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六話 離婚の危機?

 青太が、ラノベの新人賞に十七年間も落選し続けた理由はいいとして。

 みどりから、ある質問が飛ぶ。


「ねえ、一番根本的なこと聞いてもいい? この小説のテーマって何? 青太は、何を書きたいの? 私は、『禁断のラブストーリー』って単語を見て、大っぴらにはできない関係になってしまった主人公とヒロインの恋愛だと思ったわ」


「一要素ではあるけど、主軸じゃないかな」


「『禁断のラブストーリー』なのに? 主人公とヒロインが、悩んで、迷って、すれ違って。愛しているから別れたくないけど、愛しているからこそ別れるべきかもしれないっていう葛藤。好きだけど誰にも認めてもらえない、親や友達にすら言えない、切ない関係。私が想像したのは、そういう感じのストーリーよ。だから、三十七歳の主人公と十五歳のヒロインっていう、問題しかない設定にも突っ込まなかったのに。違うの?」


「違う、違う。そんな、辛かったり苦しかったりする展開なんてない。もっと、明るく楽しい、気軽に読めて元気になれる話だ」


「……大人が未成年に手を出すのは、犯罪よね。周囲の人だって猛反対するし、単純に愛し合ってますってだけじゃ許されない。最悪、主人公は逮捕されるわよ。会社もクビになって、性犯罪者の前科を背負って、人生台無し。なのに、辛くも苦しくもなくて、明るく楽しいだけ? 非現実的過ぎるでしょ」


「小説なんだし、おっさんが女子高生にモテて、気軽に恋愛してもいいじゃん。その女子高生が、スタイル抜群の美少女でおまけに処女だったりしてもいいじゃん! フィクションの世界でくらいは、おっさんの夢を守るべきだ!」


「さて、と。110番……」


「通報しないでくれ!」


 おもむろに電話を取り出したみどりに、青太はすがりついて止めた。

 まさか本当に通報するつもりはないと思うが、みどりの目は笑っていない。


「通報はやめてあげるけど、代わりに明日、役所で離婚届をもらってくるわね。離婚事由は、夫がロリコンの性犯罪者だったから。十分な理由になるわよね。慰謝料もたっぷり請求するから、覚悟しておいて」


「ごめんなさいごめんなさい! 離婚は、離婚だけは勘弁してください!」


 昨日に引き続き、二日続けての土下座を敢行した青太。

 夫の威厳も何もあったものではない。

 三十七歳のおっさんが、女子高生云々と言い出した時点で、威厳なんぞ地に落ちたようなものだが。


「……青太、私に隠れて、援助交際とかしてないわよね?」


「してないよ! 俺にそんな度胸があるわけないだろ! 現実じゃできない行為を、小説に書いて慰めにしてるんだよ!」


「つまり、できるなら女子高生とニャンニャンしたいと。犯罪ね」


「みどり、ニャンニャンって表現は相当古い……いえ、なんでもありません」


「まったく、謝るなら言わなければいいのに。冗談じゃなくて、犯罪行為だけは勘弁してね。犯罪者の夫を支える妻とか、物語じゃないんだから、絶対にごめんよ。青太を支えたりせずに、見限って離婚するから。私は、青太の好きな小説のヒロインみたいに、健気でもなければ一途でもないの」


「しないって。ミステリ作家は、別に犯罪者じゃないだろ? 小説に犯罪行為を出したからって、小説家自身に犯罪願望があるわけじゃない。女子高生にモテて喜ぶのは、あくまでも小説の主人公である栞木(しおりぎ)樹梨(じゅり)だ。俺は関係ない」


「関係ないことを祈るわ」


 みどりは半信半疑のようだ。

 青太の信頼度は、今日一日でガクッと減ってしまった。


「青太のせいで脱線ばかり。あのね、明るく楽しくをモットーにしたいなら、変な要素はなしにした方がいいと思うわよ。三十七歳と十五歳を恋愛させると、どうしても重くなりがちだから、冗談の範疇で抑えておくの。ヒロインも、主人公を好きになるんじゃなくて、主人公の書く小説が気になってるだけにするとか」


「それだと弱くないか?」


「非現実的なよりはマシ。歳の離れた友人で十分じゃない。何年かすれば、一歩進んだ関係になるかもって期待を持たせておけばいいでしょ」


「それもありっちゃありか。みどり、凄いな。小説家になれるんじゃないか?」


「私が凄いというよりも、青太がダメなんだと思う」


 たった千文字のプロットで、ここまでダメ出しをされてしまったのでは、違うとも言えない。

 どうやら、話の構成を根本から見直す必要がありそうだ。


「よし、さっそくこれから修正に入ろう。修正したら、また見て欲しいんだけど、いいか?」

「仕方ないわね。引き受けたんだし、最後までやるわよ」


 みどりは頼もしいことを言ってくれた。

 他人に悪い部分を指摘してもらうやり方は初めてだが、いいかもしれない。

 青太では気付かない指摘、出てこないアイディアが、どんどん出てくれる。

 これまでにない、完成度の高い作品になりそうな予感がある。


「ああ、そういえば、指摘じゃないけど一つ聞きたいことがあったわ」


「なんだ?」


「主人公のモデルは青太でしょ? なら、ヒロインのモデルは私なのかなって」


「あはははは! ないない! あるわけない! ヒロインは『美少女』で『女子高生』で『スタイル抜群の巨乳』だぞ。『平凡な容姿』で『三十路のおばさん』で『Aカップ』のみどりじゃ、モデルにならな……」


「ふんっ!」


 まるで格闘家のような、腰の入ったいいパンチが、青太の腹部に吸い込まれた。

 小柄な割に、鋭く重い一撃だった。


「余計なお世話よ! 何よ、三十七歳の主人公が許されるなら、三十路のヒロインが許されたっていいじゃない! 貧乳のヒロインがいたっていいじゃない!」


 よほど悔しかったのか、みどりが叫んだ。

 青太は、殴られた箇所を押さえながら、それでもみどりを否定する。


「ひ……貧乳はありだ。大小取りそろえてあると、なおいい。けど、三十路のヒロインはなしだ。誰も喜ばないし、得もしない。需要ないから、そんなもん書いたら一次選考落選確実だ」


 この状況下で、このセリフ。

 ある意味、男らしいと言えよう。


「悪かったわね、需要なくて!」

「いや、みどりに需要がないとは言ってない。俺はみどりが好きだぞ。ただ、ラノベとしては、三十路のヒロインはなしってだけで」


 青太は、書くだけではなく、数多くのラノベを読んでいるが、三十路のヒロインは寡聞にして知らない。

 ハーレムもので、ヒロインが何人もいる時には、年長者としてやや歳を取ったヒロインがいることはある。


 が、それでもせいぜい二十代前半から半ば程度だ。

 おまけに、ヒロインとは名ばかりで、若いメインヒロインに押されてしまう脇役に近いものがある。

 ましてや、メインヒロインともあろう女性キャラの年齢を三十路にするのは、バカげているとしか言えない。


「いくつか例外はあるけどな。三十代や四十代なのに、外見はどっからどう見ても十代の美少女にしか見えない若作りの女性とか。みどりみたく、実年齢より下に見えても、せいぜい数歳ってんじゃ意味ないよ」


「それ、若作りの範疇を超えてない? 人間辞めたの?」


「ラノベの年増ヒロインとしちゃ、必須技能だぞ。主人公やヒロインの母親とかが、これに当てはまる場合が多いな。なんなら処女にしたっていい」


「……うん、色々と理解不能ね。母親がヒロイン? 外見年齢十代の美少女? おまけに処女? 頭平気?」


「ラノベだと普通だ。あとは、エルフとかの長命種族のヒロインが、数百歳、数千歳ってことはある。エルフ以外でも、竜族とか精霊族とか、人間以外の種族はファンタジーにつきものだ。主人公が人間だと、超歳の差カップルの誕生ってな」


「そっちはまだ理解できるかも。エルフは、私でも知ってるくらいメジャーよね」


「その場合は、設定上はとんでもなく年上だけど、外見は十代の美少女で、精神的にもババ臭くなくて若々しかったりするんだよ」


「……途端に理解不能になったわ。結局、十代の美少女が大正義ってこと?」


「まさにその通り。理解不能って言いながら、理解できてるじゃん。みどりが今言ったことが、唯一絶対の解だ。普通の人間で、三十路のヒロインってのは、少なくともラノベじゃあり得ない。そんな話を書く作者がいたら、頭おかしい。狂ってる。自分の趣味に走ってどうすんだよ。熟女である点が売りのアダルト作品でもないのに」


 青太は、みどりがラノベのヒロインになれない理由を、懇切丁寧に言い聞かせた。

 そのせいで。


「明日、離婚届けを……」

「すんませんっしたあっ!」


 本日二度目の土下座をする羽目になってしまった青太であった。

 口は災いの元。皆さんも気を付けましょう、という教訓でしたとさ。

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