お花畑でお茶会
本日2話目です。
箱を開けると皿にケーキが載っていた。
さらに人数分のイチゴショートケーキを出すと、お嬢様たちは真っ白なケーキに驚いた。
バタークリームを使っているので、こちらのケーキは少し黄色いのだ。
「可愛い見た目です!」
「これは食べられますの?」
「なぜ箱からお菓子が……」
「お姉様、そんなこといいから、これ食べたい」
幼い子供にとっては神器もそんなことか。ケーキは食っていいよ。
「遠慮しないで食べていいよ」
1番幼い少女が、さっそくモグモグ食べる。
他の女の子たちは、上品に食べた。みんな夢中で食べている。
「おいしい……」
妹のはしたない食べ方にも叱ることはなく、年長者の少女も、一言呟いただけで食べることに集中している。
オレも食べる前に、レオにキャットフードを与える。
来る時に馬車で女の子たちに撫でられていたので、ちょっとぐったりしていた。
しかし、メシ時に甘い物はオレにはつらい。甘い卵焼きをご飯のおかずにしたくない人なのだ。甘い卵焼きは寿司に使うのがいい。
ケーキを食べ終わった少女たちは、じーっとオレを見ている。
その目はもっと食べたいなぁと言ってるが、はしたないと思って言えないんだろう。
「もう1個ください!」
1番小さい子は食べるのが遅かったが、食べ終わったあとは、お代わりを要求した。
子供なので、はしたないことだと理解していないので、姉たちと違って遠慮なく皿を差し出す。
メイドが新しい皿を持ってきてくれたので、それにケーキを出してあげた。
今度はチョコレートケーキだ。しかしみんな戸惑っている。
「今度は黒いです! ソータ様、失敗したのですか?」
レイシアが不思議そうに尋ねる。
「これで成功だよ。まあ食べてみてください」
少女たちに勧めたが、1番小さい子以外は躊躇った。
「大丈夫? シンシア。ソータ様が食べない物は食べないほうが」
姉が心配して声を掛けるが、まったく気にしないで食べている。
オレが食べないのはメシを食おうと思っているので、胸焼けしないようにだ。
シンシアちゃんの笑顔を見て、美味しいのかもと思った少女たちは、自分たちも食べ始めた。
「美味しい!」
「苦甘のケーキ。大人の甘さですね!」
「それはチョコレートケーキですよ」
名前を教えてあげると、チョコレートはどこで買えるのか聞かれた。
こっちにはないようなので、神器で作ってるんだから神界じゃないですか? と誤魔化した。
レイシアたちはすでに花を見ていない。
貴族令嬢としてどうなんだと思うが、女の子だし甘い物に弱いのは仕方ないのか?
オレはチャーハンとカレーライスを出して、食べ始めた。
見知らぬ食べ物を食べているオレを、その場にいた使用人まで興味深そうに見ている。
「それはなんですか? ソータ様のことはなんでも気になります!」
「刺激的な香りですね。恥ずかしいですけどお腹が空いてきました」
レイシアと中学生くらいの女の子が、オレに尋ねる。
「オレの故郷の食事で、チャーハンとカレーライスですよ。その神器に皿を入れて、これを思い浮かべれば出てきますよ」
MPがあればだけど。
オレは食べるのに忙しいので、メイドにやって貰う。
次々と出てくる食事に、神器というのを理解したのか、途中から箱を触る手が震えていた。
「これ、辛いですけど美味しいです。ソータ様は凄い神器を持っていますね」
オレが空想で作った物だけどな。
モデルになったのはケルト神話のダグザの大釜だ。
ダグザの大釜をそのまま作ったほうがMPは少ないんだけど、オレが食べたい料理じゃないしな。
「おかげで食事には困らないんです。だから宿代だけ稼げばいいんで、ラクなもんですよ」
武器も防具も自分で作れるし。
せいぜい誤魔化すために食料を買うくらいかな?
オレの仕事の話をやたらと聞きたがるのは、冒険したいお年頃だからかもな。
食事も終わったので、話を切り上げて遊ぶことにした。
「そら、1番のおチビさんに使わせてあげよう」
シンシアちゃんに頭巾を被せると、赤ずきんちゃんみたいで可愛い。
「可愛い帽子ですね。妹によく似合ってます」
シンシアちゃんも可愛いと言われて喜んでいる。
「鳥に話し掛けてみるといいよ」
「鳥さん?」
動物ならなんでもいいけど、近くにいるのはカラフルで小さい鳥だけだ。
地面を啄む小鳥に近付いて、シンシアちゃんが話し掛けた。
「鳥さん、なにをしてるの?」
「ピピピッピーピッピピーピッ」
「そうなんだ。食いしん坊かと思っちゃった」
雀がシンシアちゃんのほうを向き、鳴き声を上げると、シンシアちゃんが納得した。
「シンシアは何を言ってるの?」
「お姉様。あのね、あのね、小鳥さんがね、お食事をしてるのかと思ったらね、貯めてるんだって」
説明が足りずによく解らないようだ。
「リスみたいにエサを貯めてるんじゃないか?」
「うん! お口の中に貯めてるって言ってるの!」
指摘してあげると、伝わって嬉しいのかニコニコしてる。
「鳥の言葉が解るの?」
「そうだよ? お姉様。この鳥さんは話ができるの!」
「鳥が話ができるんじゃなくて、その頭巾を被ると動物の気持ちが解るだけだ」
ききみみ頭巾を参考にして作ってみた。
しかし、よくよく考えると、あまり使い道がなかった。
せいぜい偵察とかを動物に頼むとかだが、神や悪魔の力を借りるほうが早いし。
「すごいすごい! ねえマルコ。動物さんを連れてきて! お話するの!」
「お嬢様、罠もないのに無理でございます」
シンシアちゃんの家は子爵家らしいんで、護衛の兵士を連れてきていた。
マルコさんとやらに、話しをする動物を連れてくるように頼むが、そりゃ無理だ。
「む~、いいもん。小鳥さんとお話するから!」
ちょっと拗ねてしまった。小鳥相手に愚痴を言ってる。
その様子に心配になった姉が、鳥に愚痴を言わないように叱る。
「ねえねえシンシア様。私にも貸してくださらない?」
「いいよ! 順番に使お!」
姉に叱られて落ち込んだが、動物と話をする仲間が増えて、機嫌を直した。
「すごい! 本当に聞こえますわ!」
「あっちのほうから旅をしてきたんだ?」
「シンシア様、また貸してくださいな」
「もう少しだけ」
かなり騒がしくなったな。
オレはお嬢様たちから離れて席に着いた。
すると騎士が近付いてきて、オレに神器について聞く。
「あのような神器をどうして持っているのですか? ひょっとして他国の王子殿下であらせられるとか?」
「いや、違うし。オレは王族ではないですよ。たまたま手に入れただけです。冒険者ですからね」
冒険でレベルを上げたから手に入ったのは確かだ。
あまり納得していないようだが、立場的にオレは恩人。あまり突っ込んで聞けない。
兵士は再び護衛のために離れていった。
口寂しいから道具生成でジュースを出して飲む。
よくよく考えたらジュースって道具じゃないよな。なんで出るんだ?
ゲームのような感じでアイテム扱いなんだろうか?
なんでもいいか、便利だし。
道具生成で出した食べ物は、栄養にならないから腹は減るし、飢えは防げない。
その代わり味を楽しめるし、絶対に太ることはありえない。女の子の味方だ。
空想現実化で作った無限の食料庫は、出した食べ物も栄養になる。
使い分けるほうがオレとしても賢いと思う。人が見てると道具生成は使いたくないが。
神器の力だとしたほうが、オレが狙われる可能性が減るはずだ。
夕方になる前に、帰る準備をする。
馬車の中でもあれこれ聞かれたが、上手く話を逸らした。上品なお嬢様で助かるな。無理に聞こうとはしない。
それとは別に、シンシアちゃんになつかれたので、レイシアが不機嫌になったのが困った。




