神話の力を目の当たりにした時
本日4話目です。
城内にいるオルコット伯爵の所に案内して貰い、さっそく相談する。
オレの神器の話をして、証明するために使ってみせた。
「凄い! 神器とはこれほどのことができるのか! これならば食料難を解消できる。ソータ君、これを貸して頂けるとは本当かね!?」
「まだ1つあるんで、2つとも貸し出します」
おにぎりだけのやつは村人にあげたけど、10種類しか出せないやつがあるから、多少は何かの足しになるだろう。
「それにしても、なぜ神器を持っているのかね。神器など女神様の残された封印の呪具くらいだよ?」
「そこは秘密ということで」
「……まあ、恩人に詮索しても意味はない。気にしないことにしよう。陛下にもそう申し上げる」
どのみち嵐を止めるつもりだしな。
風は凄いのに雨は降ってない。濡れないのはありがたいけど、どんな現象なんだろうな。
風か嵐の神の力で止めるつもりだけど、力が足りなければレベル上げをするか。
王に神器のことを話すと、大喜びでオレを迎えてくれた。
あまり食べていないのか、頬が痩けている。
王子と王女もあまり食べていないようだ。城にいて立派な服を着ていなければ、顔のいい貧しい人に見えるだろう。
国の名前はルーキス王国。
王はロドニー。王子はアムル。王女はアトラという名前らしい。
基本的に王妃は表に出ないと、オルコット伯爵に聞いている。
王子は次の王としての訓練の一環として、王女はいい結婚相手を捜すため、政治の場や表に出てくる。
王女も結婚すれば、お披露目をする必要はないから、表には出なくなるんだろう。
「此度の助力、誠に感謝する。神器など本来は秘匿すべき物。我々を信じて貸し与えてくれた恩、絶対に忘れぬ」
それはいいから、まずはメシを食ったほうがいいと思うよ。
なんかガリガリで心配になる。山で会ったら遭難者にしか見えん。
「お礼はいいですから、先に食事をしてくださいよ。王族がそんな状態では、誰も安心できません」
「うむ、それでは先に食事にさせて貰う」
使い方は教えてあるし、出せる食べ物も見せたから再現できるはずだ。
見た目さえ判っていれば、魔力を流すだけで食べ物は出るし。ボタン式にすればよかったかもな。
「……まさに天上の食物だ。空腹で食べてしまえば、今後、他の食事を楽しめぬな」
王子や王女も上品に食べているが、口に運ぶ手は速い。
今はガリガリに痩せていてアレだが、体重が元に戻れば美形だろう。
父親譲りの銀色の髪も、栄養不足のせいでボロボロだ。
「父上、さすがに限界でした。民にも餓死者は出ておりますし、もはや滅びるしかなかったでしょう。王都は人口が多すぎます」
「その通りだ。そして国の食料の4割を王都周辺で作っている。このままでは直轄地は全滅する」
「父様、神器は凄いですけど、使う人間には限界があります。どうしますか?」
食べ終えて落ち着いたようだ。
王族3人は、今後のことを話し合う。
「さすがに犠牲は大きいだろうな。なんとか神器の力で引き延ばし、その時間で食料を集めるしかないだろう。国中の余っている備蓄を可能な限り集めよう。貴族たちにも拠出させるしかないだろうな」
「そうすれば貴族派に借りを作ることになります。父上は奴らを増長させるおつもりですか?」
アムル王子が立ち上がり、テーブルを叩く。
貴族派に相当、思うところがありそうだ。よっぽど煮え湯を飲まされてるんだろう。
「落ち着きなさい。客人に失礼だぞ!」
「……申し訳ありません。ソータ殿もすまない」
首を振って気にしないように伝える。
「そのことなんですけど、オレに任せて貰えませんか? たぶんなんとかできるので」
「まことか! まだ神器を持っているのかね? だとしたら頼む。可能な限りの褒美を用意する。国を救って欲しい」
頭を下げると、王子や王女、騎士たちも頭を下げた。
「できるかは判りませんけど、なんとかやってみます」
あっさり信じてくれたのは、神器を見たからだろうな。
オレは城の1番高い場所に案内して貰い、MP回復ポーションを用意した。
「空想転化! エンリル!」
シュメール語で風の主という意味の名を持つ嵐の神だ。メソポタミア神話に出てくる。
映画でオリュンポス十二神が出るのを見てから、いろいろな神話に興味を持っていた。
詳細は忘れているけど、空想転化には忘れているほうが都合がいい。
「おおっ!!! なんと神々しい。光り輝いてソータ殿の姿が見えぬ」
王が驚いているけど、エンリルって姿が見えない神だから仕様なんだよ。
変身が完了したら、すぐに権能を行使する。
オレから放たれた眩い光が曇り空を晴らしていく。
暴風も少しずつ収まり、強風くらいになった時にMPが尽きそうになる。
MP回復ポーションを飲み、半分ほど回復したので、さらに力を込めて風を鎮めていった。
「凄い! 父上、神の御業です! 何ヵ月も続いた嵐が、ソータ様の御力で消えていく!」
王子が大興奮だ。
オレの呼び方も様付けになっている。
「うむ! これは神にしかできぬ! ソータ神は嵐の神だ!」
また神扱いか……いや、変な干渉を防ぐためには、神扱いされてるほうがいいか。気にしないようにしよう。
なんとかMPが切れる前に、嵐を完全に消し去ることができた。
変身が解けてオレの姿が見えるようになると、その場にいた王族と貴族、騎士や兵士に至るまで膝を突いた。
「神とは知らず失礼いたしました。何卒、神罰は私のみに、伏してお願い申し上げます」
いやいや、神罰とか変身しないとできないし、そもそもやらない。
「顔を上げてください。神の力は使ってますけど、オレは神じゃない」
神のふりをしようかと思ったが、余計に面倒になりそうだ。国で祀られても困る。
「解っております。正体をお隠しになっておられるのでしょう? そのように取り計らいましょう」
「その通りです、父上! お隠しになっているにも拘わらず、我ら憐れな人間をお救い下さるために、本来のお姿にお戻り下さった。ならばソータ神のお望み通りに、神ではないとするのが御恩返しでしょう」
ソータ神はやめて欲しい。オレに罰が当たったらどうする!
「お怒りをお鎮めください。父様と兄様の御無礼は私が御詫びいたします。どうぞ生け贄としてお受け取り下さい」
もうメチャクチャだな。
オレは邪神か何かか?
「オレは生け贄を要求したりはしないし、神罰も落とさないから心配しないでください」
「お、おぉぉぉ……嵐の神ではなく慈悲の神でしたか?!」
もう何でもいい。
村じゃ尻好きの神とか思われたりもしたしな。女の子のお尻は大好きだが。
「とにかく、明日にでも畑を復活させるんで、種を用意しておいてください」
「豊穣の御力まで持っているなんて……万能の神でしたか?」
「万能じゃないけどいろいろできます。あと神じゃないです」
「そうでしたな。申し訳ございません」
まだ勘違いをしているようだが、表面上は神扱いはやめてくれそうだ。
「ところで、ソータ様。あなた様の御力の源はなんでございましょう? できる物なら用意させていただきます。信仰心だと言われるなら、一晩中でも祈りましょうぞ!」
祈られてもMPは回復しないし。
「可愛い女の子のお尻を撫でると力が出ます」
これは事実だ。
リラックスすると回復が早くなる。
「……予想外ですが愛の神の神性もあるのですな? では美しい女たちを用意いたします」
別に普通に寝てるだけでも回復するが。
せっかくだし、お尻を撫でよう。
やたらと豪華な部屋に案内されたが、王女の部屋らしい。
今は備え付けてある風呂に入り、ガリガリの美少女たちに洗って貰っている。
体型を戻してからにして欲しかった。ガリガリでエロさより痛々しさが。
それでも美少女たちは、久々にお腹いっぱいになったのと、これから神器で出した食事ができると感謝してくれて、ガリガリだけどスベスベの肌で回復させてくれた。




