四話 目を背けずに、向き合おう
本日二話目です。
キャラクターの名前がおかしいというのが、一つ目の指摘。
そして、二つ目の指摘は。
「主人公の栞木樹梨が、青太自身をモデルにしてるのは分かるし、それはいいと思う。けど、年齢が三十七歳っていうのはあり? ライトノベルって、子供が読む物なんでしょ? 主人公が三十七歳とか、受けないんじゃない?」
「俺も悩んだんだが、最近はラノベ読者の年齢層が高くなってるし、おっさん主人公の作品も多い。もちろん、十代の子供を主人公にした方がいいんだろうけど、そんなのは今まで散々書いたんだよ。で、落選した」
「落選の原因は、主人公が子供だったからなの?」
「多分、違うな。そんな指摘はされたことない」
「それなのに、主人公の年齢を上げるなんて、方向性が間違ってない?」
「ぶっちゃけると、三十七歳にもなったら、子供の気持ちを忘れつつあってさ。うまく書けないんだ。だったら、一番書きやすい主人公にしようって思った」
「そりゃあね、もうじき親になろうって人の精神年齢が子供だと困るけど。でも、子供の気持ちが分からないって、それライトノベル作家として致命的じゃない?」
みどりは、言ってはならないことを言ってしまった。
青太だって、薄々勘付いてはいた。
十代の主人公を書くのが辛くなるなど、ラノベ作家を目指す者としてあってはならないのではないか、と。
「目を背けて見ないふりをしていたが、向き合う時がきたのかもしれないな。ふっ、やれやれ、これが運命か」
「意味もなく格好つけたって、都合の悪い事実は消えないわよ。青太はアレよね。中二病、だっけ? 三十七歳のくせに」
言ってはならないこと、第二弾。
自覚はある。いい歳をして、中二病だという自覚は。
ラノベ作家の業なのか、常日頃から妄想ばかりしている性質だ。
なにせ、いまだに夢想する。
ラノベの主人公ばりに大活躍する自分の姿を。
青太も言ったように、最近ではおっさん主人公も多い。
青太の作品の主人公、栞木樹梨は三十七歳の設定だが、これは若い方だ。
四十歳、五十歳なんて主人公も、ざらにいる。
暴論になるが、おっさんになると人生終わりだ。
若者のように成長は見込めず、衰退する一方。
若い女性と恋愛もできない。夢や希望も抱けない。
仕事は辛いし、上司は無茶ばかり言うし、部下は使えないし……
家庭では、妻に冷たくされ、子供は反抗期で、居場所がなく……
身を粉にして働いても、誰からも認めてもらえない。
現実なんてクソ食らえだ!
精神を病み気味な中年をターゲットにした物語だ。
おっさんの大逆転や、おっさんの大活躍を描いている。
おっさんなのに、若い女性にモテモテ。アンド、美少女ハーレム。
おっさんなのに、信じられないほど成長する。
おっさんだから、無知な若者に説教かます。
おっさんだから、経験豊富で頼られる。
おっさんの優位性に、若者ならではの特徴を入れ込んだ、一挙両得のお話。
実は、青太も大好物だったりする。
おっさん主人公と自分を重ね合わせて、こんな風になりたい、と願うのだ。
これを中二病と言わずして、なんと言うのか。
とにかく、だ。何が言いたいかというと。
「俺が中二病なのは認めよう。子供の気持ちが分からなくなってるのがよくないのもな。だが、分からないなら分からないなりに、やりようはある。おっさん主人公を書けばいい。俺みたいなおっさんの欲望を、前面に押し出した小説だ」
「それ、現実に向き合ったって言えるの?」
「向き合ってるじゃないか。自分に何ができて、何ができないかを把握し、できることをやろうとしてるんだ」
「物は言いようというか……つまり、三十七歳の主人公はありってこと?」
「ありだ。夢を見るのは、若者の特権じゃない。おっさん主人公を書いてくださる作家様は、おっさんに夢を見させる素晴らしい仕事をしてるんだぞ」
「ああ……頭痛い……」
青太としては、変なことを言ったつもりはないのに、みどりは頭を抱えてしまった。
「三十七歳のおっさん主人公は不満か?」
「不満。最近の流行は知らないし、これが受けるなら……それでも、変えられるなら変えてもらいたいけど。学生にしろとは言わないから、せめて新卒社会人は?」
「うーん……変える……変えるねえ……」
主人公を三十七歳にする意味は、そんなにない。
二十歳そこそこにしても、物語は成立する。
だが、それは中途半端だと思うのだ。
「俺が思うに、中途半端が一番よくない。若くするなら若くする、おっさんにするならおっさんにする。どっちかに振り切らないとな」
「なんで?」
「需要の問題だ。中高生が読むなら、主人公も若い方がいい。感情移入しやすいからな。おっさんが読むなら、同じ理由で主人公もおっさんの方がいい。新卒社会人って、中高生にもおっさんにも受けない、一番中途半端な年齢だと思う」
「……意外とまともな答えだったわ。びっくり」
みどりは失礼だ。
青太も、だてに長くラノベを書いていない。昨今の売れ筋はチェックしているし、なぜ売れているのか、どこが受けているのかも考察している。
あくまでも、青太の考察であって正しいとは言い切れないが、大きく外れてもいないと思う。
「せっかく指摘してくれて悪いが、俺はおっさん主人公でいくつもりだ」
「……はいはい」
青太に譲る気がないと分かったからか、みどりが折れてくれた。
主人公の年齢への突っ込みは、これで終了だ。
続いて、三つ目の指摘。
「主人公が喫茶店に原稿を忘れて、ヒロインが見つけた。都合よすぎない?」
物語のご都合主義に言及したものだった。
「大体、どうして主人公は、自分の小説を印刷して持ってたの? パソコンで書いてるんじゃないの? それとも、喫茶店で作業する時は手書き?」
「パソコンだろうな。スマホやタブレットかもしれんが、手書きではない」
「作家志望の人って、パソコンで書いてるのに、かさばる原稿用紙も一緒に持ち歩くものなの?」
「人それぞれだろうけど、今は全部電子データになってるし、印刷する機会なんてほとんどないんじゃないか? 実際、俺は全く印刷しなくなったし」
昔と違い、新人賞への投稿もウェブからできるようになった。
何百枚も印刷して郵便局に持って行かずに済むので、楽なものだ。
「ダメじゃない。普通は印刷しないはずなのに、どうして主人公は印刷して、しかも喫茶店にまで持って行ってたのよ。不自然だわ」
「絶対に印刷しないわけじゃないぞ。印刷した方が読みやすいとか、ペンでチェックしやすいとかはある。現に、今の俺も印刷してみどりに読んでもらってるじゃないか。主人公も、自分の原稿を紙上でチェックしたかったんだよ」
「それなら、分からなくもないかな。てっきり、物語を展開する上でヒロインに小説を見てもらうのが必須だから、強引に原稿用紙を登場させたのかと思ったわ」
「ギクッ」
「ギクッって、コラ」
半眼になっているみどりに視線を合わせていられなくなり、青太は明後日の方向を向いた。
実は図星だった。みどりが言った通り、話を展開させるために、流れの不自然さに目をつぶって原稿用紙を持ち出したのだ。
「私の指摘が正しいなら、もう少し自然にした方がいいんじゃない? 主人公の席に料理を運んできた時に、たまたまパソコンの画面を見ちゃった、とか」
「自然かもしれないけど、チラッと見ただけじゃ、次につながらない。一目見ただけで、『この人の作品面白い! 最高!』って、そっちの方がおかしいじゃん」
「そこも突っ込みたかったのよね。新人賞に落ち続けてる人間の作品が、大絶賛するほど面白いって、おかしくない?」
三つ目と同時に、四つ目の指摘もあった。
「それも、やっぱり話の展開上……」
「というよりも、青太の願望じゃないの? 自分の作品を褒めてもらいたい、認めてもらいたい。その気持ちが強く出たせいで、主人公を褒めさせて自分の代わりにした。違う?」
「……まあ、そういう側面も、あるようなないような」
「他人からすれば違和感しかないから、やめた方がいいわよ。客観的に見て、素人の作品が、絶賛するほど面白いわけないじゃない。『何これ、くだらない』って思われても不思議じゃないんだから、話の展開上必要でも、せいぜい『意外と悪くないかも』くらいが限界でしょ」
ヒロインが原稿を見つける展開も、主人公の作品を褒めちぎる展開も、どちらも不自然極まりないという指摘だった。
なんとも的確で、ぐうの音も出ない。
青太は、みどりのパンチに打たれる一方だった。
「次、えっと、何個目だっけ?」
「な、なあ、みどり。指摘してくれるのはありがたいが、一旦休憩しないか? みどりも疲れただろ? ほらほら、肩でも揉むからさ」
「あ、ちょっと、青太! やめ……やぁだ!」
この調子でダメ出しされ続けては、青太の精神がもたない。
強引に話を打ち切って、誤魔化すようにみどりの肩を揉み始める。
「意外と凝ってるな。こことか、気持ちよくないか?」
「い……嫌、なのにぃ……気持ちいい……」
みどりの発言がエロい。恥ずかしくて嫌なのに、でも気持ちよくて。
青太は、嫌がる妻の肉体を蹂躙するのであった。
……ただのマッサージですよ。




