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ファンタジーを現実に  作者: 王国民
ルーキス王国編
19/207

キラービー退治

 本日3話目です。

 オレは肩にレオを乗せて、今日も依頼票を見に来た。

 レオはオレが危険な依頼を請けるのを嫌がるが、危険な依頼というのは、それだけ困ってる人がいるということだし、なるべく請けたい。

 ギルドが開いた直後だから、依頼は全部残ってるな。選び放題だぞ。


 果樹園にキラービーの巣ができて困ってる。食料難のいま、これは重要な仕事だな。

 けっこう大きい果樹園のようだし、このままだと果物が不足して値段が上がる。


 依頼料は低めだな。依頼票には冒険者ギルドが決めた最低額を明記してある。

 その額以上でないとギルドは請けないわけではないが、冒険者への目安として書いてある。


 普通の5人前後のパーティーが、準備を整えて行った場合、その最低額がないと赤字になる金額だ。

 冒険者ギルドはちゃんと仕事をしているな。仲介料を取るのも当たり前な調査だ。


 オレはその依頼票を剥がして、カウンターに持っていく。

 そしてギルドが調査した詳しい話を聞く。最近は収入がないので、依頼料が最低額しか払えないそうだ。


 なんでもキラービーがいるので、果樹園に入れば殺されてしまうそうだ。

 そのせいで収穫ができないらしい。農家とかもそうだが、収穫して売った時しか収入がない場合が多いのだ。


 この果樹園も副業とかしてる余裕はないんだろうな。大きいようだし。

 その大きい果樹園に、キラービーが300匹は確認された。

 ギルドの調査はキラービーの数が多すぎて、途中までしかできなかったそうだ。


 果物がいっぱいあるせいで、その果汁を集めて巣に溜め込んでる。

 それをエサにして幼虫を育てて、数を爆発的に増やしたらしい。

 最初に雇った冒険者は失敗したらしく、ギルドも困っている。


 かと言って割の合わない仕事をさせるわけにもいかない。

 果樹園のほうもロクな報酬を払えないので、強くは言えない。

 まさに貧乏が原因で陥るスパイラルといえよう。


 キラービーは基本的にはなんでも食料にするらしいからな。人間でも食べる。

 ほんの数匹に襲われただけで、一家まるごと肉団子にされた話も魔物図鑑に載ってた。

 命知らずでも、そんな死に方をしたくないのは当然だから誰も請けない。


 なのでこの仕事を請けて、街の外にある果樹園に向かった。

 オレは自分の装備品を信用してるからな。鉄を砕くキラービーも、オレの装備品には通用しない。頭が危ないけど。


 そしてレオのスピードには敵わないし、そもそも下が見にくいらしいから、気付かないかもしれない。

 でも念のためにキラービーの忌避剤を買っていった。


 果樹園の人は避難しているので、オレたちは遠慮なく中に入った。

 忌避剤を自分たちに振り掛ける。これでクイーンキラービーに命令されない限りは、積極的に寄ってこない。


 あくまで嫌な匂いなので、我慢して寄ってくるやつもいるかもしれない。

 毒ではない以上、絶対に寄ってこないなんて言えないのだ。


 さっそく見つけたな。

 キラービーは大集団では動かない。大集団で向かってくるのは巣を襲われた時くらいだな。

 数匹のキラービーが別々の木から果物の果汁を啜ってる。

 こいつらはミツバチでもあるので、キラービーのハチミツは高級品だ。


 なのにこの仕事は割に合わない。

 巣を狙うとまず殺されてしまうからだ。

 なので1匹ずつ仕留めていくのだが、数が多いので時間が掛かるし、時間を掛ければ幼虫が成虫になる。


 つまりなかなか終わらず、その間に他の仕事をすると増えてしまうので中断できない。

 倒し終わるまで無収入になる。普通の冒険者は1日中戦うことはできない。どうやっても1週間は掛かってしまう。


 この仕事を請けられるような冒険者の、宿代の平均額は1万ちょっと。オレは3万リラだけど。

 そしてこの仕事は本来1人で請けるような仕事ではなく、普通の冒険者パーティーが請けるので、1日の宿代は5~6人で6~7万程度になるだろう。


 それが数日分必要になり、忌避剤も人数と日数分が必要になる。

 さらに鉄を砕くアゴを持っているので、装備品が破損する可能性が高い。

 怪我をしても回復魔術で費用が掛かるし、治さなければ、すぐに次の仕事ができない。


 慎重にやらないと肉団子にされる危険性はあるのに、時間をオーバーすれば赤字になる。装備品を失えば大赤字になる。

 そして時間オーバーしなくても収支はトントンでは請けるはずがない。


 ギルドも一応掲載しているだけで、果樹園の人間も避難して別の仕事をしているくらいだ。

 すでに諦めているらので、本当に請けるんですか? と何回も聞かれた。


 オレなら利益は出るんだよな。

 修行にもなるし、ハチミツを手に入れたら利益は数十万リラは出るはずだ。それでも少ないが。

 オレは巣までの間に遭遇したキラービーを殺しながら、巣のある広場に突っ込んだ。

 巣は木にぶら下がってない。地面の下から

木にもたれ掛かるように存在した。


 普通の倒し方は、食料を手に入れるために巣を出たキラービーを狙って、少しずつ減らしていく。

 プラチナランクの冒険者なら、2~3匹くらいは1人で倒せるだろう。普通以上の武器があれば。

 キラービーは巣の兵力にもよるが、20~40匹くらいが食料のために外に出る。


 そのキラービーが1日帰ってこないと、次の部隊が食料収集に行く。

 オレは頭さえ守れば大丈夫だし、剣が強いから数百匹斬っても刃こぼれしないのだ。


 オレが巣まで数十mの距離に近付いたら、複数の小さな、といっても10m近くあるが、その巣からキラービーの兵隊が飛び出してきた。


 1番大きな20mくらいの巣は女王と幼虫の巣なんだろう。

 兵隊用の巣が周りを囲んで、女王と幼虫を守るようだ。


「ごしじんさま、気を付けてにゃ。凄い数だにゃ」


「わかってる。レオもピンチになったら狭い場所に隠れろよ!」


 レオは小さいから、50cmくらいあるキラービーの入れない場所に逃げれば大丈夫だ。

 オレたちはお互いをフォローできる距離で戦った。


 大きな口で噛み付こうとするキラービーを一刀両断にしていく。

 金属同士が擦れ合うような音がする。たぶん凄く硬いんだろう。

 オリハルコンの名剣の前には紙も同然だが、普通の武器しか用意できない冒険者は、剣をボロボロにしながら戦うんだな。


 レオのほうも背後を気にしないで戦えるから、ピョンピョン跳びながら、爪で簡単に引き裂いている。

 オレのほうに来ようとするキラービーから狙うので、時々ヒヤリとする場面があるが。


 両手の剣を振り回し、周囲のキラービーを斬り刻んでいく。

 左右の連撃に隙はなく、攻撃が途切れることはない。

 近付くキラービーから、順番をミスることなく斬り落としていく。


 300匹どころか400匹を超えるキラービーが、オレとレオの周りで死骸となった。

 あとはクイーンだな。オレはビルのような大きな巣に入っていった。


「けっこう広いな。幼虫がウジャウジャいるのに……」


「こんなにいたら、すぐに群れが回復しちゃうにゃ」


「まったくだな。気持ち悪いから、早くクイーンを倒そう」


 レオがクイーンの所に誘導してくれるので、迷うことなく到着した。

 3mくらいあるな。この大きさだと飛べないから産むだけだな。

 キーキーと威嚇する顔が怖い。近寄りたくないから、魔法の杖を試してみるか。


 収納バッグから杖を取り出し、クイーンに向けて魔力を込めた。

 その瞬間、先端の宝玉からビームのような熱線が出る。


 クイーンに当たると、焦げ臭い匂いがして悲鳴が響いた。

 苦しめる趣味はないので連続して撃つ。4発目くらいで動かなくなった。

 頭と心臓を狙って撃ったんだけど、予想より硬いみたいだ。それとも威力が低いのか?


「とりあえず幼虫を殺すぞ。手分けしよう」


「わかったにゃ。変な匂いがしたら叫ぶから逃げてくださいにゃ」


 そりゃオレのセリフだな。

 2人で殺すと、動けない幼虫では10分も耐えられない。

 オレたちは果樹園を一回りして、キラービーが残ってないかを調べてから、冒険者ギルドに報告に戻った。

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