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十八話 日本中のラノベファンに喧嘩を売るお話

本日二話目です。

 みどりのお父さんの武勇伝は、確かに面白かった。

 だが、青太(あおた)の作品に使えるかとなると、話は別だ。

 主人公を入院させるのは、物語の展開としてあまりにも唐突だ。


「使えないのが惜しいな」

「残念。面白いと思ったのに」

「面白いことは面白いよ。ただ、できれば今の作品で使えそうなネタがいいんだけど。女子高生時代の面白エピソードとかない?」

「女子高生時代か。いざ聞かれると思い出せないわね。ちょっと待って」


 みどりが考え込む。

 どのような話が飛び出すのか、青太はワクワクしながら待っていた。

 しばしの黙考があり、みどりはゆっくりと口を開く。


「高校生にもなると、女子は化粧をし始める子が多いわよね。人によって違うから、小中学生の頃から化粧してた子もいれば、高校生ですっぴんの子もいるけど」


「いたいた。化粧してる女子は、結構いたな」


「でも、ほとんどの学校は校則で化粧が禁止になってるから、ばれたら注意されるのよ。先生に怒られないように、大抵の子は軽く化粧するだけにしておいて、何か言われても『化粧してません』って言い張るの。ただ、中には言い訳がきかないくらいにバッチリとメイクをしちゃってる子もいてさ。そうすると、生活指導の先生とかにお説教食らうわけ」


「情景が目に浮かぶな。俺の学校でも、そういう女子はいたっけ」


 ギャル、とでも言うのだろうか。流行に敏感で、おしゃれな女子。

 どの学校にも、クラスにも、何人かはいるものだ。


「一年生の時のクラスメイトに、バッチリメイクの子がいたのね。すっぴんでも可愛いのに、一度化粧を覚えちゃったら、すっぴんじゃ学校に通えないって言ってたわ。当然注意されるんだけど、ある時、生活指導の先生がこう言ったの。『化粧とかおしゃれにばっかりかまけてたら、勉強がおろそかになるぞ。学生の本分は勉強だぞ』って。ちょっと嫌味な言い方でね」


「言い方はともかく、正論なのは確かだな。高校生くらいの年齢だと、反発したくなるだろうけど。うざいって」


「そうそう。その子も反発してさ。生活指導の先生に口答えしたのよ。生活指導の先生って、学生に舐められないように、歳を取った男の先生が多いでしょ。それなのに、堂々と反論したの。『私、成績いいです』って」


「その子、成績よかったのか?」


 青太の偏見かもしれないが、おしゃれに夢中なギャルは頭が弱そうに思う。

 おしゃれにかまけ、流行を追いかけることに夢中で、勉強は二の次、三の次。

 まさしく、生活指導の先生が言う通りの子が多いのではなかろうか。


「学年トップ。ちなみに、有名国立大学に現役合格したわ」

「凄いな。偏見を持ってたこと、謝らないと。でも、面白いエピソードか?」


 生徒が先生をやり込めたという話は、子供には受けがいいかもしれない。

 ラノベは基本そうなっている。

 子供の主人公たちが大活躍し、大人はどちらかというと邪魔者扱い。

 無駄に歳を重ね、頭が固くなった分からず屋の大人を、子供が論破するのだ。


 ただ、青太がおっさんだからかもしれないが、インパクトは薄いように感じた。

 勇者(おとうさん)の話の方が面白いと思う。


「本題はここから。その子、担任の先生を巻き込んだのよ。担任の先生に『私、成績いいですよね』って聞いて」


「……すっげえ聞き方だな」


「成績がいいのは事実だし、担任の先生も違うとは言えない。でも、肯定もしにくい。生活指導の先生は、教師として偉い立場にあるのに、当時の担任は二十代半ばくらいの若い男の先生だったから。『俺を巻き込まないでくれ!』って顔に出てて、みんなして同情してたわね。若くて爽やかな先生で、女子に人気あったの」


「けっ。女子高生にモテモテで、羨ましいことで。ロリコン野郎が!」


 青太は、器の小ささを存分に発揮し、女子高生にモテていたという先生にあらぬ罪を着せて罵倒した。

 イケメンは死すべしと思っている青太にとっては、当然の反応だ。


「青太の嫉妬は置いておいて。その場はなんとか収まったんだけど、以降も懲りずに化粧をして注意されて、そのたびに先生を巻き込んでたのよ。進級して担任じゃなくなったのに、なぜか同じ先生を巻き込み続けてね。成績はいいけど問題児だったの。で、八年後くらいかな。問題の女子生徒と先生は、結婚したわ」


「っておい! 話飛び過ぎだろ! なんでいきなり結婚につながるんだよ!」


「私も詳しくは知らないわよ。あの二人が結婚したって、同級生から教えてもらっただけだもの。なんでも、卒業式の日に、女の子の方から告白して付き合い出したとか。先生のこと、ずっと好きだったんだって。ロマンチックじゃない?」


「先生はオッケーするなよ。マジでロリコン野郎なのか?」


「三十七歳の主人公と十五歳のヒロインの物語を書いてる人が、何言ってるのよ」


「フィクションと現実は別物だろ。現実で女子高生に手を出してどうするんだ」


「だから、女子高生じゃないってば。卒業したんだし。女子大生よ」


「知るか! 女子高生でも女子大生でも、どっちでも羨ましいものは羨ましいし、けしからん話だ!」


 倫理や常識に反するからではなく、義憤に駆られているわけでもなく、嫉妬百パーセントの気持ちから全否定する青太だった。


「青太の嫉妬はやっぱり置いておいて。女子高生の恋愛事情だけど使えない?」

「どうやって使うんだよ」

「それはもちろん、ヒロインの清宮寺(せいぐうじ)深世流(みぜる)と先生がいい関係に? 四分校殿(しぶんぎょうでん)鳥居(とりい)でもいいけど。主人公にだって、恋のライバルは必要じゃない?」


 みどりは、とんでもないことを真顔で言い切った。

 ラノベを書く者、読む者として、青太には看過できない。


「みどり。お前は今、日本中のラノベファンを敵に回したぞ。ヒロインが主人公以外の男キャラになびく展開なんて、絶対に許されないんだ。サブヒロインも一緒。サブだからって、別の男とくっつけても、読者は喜ばない。メインヒロインが好きな読者もいれば、サブヒロインが好きな読者もいるんだ。主要女性キャラは、もれなくフリーでなきゃいけない。ラノベ業界の鉄の掟だぞ」


「気持ち悪い掟ね。つまり、女性は全員、主人公に惚れろってこと?」


「惚れなくてもいい。主人公の体は一つなんだから、ハーレム系でもない限りヒロイン全員をものにするのは無理だ。法や倫理の問題もある。でも、だからって別の男とくっつくのは、絶対にダメだ。主人公と結ばれる可能性が消える。可能性は残しておかないといけない。ヒロインはフリーにすべきなんだ」


「主人公以外と付き合っても、別れるかもしれないじゃない」


 みどりは、とんでもないことを再び言ってしまった。


「みどり。お前はまたしても、日本中のラノベファンを敵に回したぞ。推定一億人のラノベファンは激怒してる。いいか、ラノベのヒロインに中古はいらない。まっさらな新品状態でなければ、ヒロインじゃないんだ。他の男と付き合った経験のあるヒロインなんて、三十路の妊婦をヒロインにするくらいにあり得ない」


「酷い言われようだわ。青太って、バカでしょ?」


「ラノベ好きな人間の、一般的な考えを言ってるだけだ。俺の趣味嗜好じゃない。俺くらいの年齢になれば、ヒロインの処女性にもこだわらなくなる」


「それはそれで、節操なしになっただけの気がするわね。可愛ければなんでもいいんでしょ。なんだか、頭痛くなってきたわ」


 みどりは、頭痛をこらえるように、こめかみを押さえていた。

 青太があまりにもアホなことを言っているので、呆れたのかもしれない。


「はあ……それじゃあ、せっかく話したのに、小説には使えないの? もうネタは思い浮かばないわよ」

「いや、そうでもない。ヒロインたちが教師に惚れるって展開はなしだけど、名もない女性キャラならありだ」


 主要女性キャラの相手役は、主人公でなければならない。

 だが、どうでもいいようなキャラなら、その限りではない。


 みどりの話を聞いて、いい案が浮かんだ。

 ヒロインたちの学校の卒業生が、教師と付き合っていることにしよう。

 その事実を知ったヒロインは、恋愛対象として見ていなかった主人公を気にするようになる。

 歳の差カップルの前例があるし、卒業後なら付き合っても、と。


「いいじゃん、これ。前にみどりが言ってたことだ。実際に付き合いはしなくても、何年かすれば一歩進んだ関係になるかもって期待を持たせておける」


 みどりのおかげで、一つエピソードが増えそうだ。物語が深みを増す。


「ありがとう。約束通り、みどりの体験を元にしたエピソードは削除するよ。代わりに、今の話を使わせてもらってもいいか?」

「念のために、細部を変えておいて。当人たちに無断で使うんだし」

「分かった。そうと決まれば、さっそく書くぞ! 夜は長いんだ!」


 いいネタをもらえてご満悦な青太は、執筆を始めた。

 眠い目をこすりながら、深夜まで書き続けるのだった。

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