メデューサの首
本日2話目です。
普通にすることを約束させて城に帰った。
その際、オレは買い物の時も金をちゃんと払うから、オレの名前を騙って商品を騙し取ろうとする人間に気を付けるように言っておいた。
城に帰ったら、今後の話をするために会議室に集まった。
オレがこの1番豪華なイスに座るのは、この人たちにしたら当然なんだろうな。
「いま思い出しても凄まじい御力でした。神々の御力は人間ごときには人智を超えていますな」
まずはイスに座れよ! なんで床に座るんだ!
「とにかくイスに座ってください。オレは人間ですから」
「おおっ! 私としたことが忘れておりました。そういった設定で人界にいらしていたんでしたな」
設定って言うな。むしろ神ってほうが設定だからな。
「人間として扱ってくれればいいので、今後の話をしましょう。オレはこの国の王族が気に入りましたから、力を貸します」
「なんとっ! まだ御力を貸して戴けるのでしょうか? もう十分な救いを戴いたというのに」
「とりあえず村を回って畑に活力を与えれば大丈夫ですか?」
みんな土下座のままだが、気にしないで話を進める。いろんな意味で早く終わらせたほうがいい。
「もちろんでございます。神の言葉に否などありません!」
だから人間扱いしてくれって。あんな力を見せたら無理か? 怒らせたらヤバい奴って思われてたら悲しいぞ。この様子を見るとないだろうが。
「先触れを出して無礼な態度は取らせないように命じておきますが、何分、民の中には敬語などを使えない者もおりますので、ご容赦願います」
「別にそのくらいで怒ったりはしませんよ。悪事ならともかく」
あまり甘い顔をし過ぎると、貴族派が調子に乗るかもしれないから、釘は刺しておく。
別に甘い顔をしているわけじゃなく、そんなんで怒らないのは当然だと思うけど、受け取る相手が貴族だしな。
話し合いのすえ、オレの出発は3日後になった。魔力がないと意味がないし、オレ用の馬車を用意するらしい。
先に兵士が村を回り、オレの指示に従うように伝えるそうだ。
オレは専用馬車に乗って、護衛の騎士と一緒に向かう。
アトラ王女が一緒に来るらしい。オレの世話をしてくれる。
穀倉地帯の小麦はすでに収穫が始まっているらしい。
収穫が終わる前に、収穫した端から配られるようだ。
220万人が半年間は食えるそうだし、足りなければオレがまた作ればいい。
生産が元に戻るか、十分な備蓄ができるまではこの国にいるかな。
女神のダンジョンでレベルアップすれば、もっとラクにできるようになる。
「ソータ様、国を救って戴いて、本当に感謝しています。私でよろしければ、なんなりと仰ってください。精いっぱい御世話させて戴きます」
アトラ王女が自分の部屋なのに土下座をしている。
オレは土下座をするのを禁じて、風呂の用意をして貰う。
MPを回復させておかないと。3日あるしダンジョン用の神器を作ろうかな。
出発の日くらいになると、王女もほんの少しだけ体形が変わってきた。
髪の毛も艶が戻ってきた。やっぱり王女は美しくないと残念だよな。
ある意味それは義務だ。国の代表として他国に行くこともあるだろうし、そこで髪の毛ボサボサ、服は安物だと国が嘗められるだろう。
王族はそれに相応しいところを、金を使ってででも見せないと。
オレも力を見せるなら信じて貰えるけど、ボロボロの見た目だったら、助けてやるって言っても取り合わないよな。
オレは見た目が大事だと思ってる。見た目には性格も出るだろうし。
見た目に無頓着な人間は、やっぱりだらしないと思ってしまうし、メンド臭がりだと思う。
挙動不審の人間が疑われるのは、仕方ないし必然だよな。
例え何もしてなくても、それは自分の責任だから文句は言えない。
このままみんな飢餓状態から抜けられたらいいな。
人間、腹が膨れてないとイライラするし、人間らしく生きるのに、食事は大事だ。オレも頑張って野菜や小麦を作ろう。
「お前は王都に残ってダンジョンの情報を集めておいてくれるか? 話せることはバレてもいい」
「一緒に行きたいけど、ダンジョンは大事にゃ。いっぱい集めておくにゃ!」
レオにダンジョンの情報を集めて貰うと、帰ったら直ぐにダンジョンに行けるしな。
王女と一緒に馬車に乗り出発する。
馬車の外から拝む声が延々と聞こえて、凄く不気味だ。
日本で言うところのお経みたいなものだし、電車とかで、ずっとナムナム聞こえていたら不快だよな。
「申し訳ありません。父様も兄様も不器用な人なので、神様として見てしまうのです。お言い付けは理解しているのですが……」
オレの顔を見て王女が謝る。
「本当に普通に応対してくれればいいから、伝えておいて欲しい」
「お任せくださいませ。私が2人を叱っておきますから」
お腹が空いてた頃は、王女の表情が優れなかったが、現在は表情に力があるな。
なんか少し迫力があるから、王と王子は酷い目に遭いそうな予感が。
しかし、この馬車まったく揺れないな。
少し浮遊感があるから、車体が浮いてるのかもしれない。
車輪の音は聞こえてるから、箱の部分だけ微妙に浮いてるんだろう。
「到着までどうなさいますか?」
「せっかくだし寝てる」
すぐに座席を倒してベッドにしてくれる。男としては、力仕事を女の子にされると、凄く恥を掻くんだが。
女の子でもたいした苦労ではないようだから、気にしなくていいんだろうけどさ。
「失礼いたします」
寝転がるオレの横にアトラ王女も寝る。
毎晩お尻を撫でているから、これが当たり前になってるけど、よく考えたら凄いよな。でも撫でるけど。
到着まで時間があるし、3時間くらいだが仮眠を取った。
柔らかいお尻の感触のおかげで、オレはぐっすり眠ることができた。
最初の村に到着すると、村人は疲れ果てたような表情で出迎えてくれた。
「お前たち! この方をどなただと――」
「ちょっと待ってください。空腹で力が出ないんですよ。先に食事を振る舞ってください」
村人の態度を注意しようとした騎士を止めて、食事をさせるように促す。
「出過ぎた真似を致しました。お許しください」
「オレのためを思ってですから……でも飢えて余裕のない人に過剰な礼儀を要求しても仕方がないんで、今後はやめてください」
「はっ! 御下命、部下にも徹底させます」
新しくオレが作った無限の食料庫を取り出して、兵士が食事を村人に配り始めた。
見たこともない食事を前に、村人は戸惑っていたが、いい匂いに堪らず食べ始めた。
無言で貪るように食べる姿は、本当に限界だったことをオレに実感させた。
収穫した小麦を人数分用意する兵士に、村長らしき人が対応している。
それにしても子供が少ないな。村の人口は500人くらいのようだが、子供は100人もいないみたいだ。
「子供が少ないようですが、どうしたんですか?」
食べ終わった村人に聞いてみる。
「餓死してしまったり、風邪で亡くなりました。ロクに食べる物がなかったので」
その言葉に悲しみを思い出したのか、母親らしき人たちが泣き出した。
「ごめん……なさい。不甲斐ない親で。もっといっぱい食べさせ……たかった」
嗚咽でつっかえながらも、亡くなった子供に謝罪を繰り返す。
本来ならダメかもしれないが、今回のは寿命や運命ではなく、魔神のせいで死んでるしな。
子供だけなら生き返らせてもいいかな。あまりにも可哀想だ。
「子供たちの遺体はどこですか?」
「えっ? 埋める気力もなかったので、腐らないように魔術で処理して1ヶ所に集めていますけど」
「とりあえず、この場に運んできてください」
なぜそんなことをするのかは聞かず、村人は子供の遺体を運んできた。
ガリガリに痩せて死んでいる。子供たちの遺体を見て、親や友だちが泣き出した。
「神器生成! メデューサの首!」
オレの手に目を閉じたメデューサの首が出現した。
蛇の髪を持つ女の首に村人が恐怖するが、オレは構わず右の血管から流れる血を右の瓶に、左の血管から流れる血を左の瓶に入れた。
十分な量が溜まったのでメデューサの首を消して、左の瓶に入れた血は捨てる。
そして右の瓶に入れた血を、子供たちの遺体に飲ませていった。
すると、子供たちがキョトンとした表情で起き上がり、キョロキョロと親を捜した。
「ぼく死んだはずじゃ?」
「お腹空いたよ~」
「苦しいのがなくなった! お風邪が治ったから畑仕事しないと」
突然生き返った子供たちに、王女も騎士もみんな驚いたが、親たちは子供に抱き付いて慟哭した。




