかもな。

 一般家庭が貧乏になったとしても、大抵の人は気にしない。

 でも、貴族や金持ちならいろんな人間がチャンスとばかりに拠ってくる。


「それなら洗濯とかの仕事を頼もう。旅をしてると面倒なんだよ」


「やった! お姉ちゃん、受けてね。この街で肩身の狭い思いをして生きたくないから!」


 妹は前向きなのか後ろ向きなのか判らんな。


「本当にいいんですか? 足手まといになると思いますけど」


「いいぞ。妹と弟の面倒を見ながら働くのは大変だろうしな。助けたからには幸せになって貰わないと」


 オレとしても洗濯しなくていいし。所帯染みたことをするのは、冒険者らしくない。


「やったぁ! よろしくお願いしま~す」


「こら、失礼です。ちゃんとして」


「ごめんなさい」


 なんにしてもレオ以外の旅の仲間ができたし、雑用は任せられるから、オレは戦いに専念できる。


 とりあえず今後のことを話して、必要な物を買いに行く。

 屋敷は差し押さえられたし、衣類なんかもお金になりそうな物は差し押さえだそうだ。


 さすがに下着まではお金にはならないので差し押さえられないが。

 わざわざ借金取りが、パンツを買う奴を捜すはずもないからな。


 この世界には――少なくともオレが見てきた国では下着を買う店はなかった。

 中古の服はあっても、中古のパンツを売ってる店はなかったしな。


 屋敷で下着を回収してから、宿に帰って追加の部屋を取る。

 今日はいろいろなことがあったから、話は明日にして休むことにした。

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