女神のお願い
本日2話目です。
想太が異世界でゴブリンと遭遇している頃、真由たち4人は神界にいた。
4人は楽園のような場所で、周囲を見回している。想太を捜しているのだ。
しかし辺りを確認しても、視界に入るのは光る花や動く木。そして逆さまに落ちていく水などである。想太の姿があるわけがない。
「想太も変な光に包まれてたはずなんだがな。なんであいつだけいないんだ!?」
一際真面目な耕平は、友人の安否を気にしてイライラしている。
「耕平君、落ち着いてね?」
「真由はなんで落ち着いてるんだ!」
イライラしている耕平と違い、真由は不自然なほどに落ち着いている。
恋人の安否が気にならないわけはないだろうが、少なくとも表面的には落ち着いて見える。
「想ちゃんはきっと大丈夫! そばにいないのは寂しいけどね。何かあっても切り抜けると思う」
「想太の場合は心配するだけ無駄になりそうよね。アイツったら脚が凄く速いうえに、バスケで数十分間ずっと走り回る体力があるんだから」
2人の乙女は愛する男が死ぬわけがないと信じているのだ。
自分たちが危険な状況でないのも、安心している理由だ。離れた場所にいるくらいに思っている。
実際は別の世界にいて、ゴブリンに襲われているのだが。
「でも同じ魔法陣だったのに、想太君だけ別の場所にいるのは何でかな?」
剛の疑問に答えられる者は、仲間内にはいない。
「それについては私から。このたびは申し訳ありません」
「うわっ、凄い美人。想太がいなくてよかったわ。知らない人のお尻を撫でたら、大変よ」
「なんの心配してるんだ? 千夏は……」
呆れている耕平をスルーして、現れた美女に向き直る。
うっすらと光をまとっている美女は、ゆっくりと頭を上げて口を開いた。
「信じては貰えないかもしれませんが、皆さんに危害を加えるつもりはありませんから、安心してください。皆さんをお呼びしたのは私なのですが、かなり難しいお願いが」
生真面目なのだろう。本当に困ったような顔をして話している。
「それは聞いてみないと判らんな。それより想太はどこに」
「想太さんは恐らく先に私の世界に行ってしまったかと……申し訳ありません。魔法を失敗してしまい。想太さんの座標と識別に狂いが生じてしまったのです」
綺麗な眉根を寄せて、本当に申し訳なさそうに頭を下げる人に、あれこれ文句をつけるような4人ではない。
「想太君は少し離れていたもんね。座標が狂ったっていうのは、それが原因だね。猫を抱っこしてたのも、識別が上手くいかなかった理由じゃないかな?」
ガチホモではあるが、想太たち5人の中で1番頭の回転が速いのだ。
「はい……魔法を使った時には、魔法陣の内容にズレが生じていました」
女神が魔法陣を描いた時のデータと、魔法陣を発動させた瞬間の想太たちのデータが微妙に変化していたために起きた事故だった。
「魔法が使えるって魔法使いなんですか? 想ちゃんは魔法少女も好きだから、私にも教えてくれないかな? 千夏ちゃん」
「……いや……教えて貰ったからって魔法ができるわけないでしょ」
あまりに能天気な真由に、千夏も対応に困っている。
「こんなおかしなことになってるんだし、魔法が使えるようになっても変じゃないよ?」
「うっ」
真由の核心をつくような意見に、千夏も思わず確かにと思ってしまった。
「魔法が使えるかは努力しだいですが、私の願いを聞いてくださったら、魔法を修得できる力は与えます。ですが元の世界に帰りたいなら帰します」
「帰れるんですか? ラノベだと帰れない場合が多いのに」
剛はラノベまで読む乱読家だ。
ライトノベルで見たような場面だったので、想太が1人で危なそうと判断し、咄嗟にお菓子を投げ渡していた。
お菓子があれば1週間は飢え死にしなくて済むはずだ。
「あなた方4人は帰れます。ここからなら。適正が高い方々を呼んだので、帰られてしまうと適正が低い方々を呼ばなければなりませんが」
「僕たち4人だけしか帰れないんですか? 想太君は?」
「残念ながら私の世界は魔神に奪われていますので、あちらの世界にいる方を呼んだり、あちらの世界の住人に力を与えることはできません」
想太は事故で先に異世界転移しているので、もう女神でも干渉できない。
「幸いと言っては語弊がありますが、こちらに呼ぶ時に私の力を魔法陣に注ぎ込んでいるので、何らかの力に目覚めているはずです。あなた方も意識しながらステータスと唱えてください」
言われた通りに唱える真由。
他の3人は恥ずかしくてできなかったのだ。
「ゲームみたいな画面が出た! みんなも見て見て! 面白いよ」
覗き込むと、真由の現在のステータスが見える。
レベル1 高岡真由
HP 11 MP 42
筋力 3 体力 5
敏捷 6 器用 8
魔力 25 魔防 17
個人スキル 全攻撃魔法
「ほんとにゲームみたいだ。僕にもあるんだよね?」
「俺たち以外の他の人は、どのくらいのステータスなんだろうな?」
普段から想太がしているゲームを見慣れていたので、男たちの驚きは少ない。
「これは勇者たち専用です。地球の方にはこういうのが判りやすいので。向こうの人はステータスを見ることはできません。それと、魔法は世界の法則をねじ曲げるもので女神と勇者、魔神しかつかえません。人間が使うのは魔術。魔力を使った術という意味で、魔法より効果が低いです。気をつけて使ってください」
「確かに判りやすいわね。真由は魔法使いみたいなステータスだし。全攻撃魔法って、性格に似合わないわね」
「本人の望みや資質しだいですから。私が注いだ力が、本人の望む力と資質を考慮して変化したのです」
想太のために魔法少女になりたいと言っていたのは本気だったようだ。
望む力と資質が一致したのだろう。運がいいのか悪いのか。そもそも運がよければ、こんな目にはあっていない。
「全攻撃魔法は攻撃魔法が全て使えるわけではなく、全ての攻撃魔法を修得できるということですね。あちらにはスキルなどないので、便宜状スキルと呼んでいるだけで、才能や特性と言ったほうがいいでしょう」
「練習しないと身に付かないってわけね?」
千夏はあまり残念そうではない。剣道の練習も大好きな子なのである。
「皆さんに力を与えるのは、魔神を倒して欲しいからです。私の力を弾く結界が張られているので、私が向かうことも、現地の人間に力を与えることもできない。そこで別の世界の方に助力を願うのです」
女神の力を地球人の体に封じ込めて、魔神の結界が反応しないようにしているのだ。
「魔神の封印するための神器は、私と魔神が争っていた時に、あちらに置いてきているのですが」
「それを探して魔神とやらを封印すれば、想太と一緒に帰れるんですね?」
耕平の切実な訴えに、女神は自信を持って頷いた。
「まだ完全に復活していませんので、5年ほど猶予がありますから、修行して強くなってください。レベルさえ上げれば強くなります。魔神に有効な私の力を4分割して渡しますので、それでダメージを与えたら封印の神器が効くはずです」
女神の手から光の玉が出てきて、4人に吸い込まれた。
「女神の盾、女神の怒り、女神の祈り、女神の剣です。盾は完全防御。怒りは全魔力を何倍もの威力に変えて撃つ魔法。祈りは瀕死の怪我も完全に治し、剣は魔神に特攻です」
MPをかなり使うらしいので、高レベルでないと使えない。
「ところで、真由以外の個人スキルはどんな効果が?」
もっともな疑問を耕平が投げ掛ける。
「剛体はダメージ半減と状態異常を無効化します。剣聖は剣での威力が2倍になります。自身の剣に魔力を宿せますので、実質は3倍くらいになるかと。全支援魔法は真由さんと同種のものです」
最後に全員の意思を確認したが、全員一致で想太と一緒に帰るために戦うことにしたようだ。
「想太さんのほうは強力な力を持ってるはずなので、皆さんは焦らずにレベルを上げてからにしてくださいね」
本来なら1つの魔法陣に力を注ぎ、それを5等分するはずが、想太の魔法陣は暴走していたので、力の大半を持っていったのだった。
女神に4人が送られた先は、城の儀式の間だった。
清らかな巫女が勇者を呼ぶことで、魔神の結界を通りやすくなる。そのタイミングで女神が送ったのだ。
「勇者様、初めまして。この国の王女のリールと申しますわ。勝手に呼び立てる無礼をお詫びいたします」
王女が巫女として女神に祈ったらしい。
真由たち4人は、王女リールに想太を捜してくれるように頼むため、挨拶から始めた。
他の3人のステータスを書いておきます。
レベル1 英田耕平
HP 47 MP 3
筋力 12 体力 15
敏捷 5 器用 4
魔力 1 魔防 13
個人スキル 剛体
女神スキル 女神の盾
レベル1 七瀬剛
HP 10 MP 17
筋力 6 体力 8
敏捷 9 器用 12
魔力 16 魔防 8
個人スキル 全支援魔法
女神スキル 女神の祈り
レベル1 如月千夏
HP 24 MP 10
筋力 9 体力 13
敏捷 7 器用 12
魔力 3 魔防 6
個人スキル 剣聖
女神スキル 女神の剣