教会
本日4話目です。
錆びた音のする扉を開けて教会に入ると、子供たちにまとわり付かれ、困っているシスターがいた。
年齢はたぶん25歳前後。掃除の邪魔をされて困っている。
騒がしい中、扉の音に気付いた子供がオレを見ていた。
「シスター、シスター! ケガした人だよ! すごいケガだよ」
「まあ、本当! 凄い血だわ!」
見た目ほど酷くはないんだけど。
どれもかすり傷だし、血で汚れているから酷く見えるだけだ。
「いきなりすみません。回復魔術を掛けて貰いたくて。心配しなくてもかすり傷です」
慌てオレに駆け寄り、体をペタペタ触って怪我の状態を見ていたシスターに、平気なことを告げる。
「まあ、嘘はいけませんよ? こんなに血が出てるのに」
事実なんだがな。
シスターがオレに魔術を掛け始める。まだお金を渡してないんだが。
受付嬢から寄附金がいるって聞いてるんだけど……この教会では無償なんてことはないよな。
「すぐに治りますからね」
光がオレを包んで、少しずつ痛みが引いていった。
「あ~、ネコちゃんがいる!」
「ほんとだ! 小せ~」
「お兄ちゃん、抱っこしていい?」
子供たちがレオを見てはしゃぐ。
「いいよ。でも仕事から帰ったばかりで洗ってないぞ?」
「じゃあ洗ってあげるね!」
宿に帰ったら洗う予定だったが、子供たちが洗いたがっているし、頼もうか。
「それじゃあ頼むよ。レオ、おとなしくしてるんだぞ?」
「にゃ~あ」
レオも嬉しそうだ。
森の湖にいた時も、オレと一緒に水浴びをさせてたからな、綺麗好きなんだろう。
「ネコちゃん、おいで」
子供たちが庭に駆けていくと、レオも後を付いていった。
シスターのほうは汗を掻きながら、オレの治療を終えた。
「これで傷は塞がりました。でも貧血には気を付けてくださいね」
「ありがとうございます。これは子供たちのために使ってください」
断りにくいように子供たちのためと言って寄附をした。
「こんなに……ありがとうございます! 教会やもあちこち壊れていて、子供たちが怪我をしそうだったんです」
ならちゃんと金を貰って治療をしたほうがいいと思うが。
教会と子供たちの服や靴がボロいのに気が付いて、300万リラほど寄進した。
シスターの服も継ぎ接ぎだらけだし。なんか居たたまれない。
回復魔術を習おうかと思ったが、なんか子供の世話で忙しそうだし、自力で頑張るか。
シスターはお金を金庫にしまいに行くそうなので、オレは庭に出てレオを迎えに行く。
「レオちゃん気持ちいい?」
「にゃわ~」
桶の中でワシャワシャ洗われてるレオは、桶の縁にグデ~としていた。
「あっ、にーちゃんが来た!」
「剣かっこいい」
「俺も冒険者になってシスターにラクさせてやるんだ!」
男の子には剣だな。教会の中は明かりを節約してるからか暗いしな。見えなかったのか。
なんにしても、敵を倒せば強くはなれるんだから、無理さえしなければ大丈夫だろう。
「レオ、あんまり長く浸かるなよ」
井戸から汲んだ水だし、いまの時間帯だと寒いから風邪を引く。
子供たちはオレにも抱っこをせがむ。甘えたいのに親がいないんじゃな。
シスターは1人しかいないようだし、神父は金策のために出掛けてるらしいし。
全員に肩車をして走り回っていたら、シスターがニコニコ見ていた。
恥ずかしくなったので、走るのをやめて誤魔化しておく。
「さ、もういいだろ? 走るのは疲れる」
子供に頼まれて仕方なくという感じを全身でアピールする。
「自分で走り出したのに……」
「ぜんぜん疲れてないじゃん?」
空気の読めない子供たちだな! よけいシスターに笑われたぞ。
子供たちに男のプライドは世界の何よりも高価なんだということを教えておいた。オレはけっして安売りしないのだ。
子供たちに日本の遊びを教えて、一緒に遊んだあと、一緒に食事をして宿に帰った。
真由がいれば日本料理を作ってくれるんだけどな。真由のメシが恋しい。
宿に帰ったオレは、服を脱いで体を拭いた。
風呂に入れないのは残念だけど、風呂の付いた宿はこの街にはない。
MPが増えたら、いつでも風呂に入れる道具を作ってやるからな。
ボロボロになった服は捨てるしかないな。
新しい服を出して着替えていると、レオが申し訳なさそうにしていたので、尋ねてみた。
「そんな顔してどうしたんだ?」
耳まで垂れて可愛いな。
「ボクだけ水浴びをしたから」
「しょーもないことを気にするな。お前はオレが1人で楽しんだとして、オレを怒るか?」
「怒るわけないです」
にゃを忘れるくらい落ち込まんでも。捨てられたトラウマかな。
「じゃあオレも怒るわけないだろ。お前はオレを大事に思ってるみたいだが、オレだって大事に思ってるんだから。2度とアホなことを気にするなよ?」
顔と耳を上げて、恐る恐るオレを見る。
オレが笑顔だったことに安心して、レオも笑顔になった。
飛び付いてきたレオを抱っこして、撫で回していると、MPが全回復したので、装備品を作ることにした。
次の日に宿を延長した。
その日から剣の修行と装備品の作成をして準備を整えていった。
冒険者ギルドの先輩たちから魔物について学んだり、図書館に行っていろんな情報を手に入れたり、魔術の練習をしてみたりした。
情報収集もしてみたが、オレみたいな平たい顔の4人組を見なかったか聞いたら、お前の顔は別に平たくないじゃないかと言われた。
黒髪も珍しくないし、どうすればいいのか。勇者だろうけど、言い触らして仲間に何かあったら困るし、情報収集は上手くいかなかった。
レベル上げに必要な準備は整ったし、宿は今夜までしか部屋を取ってない。
明日は少し遠出をしてレベル上げだ。何日かキャンプをして魔物と戦おう。
「レオ~、お前の装備品を付けてみるからこっちに来てくれ」
窓際で寝そべっていたレオが、トコトコ歩いてオレの膝に乗った。
「まずは胸当てだ」
背中は守れないので意味が薄いかもしれないけど、猫の背中は自由に動かせないと、動きが鈍るからな。
胸当ても最小限、急所を守れる大きさだ。ミスリル製で薄く軽くして、付与効果で全身の防御力を多少上げてある。
「動きにくくないか?」
「ぜんぜん大丈夫にゃ!」
部屋中を跳ね回る。大丈夫そうだな。
「次は爪だ。歩く時に邪魔にならないように普段は引っ込んでるんだ。腕を振る時に飛び出るから気を付けて使えよ」
「はいにゃ!」
手の甲の部分に付けるので、肉球の機能性を邪魔したりしない。
レオが2本脚で立ち上がり、腕を振るたびにミスリルの爪が飛び出す。
すぐに引っ込むから便利だけど、複雑な機能を付けたせいでMPが足りず、付与効果はない。
「ごしじんさま、ありがとにゃ」
「どういたしまして」
オレのも作ってあるし、1度全部の装備品を身に付けてみよう。
まずはミスリルの糸を編み込んだ上下の服と、ミスリル糸製のロングコート。
ロングコートには裏地に、ミスリルの板を貼り付けてある。急所への防御力はかなり高い。
これで首から上以外はかなり安全になった。軽くて動きやすいのもいい。
ブーツもミスリル板で補強してあるので、蹴りの威力もある。
あとはミスリル製のバスタードソードだ。2本作ったから、一刀流でも二刀流でもいける。
左腰に2本とも帯剣している。付与効果で耐久性を高めてある。
あとは剣の腕さえあれば、ミスリルゴーレムだって斬れる。
「ごしじんさま、凄くかっこいいにゃ!」
「それだけじゃないぞ? 黒いからレオとお揃いだ!」
飛び付いてきたレオを抱っこして、2人ではしゃいだ。
2人とも真っ黒だから、これから泊まりで魔物退治する時に、暗闇に紛れて襲える。
そして目玉商品。もとい一押しの道具は、魔力を込めると、いろんな具のおにぎりが出てくる神器だ。これでおにぎり食い放題だ。
ちなみにこの神器の名前は、裸○大将のお弁当箱だ。
魔力を増やして、おにぎり以外も出せる神器を作ってやるからな。カレーが食いたい。
次は0時です。




