やっぱり待ち伏せしてる奴
本日3話目です。
何ヵ所か回るが、レオの鼻があるので安心して近付ける。
他にも採取する人がいるんだろう。数が少なくて、なかなか集まらない。
多めに採取しても、1つのパーティーの買い取り上限は決まっているし、1日経つと品質が下がるから、稼ぎたいなら毎日来るしかない。
そのせいで薬草採取ポイントに、あまり残ってなくて、何ヵ所も回るはめになる。
ちなみに、薬草採取は仲間のいない新人が請けることが多い仕事だ。
新人は武器もない場合がほとんどだし、パーティーを組もうにも、できる仕事は限られているから、組む利点が少ない。
村や街の友だちと組む場合も、やっぱりコツコツ薬草で稼ぐために1人のほうがいいし、武器があるなら5~6人で組んで討伐依頼を請けるからだ。
乱獲を防ぐための買い取り上限なので、パーティー向きではないのだから、魔物のほうも狙い目なんだろう。
「ごしじんさま。草むらの中からコボルトの匂いがするにゃ」
やっぱりいたか。
人間の肉が好物で、連携する知能があり、なおかつ集団で行動するので確実に人間が食えるんだから、そりゃコボルトが待ち伏せるよ。
隠れているコボルトに気付かないで、採取ポイントに入ったら、あっという間に囲まれてエサになるんだな。
気付いても新人だと逃げられないだろうし、結果は同じだな。
「ボクがコボルトを追い立てるにゃ。ごしじんさまは止めを刺してくださいにゃん」
「レオのスピードなら大丈夫だと思うけど、十分に気を付けるんだぞ?」
「はいにゃ」
レオはチーターみたいな速度で走り、草むらに突入していった。
「ギャン!」
「ギャオ!」
「グオォン!」
次々と草むらから尻尾を押さえて飛び出してくるコボルト。
オレはすぐに近付いて首を斬り裂く。陣形がバラバラになっているので、囲まれることもなく倒していける。
遠吠えで仲間に合図を出すが、増援が来るまでに倒せそうだ。
宮本武蔵の知識が少しだけあるので、かなり効率よく倒せた。
そう言えば、オレは宮本武蔵は知ってるし、二天一流の名前も知ってるが、詳しい流儀なんか知らないし、五輪書なんか見たこともないのに、なんで知識があるんだ。
変身したって元々ない知識が手に入るのは変な気がするな。
ひょっとしたら空想転化は、オレの空想した通りの能力を使えるのか?
オレは宮本武蔵が剣聖で、凄く強いというイメージだし。
オレの持つイメージ通りの能力を持った神や英雄になれるのか?
知識があれば、そのイメージは強くなるだろうけど、他の空想ができないから、知識通りの力しか発揮できないのかも。
知識がありすぎると、空想の力よりも、本に書いてある力しか使えないかもな。
宮本武蔵に詳しくなくてよかったな。おかげでオレは剣の知識が手に入った。
空想魔法について、少しだけ理解を深めることができて、ラッキーだったな。
増援のコボルトが来たようだし、考えるのはここまでにして、剣の修行を兼ねた討伐だ。
体がイメージ通りには動かないけど、剣を振る時の腰のひねりや、踏み込みのタイミング、斬りやすい場所なんかが解る。
よく知らない宮本武蔵に変身したのは、正解だったな。
ただ剣が当たらないインプに当てようと思い付いた剣の達人が、宮本武蔵だっただけなんだが。
それでも知識だけでは上手く動けず、少しずつ攻撃を受けていた。
オレは上手くできなくても、イメージ通りに剣を振ることを繰り返して、体に動きを馴染ませていった。
HPが50くらい減ってるな。
それほど重傷ではないので心配いらないと思うが、怪我はそのままにして解毒ポーションを作って飲んだ。
傷やMPの回復だと副作用が怖いが、解毒なら頻繁に飲んでも大丈夫らしい。
なんにしても、まだ修行不足だな。
レベル上げよりも先に技術を物にしたほうがよさそうだ。
まだ生きていたコボルトに止めを刺して回っていたレオが、オレの所に戻ってきた。
「ごしじんさま。終わりましたにゃ。傷は大丈夫ですかにゃ?」
「大丈夫だ。それより、コボルトは常時討伐依頼が出てる。毛皮が売れるらしいけど、耳だけ切り取っていこう」
手分けして耳を集める。
2つで1匹分の討伐報酬が出る。集め終わると57匹分だった。
ゴブリン、コボルト、オークはネズミみたいな速度で殖えていくらしいから、この数も納得だ。
ゴブリンは右の耳、オークは鼻が討伐の証拠になる。
コボルトの場合は、左右の耳の形がほぼ同じだから、2つで1組だ。
「レオ、お疲れ。それにしても57匹も倒してレベルが1しか上がらないなんてな」
「もっと強いのを狙わないとダメにゃ」
戦闘経験にはなるからいいんだけど、数が多くてやっかいだから、強いの5匹倒すほうがいいかもな。
装備を整えるまで街で修行して、装備を全部作り終えたら戦いに行くかな。
そう決めたオレは、急いで薬草を集めると、街に帰った。
3回待ち伏せに遭い、レベルが1上がったからラッキーなのかアンラッキーなのか、複雑な思いを感じながらの帰還だった。
門番に挨拶をして街に入ると、詰め所から見覚えがある兵士が出てきた。
「くそっ! あの変態め!」
「どんな体力してるんだ!」
変態で思い出した。
街に入る前に変態を追い掛けていた兵士の2人だな。逃げられたか。やるな変態。
少しほっこりして冒険者ギルドに行くと、酔った冒険者が近寄ってきた。
「ボウズ。また血塗れじゃないか」
「ちょっとコボルトに待ち伏せされて」
「なんだって!」
事情とオレの予想を話すと、薬草採取を新人に勧めるのはやめたほうがいいと拡がり、貼り紙までされた。
オレは受付でコボルトの耳と薬草を出すと、職員に驚かれた。
イスに座ってレオを撫でて時間を潰し、呼ばれたので受付に行く。
「お待たせいたしました。コボルト91匹分と薬草で10万1000リラです」
コボルト1匹で1000リラだ。
掲示板には税金とかを引いた額が掲示されてるから、計算ができない冒険者でも安心だ。
こういった常時討伐依頼は、国からの依頼なので、そもそも税金を引いた額が冒険者ギルドに渡されるらしい。
そこからギルドが仲介料を引いて掲示板に貼られている。
「それと、戦闘能力が高いようなので、ブロンズランクになります」
もう上がったな。リトルドラゴンの素材も、商業ギルドの人に渡したら、冒険者ランクを上げて貰えると言ってたしな。
ゴールドランクから試験があるようだし、プラチナランクまでは強さが優先なんだな。
「ありがとうございます。怪我の治療ってどこでやってます?」
「病院で普通の治療ができますけど、教会に行けば回復魔術で治して貰えますよ。少し高いですけど」
病院だと薬を塗られてから、包帯を巻いたりする普通の治療と、あとは病気の治療もしているらしい。
教会だと回復魔術で回復して貰えるので、すぐに回復するらしい。
ポーションは本人の自然治癒力を無理やり引き出すのに対して、回復魔術は治癒力を与えるらしいので副作用がないらしい。
オレも覚えられるなら覚えたいな。とりあえず病院の場所を確認してから、教会に行って治して貰おう。
そこでお布施でもして教えて貰うか、図書館か本屋で魔術書を手に入れるかな。
まず病院に行く途中で、本屋を見掛けたので寄り道してしまった。
回復魔術の本を10万で買ったので、今日の稼ぎは消えたな。
パラパラとページを捲りながら歩く。人が少ないからぶつかる心配も少ない。
病院の場所を確認すると、けっこう小さく、病院というより診療所という感じだ。
次は教会まで行く。
孤児院も兼ねてるのか、子供たちの声が聞こえる。
「ごしじんさま、笑顔になってますにゃ」
ぽつりと呟いたレオの声で、治療に来たことを思い出して、教会に入っていった。
ステータスです。
レベル17 ソータ・アイサカ
HP 168 MP 360
筋力 81 体力 89
敏捷 61 器用 72
魔力 108 魔防 71
レベル16 レオ
HP 48 MP 0
筋力 24 体力 92
敏捷 126 器用 69
魔力 0 魔防 30
名前はギルドの登録の時に変化しました。
HPは怪我が治らないと、少しずつしか回復しません。
ステータスの伸びは、修行のおかげです。
特に器用の伸びは、剣の知識が手に入り、意識して修行した結果です。




