キラービー退治
本日3話目です。
オレは肩にレオを乗せて、今日も依頼票を見に来た。
レオはオレが危険な依頼を請けるのを嫌がるが、危険な依頼というのは、それだけ困ってる人がいるということだし、なるべく請けたい。
ギルドが開いた直後だから、依頼は全部残ってるな。選び放題だぞ。
果樹園にキラービーの巣ができて困ってる。食料難のいま、これは重要な仕事だな。
けっこう大きい果樹園のようだし、このままだと果物が不足して値段が上がる。
依頼料は低めだな。依頼票には冒険者ギルドが決めた最低額を明記してある。
その額以上でないとギルドは請けないわけではないが、冒険者への目安として書いてある。
普通の5人前後のパーティーが、準備を整えて行った場合、その最低額がないと赤字になる金額だ。
冒険者ギルドはちゃんと仕事をしているな。仲介料を取るのも当たり前な調査だ。
オレはその依頼票を剥がして、カウンターに持っていく。
そしてギルドが調査した詳しい話を聞く。最近は収入がないので、依頼料が最低額しか払えないそうだ。
なんでもキラービーがいるので、果樹園に入れば殺されてしまうそうだ。
そのせいで収穫ができないらしい。農家とかもそうだが、収穫して売った時しか収入がない場合が多いのだ。
この果樹園も副業とかしてる余裕はないんだろうな。大きいようだし。
その大きい果樹園に、キラービーが300匹は確認された。
ギルドの調査はキラービーの数が多すぎて、途中までしかできなかったそうだ。
果物がいっぱいあるせいで、その果汁を集めて巣に溜め込んでる。
それをエサにして幼虫を育てて、数を爆発的に増やしたらしい。
最初に雇った冒険者は失敗したらしく、ギルドも困っている。
かと言って割の合わない仕事をさせるわけにもいかない。
果樹園のほうもロクな報酬を払えないので、強くは言えない。
まさに貧乏が原因で陥るスパイラルといえよう。
キラービーは基本的にはなんでも食料にするらしいからな。人間でも食べる。
ほんの数匹に襲われただけで、一家まるごと肉団子にされた話も魔物図鑑に載ってた。
命知らずでも、そんな死に方をしたくないのは当然だから誰も請けない。
なのでこの仕事を請けて、街の外にある果樹園に向かった。
オレは自分の装備品を信用してるからな。鉄を砕くキラービーも、オレの装備品には通用しない。頭が危ないけど。
そしてレオのスピードには敵わないし、そもそも下が見にくいらしいから、気付かないかもしれない。
でも念のためにキラービーの忌避剤を買っていった。
果樹園の人は避難しているので、オレたちは遠慮なく中に入った。
忌避剤を自分たちに振り掛ける。これでクイーンキラービーに命令されない限りは、積極的に寄ってこない。
あくまで嫌な匂いなので、我慢して寄ってくるやつもいるかもしれない。
毒ではない以上、絶対に寄ってこないなんて言えないのだ。
さっそく見つけたな。
キラービーは大集団では動かない。大集団で向かってくるのは巣を襲われた時くらいだな。
数匹のキラービーが別々の木から果物の果汁を啜ってる。
こいつらはミツバチでもあるので、キラービーのハチミツは高級品だ。
なのにこの仕事は割に合わない。
巣を狙うとまず殺されてしまうからだ。
なので1匹ずつ仕留めていくのだが、数が多いので時間が掛かるし、時間を掛ければ幼虫が成虫になる。
つまりなかなか終わらず、その間に他の仕事をすると増えてしまうので中断できない。
倒し終わるまで無収入になる。普通の冒険者は1日中戦うことはできない。どうやっても1週間は掛かってしまう。
この仕事を請けられるような冒険者の、宿代の平均額は1万ちょっと。オレは3万リラだけど。
そしてこの仕事は本来1人で請けるような仕事ではなく、普通の冒険者パーティーが請けるので、1日の宿代は5~6人で6~7万程度になるだろう。
それが数日分必要になり、忌避剤も人数と日数分が必要になる。
さらに鉄を砕くアゴを持っているので、装備品が破損する可能性が高い。
怪我をしても回復魔術で費用が掛かるし、治さなければ、すぐに次の仕事ができない。
慎重にやらないと肉団子にされる危険性はあるのに、時間をオーバーすれば赤字になる。装備品を失えば大赤字になる。
そして時間オーバーしなくても収支はトントンでは請けるはずがない。
ギルドも一応掲載しているだけで、果樹園の人間も避難して別の仕事をしているくらいだ。
すでに諦めているらので、本当に請けるんですか? と何回も聞かれた。
オレなら利益は出るんだよな。
修行にもなるし、ハチミツを手に入れたら利益は数十万リラは出るはずだ。それでも少ないが。
オレは巣までの間に遭遇したキラービーを殺しながら、巣のある広場に突っ込んだ。
巣は木にぶら下がってない。地面の下から
木にもたれ掛かるように存在した。
普通の倒し方は、食料を手に入れるために巣を出たキラービーを狙って、少しずつ減らしていく。
プラチナランクの冒険者なら、2~3匹くらいは1人で倒せるだろう。普通以上の武器があれば。
キラービーは巣の兵力にもよるが、20~40匹くらいが食料のために外に出る。
そのキラービーが1日帰ってこないと、次の部隊が食料収集に行く。
オレは頭さえ守れば大丈夫だし、剣が強いから数百匹斬っても刃こぼれしないのだ。
オレが巣まで数十mの距離に近付いたら、複数の小さな、といっても10m近くあるが、その巣からキラービーの兵隊が飛び出してきた。
1番大きな20mくらいの巣は女王と幼虫の巣なんだろう。
兵隊用の巣が周りを囲んで、女王と幼虫を守るようだ。
「ごしじんさま、気を付けてにゃ。凄い数だにゃ」
「わかってる。レオもピンチになったら狭い場所に隠れろよ!」
レオは小さいから、50cmくらいあるキラービーの入れない場所に逃げれば大丈夫だ。
オレたちはお互いをフォローできる距離で戦った。
大きな口で噛み付こうとするキラービーを一刀両断にしていく。
金属同士が擦れ合うような音がする。たぶん凄く硬いんだろう。
オリハルコンの名剣の前には紙も同然だが、普通の武器しか用意できない冒険者は、剣をボロボロにしながら戦うんだな。
レオのほうも背後を気にしないで戦えるから、ピョンピョン跳びながら、爪で簡単に引き裂いている。
オレのほうに来ようとするキラービーから狙うので、時々ヒヤリとする場面があるが。
両手の剣を振り回し、周囲のキラービーを斬り刻んでいく。
左右の連撃に隙はなく、攻撃が途切れることはない。
近付くキラービーから、順番をミスることなく斬り落としていく。
300匹どころか400匹を超えるキラービーが、オレとレオの周りで死骸となった。
あとはクイーンだな。オレはビルのような大きな巣に入っていった。
「けっこう広いな。幼虫がウジャウジャいるのに……」
「こんなにいたら、すぐに群れが回復しちゃうにゃ」
「まったくだな。気持ち悪いから、早くクイーンを倒そう」
レオがクイーンの所に誘導してくれるので、迷うことなく到着した。
3mくらいあるな。この大きさだと飛べないから産むだけだな。
キーキーと威嚇する顔が怖い。近寄りたくないから、魔法の杖を試してみるか。
収納バッグから杖を取り出し、クイーンに向けて魔力を込めた。
その瞬間、先端の宝玉からビームのような熱線が出る。
クイーンに当たると、焦げ臭い匂いがして悲鳴が響いた。
苦しめる趣味はないので連続して撃つ。4発目くらいで動かなくなった。
頭と心臓を狙って撃ったんだけど、予想より硬いみたいだ。それとも威力が低いのか?
「とりあえず幼虫を殺すぞ。手分けしよう」
「わかったにゃ。変な匂いがしたら叫ぶから逃げてくださいにゃ」
そりゃオレのセリフだな。
2人で殺すと、動けない幼虫では10分も耐えられない。
オレたちは果樹園を一回りして、キラービーが残ってないかを調べてから、冒険者ギルドに報告に戻った。




