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ゲン担ぎ勇者は魔剣を担ぐ  作者: 堀内楚歌郎
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序章

 遥か東沃(とうよく)の地には「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があると聞きます。

 物事に全力を傾注したのであれば、その成り行きは人智の及ばない大いなる存在に委ねるしかないので、仮に良い結果にならなかったとしても悔いはないだろうという、潔くポジティブな言葉です。

 人事を尽くさない場合は「果報は寝て待て」という心境になるそうです。これも東沃の言葉です。ある意味では潔いと言えるのかもしれませんが……

 私が仕える方は、少なくとも私に見える姿は後者に近いように感じられるのですが、本人は「これが俺なりの人事の尽くし方だから」と言って聞きません。

 いえ、決して寝ているわけではありません。

 ですが、家から出る時や階段を昇り降りする時に必ず右足から踏み出すようにするとか、大きな勝負事を控える前日にはカツドン(活ドン。ドンピュエという魚の活け造りです)を食べるようにするとか、右のもみあげを切らずに伸ばし続けるとか、そのようなことに労力を割く日々を過ごしておられます。

 いわゆる「ゲンを担ぐ」ことに心血を注がれているのです。

 心身の鍛錬や勉学を疎かにしてまで、です。

 しかし本来、前述の「人事を~」の言が指すとおり、どうにもならない部分が良いほうに巡るようにという祈りがゲン担ぎであり、前提として自らの努力が必須であるはずです。

 ゲン担ぎだけを行うことに意義はあるのでしょうか?

 特に、好調が続いている時は下着を履き替えないというのは意味が分かりませんしやめてほしいです……汚れたら替えてください!

 ……失礼、私情が入りました。

 ともかく、私が仕える第77代勇者レーゲン・アラタカ様はそういうお方です。



 この世界には聖剣と魔剣、二種類の強大な力を持った剣が存在します。

 一つは我が国の国宝でもある、真の勇者しか引き抜くことができないとされ、その身とともに魔王を封印する能力と使命を帯びた、聖剣ハルブレイブ。

 一方、禍々しい魔の力を内包する魔剣は世界に一つではなく複数あると言われています。そのどれもが聖剣に匹敵あるいは凌駕する力を秘めており、過去の勇者に致命傷を与えた、大陸一つを消し炭にした、女人の衣類のみを切り裂いた等、その破壊力にまつわる逸話には枚挙に暇がありません。

 しかももれなく呪いのオプション付き。一度装備すると外せなくなる、周囲の者を無差別に斬りつける、挙句の果てに剣に魂を吸われ絶命する等、絶大な力を得られるとはいえ恐ろしくハイリスクな代物です。

 


 聖剣ハルブレイブを引き抜いた真の勇者の資格を持つレーゲン様は、当然聖剣を扱うことができます。

 しかし忘れてはならないのが、彼がゲン担ぎの鬼であること。

 そんな彼が彼の意志で選ぶ剣といえば……


「よしっ、ついに念願の魔剣を手に入れたぞ! これで俺は……『()()()』ッッ!! はっはっは!!」


 ですよねー。


「って、ちょいちょいちょい! 俺が今まで担いでた聖剣は!? 消えたんだけど! 代わりに魔剣が背中に張り付いて……ンギギギギ、離れないし……ッ! ……ユイ、取ってくれー! っていうか、助けてー!!」


 ともかく、ここから私の冒険は幕を開けたのです。

 はぁ……

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