オルコット伯爵からの連絡
本日3話目です。
お茶会の日から、レイシアの友だちがよく来るようになった。
オレが何か面白い神器を出すのを期待してのことだろう。
仕方がないので、魔力充填式のテレビゲームを出してあげた。
す
娯楽がなくて退屈だと思っていたので、格闘ゲームとレースゲームとパズルゲームを作ってみた。
シナリオのあるゲームは、複雑すぎて空想できなかった。
ギリギリシューティングゲームはできた。ゾンビを撃つやつとか。短いシナリオだと大丈夫だった。
みんな夢中になってプレイしている。何日も泊まって遊んでいるので、オレは護衛をレオに任せてレベル上げに向かった。
1週間くらいの間、毎日のようにレベル上げに行ったので、少し上がった。
MPに劇的な変化はないので、神剣とかは作れていない。
遊び過ぎてレイシアが怒られたが、1日5時間は勉強することでゲームを許された。
シンシアちゃんは勉強するような歳ではないので、オレの膝に座ってゲームしていた。
姉が起こってお尻ペンペンされてからは、寝転がってゲームをした。お尻が痛いらしい。
そんなふうにダラダラ過ごしていたら、王都に向かったオルコット伯爵から手紙が届いたらしい。
領主代理のエイブラム君から呼ばれて、レイシアと連れ立って執務室へ行く。
「呼び立てして申し訳ない。父上からの手紙が来たので内容を伝えておこうと思いまして」
「オレが聞いてもいいんですか?」
「構わないです。ソータ殿にも関係がある話なので」
エイトン伯爵の処刑が決まったかな。
家族まで連座で処刑されるかもしれん。
「お父様のお仕事は終わったんですか?」
「いいや、まだだ。なんでも王都では嵐がまだ吹き続けているらしく、とても都市として機能しないらしい。復興に送った兵士からも聞いていたが、大げさでもなかったようだ。問題が山積みで、調べるどころではないらしい」
魔神のせいで異常気象って聞いたしな。それでも嵐が吹き続けるって凄いな。魔神の力だとしたら勝てるか判らんぞ。
これは本格的にレベル上げをしたほうがいいかもしれない。今のオレでは勝てる気がしないな。
冒険者ギルドで聞いた、女神が用意したという、試練の迷宮に行ったほうがいいかもな。
試練の迷宮は素材とかは手に入らないが、階層が下になるにつれて、魔物が強くなるらしい。
突破して行った者が、女神と一緒に魔神と戦ったらしい。
それで魔神を封印した女神は、神界に帰っていった。
封印が解けそうなのを察知すると、女神がやってきて魔神を弱らせて再封印したらしい。
でも狡猾な魔神が女神を欺いた。
ずっと弱ったまま封印されていると見せ掛けて、密かに力を蓄えていたそうだ。
そして封印されたまま全ての力を使い、女神の干渉を防ぐ結界を張った。
それ以降は女神の降臨はなく、そろそろ魔神も力を回復させて、復活を画策している。
封印を破るための力を撒き散らして、世界中で災害が起きているそうだ。
とにかく女神の創った迷宮だ。
下に行けば行くほどレベルの高い魔物がいるはずだ。
最下層まで行ければ、レベル100を突破できるかもしれない。
上限が99でなければ、100以上になることはできるはずだ。
女神の創った迷宮は世界中にいくつかあるらしいけど、各国の王都のある場所に多いらしい。
迷宮がある国ならば、迷宮のある場所に王都を作るよな、そりゃ。
「とにかく嵐が収まらないと、復興もできない状況らしい。餓死者も出ているそうだ。王都周辺の穀倉地帯も全滅したらしい。可能な限り食料を送るように指示がきた」
かなりやばいようだな。
オレが嵐の神の力で操ったら、嵐が収まるかもしれない。試してみるか。
「それならオレが行って神器を貸します。食料だけはなんとかなります」
嵐は判らない。魔神の力だしな。
「僕はここを離れられませんから、レイシアが部隊を連れてくるように書かれています」
他の貴族の領地を通るので、貴族家に連なる者が説明しないと、足止めをくらうらしい。
顔見知りが指揮する部隊なら、王都を救うために行くわけだし、調べる必要がなくなるそうだ。
軍が動くわけだしな。
さすがに、どうぞどうぞとはいかない。
貴族家の人間がいないと、様々な手続きに時間を取られてしまう。
そんなわけで、レイシアと一緒に食料を持って行くことになった。
食料を準備するのに3日掛かるそうなので、暇を貰って修行に出ることにした。
3日でも1レベルくらいは上げられるかもしれないし、魔神の力を鎮めないといけない。護衛はレオと騎士に任せよう。
「王都の人たち……大丈夫でしょうか?」
執務室を出ると、レイシアが不安そうに呟く。
「大丈夫かは判らないけど、食料だけはオレの神器でなんとかなる」
「……そうですよね! あの神器なら、みんな美味しい物が食べられます!」
少なくとも餓死者は防げるようになる。
嵐を止められないなら、王都は捨てるしかないかもな。
3日間、自分よりレベルの高い魔物ばかりを相手して、何回か死に掛けた。
いざという時の空想転化のおかげで、冷静に戦えるのが強みだな。
なんとか空想転化せずに、格上の魔物から生き延びた。
あまり食料に余裕はなかったらしい。集まった食料は2000人分だそうだ。
ないよりはマシといったところか。
神器が1度に出せるのは4皿分なので、王都の人口300万人を食わせるのは大変だ。数日に1回くらいの頻度になるだろう。
「レイシア、しっかりやるんだぞ?」
「はい、お兄様。わたくしも伯爵家の一員として恥じないように頑張りますね!」
抱き合ってお互いの頬に口付けをする。
父親が出掛ける時もしてたし、家族の挨拶なんだろう。
「ソータ殿も国と父上をよろしくお願いします」
オレも抱き締めるんかい!
エイブラム君の中で、妹の婚約者とかになってないだろうな。
なんか怪しいし王都も心配なので、すぐに出発する。
周りを騎士と兵士10人に囲まれながら、オルコット伯爵家の家紋の描かれた馬車は進む。
その後を荷駄が数十ついてくる。これは到着に時間が掛かりそうだ。
2つの領地を越えて、宝石の産地として有名なコーマック侯爵領に入って数時間。ダイアウルフというゴーレムに襲われた。
ダイアウルフはダイアモンドの体を持つゴーレムで、魔術で産み出されるらしいが、今回のは魔神の力で産まれたんだろう。
硬いうえに素早く、1体だけでも騎士たちには荷が重い。
「オレがやるからレイシア嬢の護衛を代わってください」
騎士たちが下がれるように、ダイアウルフに斬り掛かる。
その隙に騎士たちが下がり、レイシアの周りを固めた。
視界が霞むような速度で動き、簡単にダイアウルフを斬り裂いていく。
飛び掛かるダイアウルフを水平に斬り、着地したダイアウルフの上半分がズレて落ちた。
オレの2本の剣が振るわれるたびに、ズタズタになっていった。
「強いです! ソータ様~!」
ピョンピョンしながら応援するレイシア。力が抜けた隙にレイシアのほうに向かった。
しかしレオが飛び掛かり、オリハルコンの爪で引き裂いた。
「レオ様も強い!」
レイシアの声を聞きながら、ダイアウルフを全滅させた。
すぐにダイアウルフを回収してから馬車に戻った。
「凄いな、ソータ様の剣技」
「まるで竜巻みたいに蹴散らしてたな」
騎士がオレの噂をしているが、急ぐし恥ずかしいから馬車に乗った。
車内でレイシアにいろいろ聞かれながら、王都へ急いだ。
王都に近付くにつれて風が強くなり、王家の直轄領に入ると、爪ほどの小石が風で飛んできた。
王都に到着した時は、馬車のドアを開けた時に、ドアが吹っ飛んでいった。
やたらと長い大通りを行き、城へとたどり着いた。
人がまったくいないし、家のドアや屋根が飛んだり、飛んできた看板で窓が割れたりしていたな。
人は家の中で、食料の配給だけを頼りに震えているんだろう。
オルコット伯爵に相談して、神器を有効利用して貰えるように、王に掛け合って貰おう。




