悪霊の鎮まる時
本日2話目です。
レオと一緒に幽霊船に飛び乗って、まずは手下から斬っていく。
レイスやゴーストのような実体のない魔物相手でも、神剣なので関係なく斬れる。
ちなみに同じような魔物のリッチは、ゾンビの一種だから物理攻撃が通用する。
知性があって魔術を使うゾンビという感じらしい。
レイスは肉体を失っているので、物理攻撃は通用しない。魔術か聖なる武器しか効かない。
「魔剣か! 気を付けるのだ! 魔剣なら我らを斬れるぞ!」
神剣なんだけど、わざわざ教える理由はない。
2人で配下のゴーストを斬り続けていると、レイスが魔術を乱射し始めた。
やけになったのか恐怖に駆られたのかは知らないが、船が燃えたら困る。
腰のコートの留め金を外して、魔術を全て打ち消していく。その間はレオがゴーストを倒していた。
「くそっ! くそっ! なぜだ!? なぜ魔術が消える!」
「このコートだって神器なんだからな。それくらいできる!」
「ふざけたことを! 貴様は女神の勇者か!」
勇者になった覚えはないが、女神に呼ばれたのは確かだろう。
ゴーストを全て倒す前に、レイスのMPが尽きたらしい。
念のためステータスチェッカーで見ると、やっぱり1桁になっていた。
「さてと……残るはお前だけだ。とりあえず街の人に謝りに行って、今後は海が不自然に荒れることはないと安心させるんだ」
実際に海はもう荒れていない。MPが切れたからだろう。
何日かに1度収まるのは、こいつがMPを回復させてたんだろう。
「なぜ殺さない? 街の人間にわざわざ言う理由はなんだ?」
「事件の首謀者を見せて、今後は起きないことを信じさせないと、安心して船を出す人はいないに決まってる。オレは隣の大陸に行きたいんだ」
だから説明役というか証拠が必要だ。
レイスに幽霊船を街まで移動させるように命じると、MPがないので無理と言われた。
仕方がないので回復するまで待ち、幽霊船を出航させた。
「回復したからって妙なまねをすれば、即座に斬り捨てるからな」
神剣を背中に突き付けて告げる。
「我とて愚かではない。勝ち目がないのは理解している」
さすがに生前の記憶と知性のあるゴーストだ。そこまでバカじゃないか。
レオと交代で見張りながら街に着くと、穏やかになった海を見に来ていた街の人たちが悲鳴を上げた。
港に入る頃には、知り合いの騎士と警備兵たちも来ていた。
オレは事情の説明をレイスに命じた。家族を失った人から石を投げられるが、レイスをすり抜けてオレに当たりそうになったせいで、警備隊に逮捕された。
避けたから厳重注意くらいで済ませてくれるように頼んでおく。
無罪にすることもできるが、考えなしの行動をすると死罪だってあり得る。罰を与えて反省させたほうが本人のためだ。
他の権力者だったら、不可抗力でも許してはくれないかもしれないんだから。
「そういったわけで海を荒らして人間を殺していたが、この男に退治されてしまった。部下にしたゴーストたちも昇天した。今後は自然現象以外で荒れることはない。もっとも、我のような者が現れたら別だが」
説明が終わったので用はなくなった。
オレは躊躇なく神剣で貫いた。
「があぁぁぁ! こ、殺さないのではなかったのか?」
「そんな約束はしてないぞ? オレは説明のために連れて行くと言っただけだ」
生かしておくのは無責任ってもんだろ。
最後まで面倒を見られないなら、外来種は飼うべきではない。
責任を放棄して捨ててしまったら、在来種を死なせてしまうのと一緒だ。
こいつを殺すチャンスがありながら見逃すなら、こいつが死ぬまで見張らなければ無責任だと思う。
盗賊だって仕方なしに逃げられるならともかくとして、倒すチャンスがありながら見逃すのは、自分さえ助かれば他の人間が犠牲になっても構わないと言ってるのと同じだ。
チンピラのような小さな悪だって見逃せば、迷惑を被る人は出てくる。
関わったのなら最後まで始末を付けるのが責任ってもんだ。
例え捕らえた盗賊が死刑になるにしても、情報収集理由以外で殺さないのは、嫌な殺しを押し付けるのと一緒だ。
戦いの結果で殺すのと、捕まって無抵抗の盗賊を殺すのとはワケが違う。
オレはそういった人間を男とは認めない。ただの卑怯者だ。
詳しい事情の説明をすると、街の人にお礼を言われまくった。
それで1日が潰れたくらい、街の人はオレのいる宿に訪ねてきて、感謝していった。
おかげで、オレが隣の大陸に行くのに、タダで船に乗せて貰えることになった。
隣の大陸まで一月近く掛かる。
それまでの食費や水の代金、そして運賃なんかで、一等船室だと500万リラくらい掛かる。お金はあるけど、ありがたいことは確かだ。
出港の準備に4~5日掛かるらしいので、それまでは神器作りでもしていよう。
3姉妹のマッサージを受けながら、神器を作った。
「お父さんも商売が再開できるって喜んでます。暇を出した使用人も呼び戻せると思います」
嬉しくて仕方ないといった表情で、オレにマッサージをするアビー。いろんな情報が入るのはありがたい。
ロッティとブリジットちゃんは、オレの出したテレビゲームに夢中だ。
オレの背中にお尻を乗っけて、格闘ゲームで殴り合いをしている。
ブリジットちゃんは容赦なく、ロッティをボコボコにできる腕前になった。
「あたしお兄さんのお嫁さんになる! ずっと楽しく暮らすんだ~」
「バカね。ソータ様と平民が一緒になれるわけがないでしょ?」
「そうだよ。ブリジットは子供だね~。そんな夢みたいなこと。お妾さんになれたらラッキーってくらいだよ」
姉2人は身分差があるのを理解しているために、ブリジットちゃんはを嗜めている。
「む~! レオちゃん、遊ぼ!」
ブリジットちゃんは拗ねてしまい、レオを連れて出て行ってしまった。
レオが付いてるから心配はいらないので、アビーたちにもレオの強さを伝える。
「レオちゃんってそんなに強いのですね」
「あんなに可愛いのにね! 澄ました顔してますけど、お姉ちゃんもメロメロなんですよ」
「ロッティ! 余計なことを言わないの! ソータ様にご迷惑でしょう!」
「あれ~。私はレオちゃんにメロメロって言ったんだけどな~」
完全にからかわれてるな。姉の威厳がない。
真っ赤になったアビーは、一心不乱にマッサージをする。足つぼはちょっと痛い。
そんなふうに過ごしているけど、オレものんびりしてるだけじゃない。
剣の修行は毎日してるし、戦術の本とかも読み始めた。
冒険者ギルドの仕事もしている。幽霊船の一件で、オレは有名になったので、冒険者証を見せなくても、ヘコヘコされるようになった。
むさ苦しいおっさんに囲まれてチヤホヤされても嬉しくない。
女性冒険者は少ないし、冒険者ギルドでは目立たないほうがよさそうだ。今後の方針にしようかな。
街の人にもチヤホヤされるので、どこへ行っても不快になることはない。
逆にいろいろ貰うので、悪くて出歩きにくいくらいだ。
沈静化させるために、オレは照れ屋だから過剰なお礼は嬉しくないと伝えたら、感心されてしまい、街の中央に銅像が建った。これは嫌がらせだろうか?
見に行ってみると、オレが腕を組んで威風堂々と立っていた。
子供たちが銅像の真似をして、下で同じように腕を組んでいた。
そんなこんなで出港の日。オレたちは街の人に見送られて乗船していった。
1番いい部屋を用意してくれたので、自分の部屋に行って荷物を置いてくる。
他の乗客が100人以上いるので時間が掛かって出港時間が少し遅れた。
港から手を振ってオレとレオの名前を呼ぶ民衆に、オレたちも手を振り返した。
巨大客船が帆を張り、風を受けて動き出す。港から離れていくこの船の向かう先は、隣の大陸にあるアロガン王国だ。




